■お知らせ(2008/04/09)
自他動詞の分類はその後一部修正して再編成されました。
詳しくは「論文・レポート」のページをご覧ください。
修正・追加・補足の履歴
2007/02/14:分類B−2−1に「合わさる/合わせる」「縮まる/縮める」「勤まる/勤める」を追加(補注付き)
2007/02/14:分類B−2−1の「詰まる」の欄に「詰む」を、「伝わる」の欄に「伝う」の参考情報追加(補注付き)
2007/02/14:分類B−2−1の「混ざる」の欄に「混じる」を追加(補注付き)
2007/02/14:分類B−2−2に「刺す/刺さる」を追加(補注付き)
また、「挟む/挟まる」「くるむ/くるまる」に補注を追加
2007/02/14:分類C−1に「従う/従える」を追加(補注付き)
2007/02/14:分類C−2−3に「抜かす/抜ける」を追加(補注付き)し、同時にB−1の「抜く」の欄に参考情報として
「抜かす」を追加
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2007/02/02:分類C−1に「違う」「違える」、「間違う」「間違える」を追加(補注付き)
2007/02/02:分類C−1の<揃う><整う>の表記を<揃ふ><整ふ>に修正
2007/02/02:分類C−2−2に「でかす」「できる」、「尽かす」「尽くす」「尽きる」を追加(補注付き)
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2007/01/30:分類表概略の章のB−2−2のミスタイプを修正
「fusa・gu」→「fusa・geru」
2007/01/30:分類C−1に「含む」「含める」を自他動詞の認定は要検討として追加(補注付き)
■はじめに
この対応表は文法考察ファイルの#23の改訂版です。この改訂版では、口語の活用だけでなく、文語の活用も視野に入れることで、自動詞化の接辞、他動詞化の接辞の分類を統一的でかつ妥当性をもつものにしました。(#23とはグループの対応番号が異なります)
従来、日本語教師向けの自他動詞の分類というと、9〜11ほどのグループにわけ、それぞれの形態の対応を示すだけで、全体でどのような構図になっているのかまで踏み込んで分類されているものはありませんでした。学習者に対して、たとえ「規則はあっても複雑だから、一つ一つ覚えるのがいい」と言うことになったとしても、教師側はその分類規則がどのような文法的な背景をもって存在するのか、ミクロの視点だけではなくマクロの視点でとらえておくことが必要だと思います。
この分類表が自他動詞のペアがどのような理由でどのような形態をとっているのか理解する一助になればと思います。
■今回の改訂版のポイント(この分類表で何がわかるか)
ポイント(1) 五段動詞の送り仮名(元の#23の主目的)に二つのタイプが生じる理由
自他のペアの動詞では、五段動詞の送り仮名が通則1(:この通則については下に詳しく記す)に従わないものがある。そのような五段動詞は、対応する自動詞または他動詞の表記が元になっているためだと説明されている。(=通則2)
例)「うごかす」というのは五段動詞だが、送り仮名は「動かす」で、「動す」ではない。
これは元になる「うごく」が「動く」と表記するので、それにあわせて、五段動詞で
あっても、「動かす」と表記される。
この分類表を見れば、自他の対応でどのようなグループがそのような通則2が適用されているのかがわかる。
【参考】
この分類表によれば、原則として分類B−2、C−2、C−3で通則2が適用される。
逆に見れば、分類A、分類BとCの1では適用されないことがわかる。
ポイント(2) 「自動詞化辞」と「他動詞化辞」について
上の(1)では、何のことわりもなく「元になる」動詞と書いたが、そもそも自他のうち、どちらのほうが元でどちらが派生したのか、どうやって判別するのか。
ペアとなる自他動詞の形態上の特徴は、大きく3つに分けられる。
(A)共通語幹に「自動詞化辞」と「他動詞化辞」がついたペア
(B)他動詞から自動詞が派生したペア(自動詞化辞がついたもの)
(C)自動詞から他動詞が派生したペア(他動詞化辞がついたもの)
従来の分類では、口語の形態でペアを提示しているので、特に(B)(C)において、なぜそれが派生形だと言えるのかがわかりにくい。
そこで、この改訂版分類表では、文語の活用形に視点をあてることで、(A)(B)(C)のグループ分けがはっきりわかるようになっている。
ポイント(3) 「-er-」という接辞について
ポイント(2)によって、これまで自動詞化にも他動詞化にも使われるとしてその存在理由が疑問詞されていた「—er—」という接辞についても、妥当な評価をくだすことができると考えるが、このファイルでは、分類表の提示が目的なので、より詳しいことは別の考察に譲る。
例「焼く」 (yak-u)他動詞 → 「焼ける」(yak-er-u)自動詞
「開く」 (
ak-u)自動詞 → 「開ける」( ak-er-u)他動詞
ポイント(4) 3つ以上の自他動詞の対応をもつものについて
文語の活用を視野に入れることによって、なぜそのような対応になったのか、また意味的に対応していないのはなぜなのかが見えてくる。
3つ以上の自他動詞の対応をもつものについては、注にて解説をつけた。
■この分類の方針・概略
今回の改訂版の分類表は次の方針で作られている。
1 自動詞と他動詞の判定は、統語上、対象の「ヲ格補語」をとるかどうかで行った。
2 一部「ニ格補語」をとる他動詞については、注をつけた。
3 形態上の自他の対応になっているが、上の1、2の条件に合わないものは、参考情報
として別の欄にまとめた。
※対象の「ヲ格」をとっていても意味概念上は自動詞に近い動詞があり、形態上も
自他のペアになっている場合に他の典型的なものとは区別して記録しておく。
4 分類は、単に同じ形態の対立を一つのグループにするだけでなく、それが全体の中で
どのような位置にあるのかはっきりさせた。
具体的には、上のポイントに示したように、A、B、Cにわけ、その中で、具体的に
自動詞化辞と他動詞化辞の種類によって下位分類した。
5 単に自動詞と他動詞を列挙するのではなく、五段活用と一段活用のどちらなのかも
わかるように整理し、必要に応じて、文語の活用形ものせた。
■主要参考文献
1 『日本語のシンタクスと意味1』寺村秀夫(くろしお出版)
2 『日本語文法入門』吉川武時(アルク)
3 『動詞意味論 —言語と認知の接点—』影山太郎(くろしお出版)
4 『文法と語形成』影山太郎(ひつじ書房)
※基本的なグループ分け、用例収集については、文献1、2を中心に行っている。
※自動詞化辞、他動詞化辞による統一的なグループ分けは、文型3、4を参考にしている。
※文語文法の活用を考慮した下位分類は小柳による。
■『送り仮名の付け方』について
[通則1]
<本則>活用語尾を送る
つまり、五段動詞「うごく」なら「動く」となる。
[通則2]
<本則>活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の仮名の付け方によって送る
つまり、五段動詞「うごかす」は<本則1>に従えば、「動す」になるところだが、「うごかす」には自動詞の「うごく」が含まれていると考えるので「動く」→「動かす」と「〜かす」が送り仮名となる。
このように自他動詞の対立によって送り仮名が本則1に従わないグループが何かを見ることがこの分類表の第一の課題である。
■分類表中の記号について
※ 印の単語が<通則1>に従わないもの
@ <通則2>の『元になっている動詞』と考えられる動詞
例: ※○○ ←@●●
:●●が元の動詞で、○○の送り仮名は●●に従う。
また、自他動詞の対応が不規則または複数ある場合に、元になっていると考えられる動詞
例: ※○○ ※●● @××
:自他動詞ともに通則1に従わないのは、××の動詞が元になっているためである。
☆ 自他動詞が意味上(一部)対立しないもの
< >文語文法の活用による終止形
�@注:この情報が提示されている欄は便宜的にスペースをとっているので、メインの
表組の動詞分類(自・他/一段・五段)にあっているわけではない。
■分類表概略
大きくA、B、Cの3つのグループわけ、その中で下位分類をした。
形態を仮名で書くほうが見やすいが、対立を正確に把握するには、ローマ字表記にする必要があるので、ここでは併用(併記)してある。< >は文語の語形
グループA:共通語幹に「他動詞化辞」の「・s—」と「自動詞化辞」の「・r—」がついたペア
(「・す」) (「・る」)
下位分類 A—1 「・す」 対「・る」
例:渡す「wata・su」 対 渡る「wata・ru」
A−2 「・す」 対「・れる」(「・れる」は文語では「・る」下二段活用)
例:流す「naga・su」 対 流れる「naga・reru」
↑ ↑
<流す>「naga・su」 対 <流る>「naga・ru」
四段活用 下二段活用
A−3 「・せる」対「・る」 (「・せる」は文語では「・す」下二段活用)
例:寄せる「yo・seru」 対 寄る「yo・ru」
↑ ↑
<寄す>「yo・su」」 対 <寄る>「yo・ru」
下二段活用 四段活用
グループB:他動詞(の終止形「—u」)が元で、その語幹に「自動詞化辞」の「—er—」
または「—ar—」がついて自動詞が派生したペア
下位分類 B—1 自動詞化辞が「—er—」 ★文語では自他同形、活用形のみ異なる
(「—eる」)
1)意味概念が「完全体⇒非完全体」になる動詞
例:切る「kir・u」 対 切れる「kir・eru」
↑ ↑
<切る>四段 (同形)<切る>下二段
2)生産動詞(対象が生産物になる動詞)
例:炊く「tak・u」 対 炊ける「tak・eru」
↑ ↑
<炊く>四段 (同形)<炊く>下二段
3)その他
例:売る「ur・u」 対 売れる「ur・eru」
↑ ↑
<売る>四段 (同形)<売る>下二段
B−2 自動詞化辞が「—ar—」
(「—aる」)
2−1 他動詞の終止形が「—e・る」(文語では「—u」下二段活用)
例:上げる「ag・eru」 対 上がる「ag・aru」
↑ ↑
<上ぐ>「ag・u」」 対 <上がる>「ag・aru」
下二段活用 四段活用
2−2 2−1とベースは同じだが、文語他動詞が下二段と四段活用の二つ
があり、口語では四段活用が残ったため、見かけ上は、終止形が
「—u」の他動詞とペアをなしているように見えるもの
例:塞ぐ「fusa・gu」 対 塞がる「fusa・garu」
↑ ↑
<塞ぐ>「fusa・gu」 対 <塞がる>「fusa・garu」
四段活用 四段活用
(塞げる「fusa・geru」 対 塞がる「fusa・garu」)
↑ ↑
<塞ぐ>「fusa・gu」 対 <塞がる>「fusa・garu」
下二段活用 四段活用
グループC:自動詞(の終止形「—u」)が元で、その語幹に「他動詞化辞」の「—er—」か、
「—as—」またはその異形態の「—os—」がついて他動詞が派生したペア
下位分類 C−1 他動詞化辞が「—er—」 ★文語では自他同形、活用形のみ異なる
(「—eる」)
例:開く「ak・u」 対 開ける「ak・eru」
↑ ↑
<開く>四段 (同形) <開く>下二段
C−2 他動詞化辞が「—as—」
(「—aす」)
2−1 自動詞の終止形が「—u」 (文語でも「—u」)
例:動く「ugok・u」 対 動かす「ugok・asu」
2−2 自動詞の終止形が「—i・る」 (文語では「—u」上二段活用)
例:生きる「ik・iru」 対 生かす「ik・asu」
↑ ↑
<生く>「ik・u」 対 <生かす>「ik・asu」
上二段 四段
2−3 自動詞の終止形が「—e・る」(文語では「—u」下二段活用)
例:溶ける「tok・eru」 対 溶かす「tok・asu」
↑ ↑
<溶く>「tok・u」 対 <溶かす>「tok・asu」
下二段 四段
C−3 他動詞化辞が「—os—」
(「—o・す」)
3−1 自動詞の終止形が「—u」 (文語でも「—u」)
例:及ぶ「oyob・u」 対 及ぼす「oyob・osu」
3−2 自動詞の終止形が「—i・る」 (文語では「—u」上二段活用)
例:起きる「ok・iru」 対 起こす「ok・osu」
↑
<起く>「ok・u」 対 <起こす>「ok・osu」
上二段 四段
グループD:分類不能(個別に対応する自他動詞)
【解説】
これまでのように単に口語の形態の対立からグループを9〜11ほどに分類していたのでは、「自動詞化」と「他動詞化」を担う接辞は分かりにくかったが、文語の活用にも視点をあてることで、主要なペア動詞は、ほぼすべて上に示したようにA、B、Cに分類できる。
グループAの対応が示すとおり、自動詞化接辞の基本は「・r—」(「・る」)で、 他動詞化辞の基本は「・s—」(「・す」)である。「・す」は「す(=する)」の形態(音)と無関係ではないと思われる。グループBとCについても、派生自動詞は「・る」(「—e・る」「—a・る」)で、派生他動詞は「・す」(「—a・す」「—o・す」)になっている。
例外なのが、上のポイントにも書いた「—er—」(「—e・る」)である。しかし、下位分類をよく観察すればわかるように、この接辞は他の接辞とは出自が異なる。
・他動詞から自動詞へ ★接辞は二つのタイプに分けられる
元になる他動詞 「—u」 「—u」
↓ ↓
派生する自動詞 「—e・る」 「—a・る」
自動化タイプ1 自動化タイプ2
・自動詞から他動詞へ ★接辞は二つ(具体的には三つ)のタイプに分けられる
元になる自動詞 「—u」 「—u」 「—u」
↓ ↓ ↓
派生する他動詞 「—e・る」 「—a・す」 「—o・す」
他動化タイプ1 他動化タイプ2 他動化タイプ2’
それぞれのタイプ2は、文語の活用に視点をあてれば、基本的な自動詞化または他動詞化の接辞(「・る」と「・す」)の対応になっている。
一方タイプ1の「—e・る」のペア動詞は、文語においては自他(の終止形が)同形で、活用のタイプが異なっていた。四段活用の動詞のほうが元になって、もう一方の下二段活用の動詞が口語で下一段活用に移行して、「—e・る」の形態をもつようになった。つまり、文語では活用タイプの違いが、自動詞と他動詞の意味の区別に関係していたわけである。
例)他動詞が元になった場合
★終止形は同形
|
文語四段 「焼く」他動詞 → 口語五段 「焼く」 他動詞
文語下二段「焼く」自動詞 → 口語下一段「焼ける」自動詞
例)自動詞が元になった場合
★終止形は同形
|
文語四段 「開く」自動詞 → 口語五段 「開く」 自動詞
文語下二段「開く」他動詞 → 口語下一段「開ける」他動詞
したがって、この問題は、より根本的には、次の疑問に還元される。
★なぜ文語「焼く」では、自動詞が下二段活用で、他動詞が四段活用だったのか?
★なぜ文語「開く」では、他動詞が下二段活用で、自動詞が四段活用だったのか?
この先の考察については、稿を改めるが、次の点については指摘しておきたい。
自動詞と他動詞が同形ということは、共通した意味概念構造をベースにしているということである。そして、自動詞で使う場合と他動詞で使う場合を活用形で区別していた。逆に言えば活用形だけで区別できるほど、両者には共通したものを持っていたと見ることができる。
■分類表
グループA 共通語幹に「他動詞化辞
-s-」と「自動詞化辞 -r-」の両方がつく
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ A−1 |
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|
他動詞化辞【・す】 |
自動詞化辞【・る】 |
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|
渡す |
渡る |
|
|
下す |
下る |
|
|
移す |
移る |
|
|
写す |
写る |
|
|
帰す |
帰る |
|
|
返す |
返る |
|
|
直す |
直る |
|
|
残す |
残る |
|
|
通す |
通る |
|
|
回す |
回る |
|
|
|
|
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|
※起こす(注1) |
※起こる |
|
@起きる←<起く> |
|
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|
|
グループ A−1’ |
|
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足す☆ |
<足る>(注2) |
|
足りる☆ |
注1)
文語「起く」(下二段)が口語「起きる」へ移行。
「起こす」「起こる」は、動詞は「起きる」<起く>が元になっていると考えられるためどちらも通則1には従わない。
※文語自動詞の「起く」から「起こす」が派生(グループC−3−2を参照)し、それに対応する自動詞として、「起こる」が生まれたと考える。
注2)
文語自動詞「足る」が他動詞「足す」とペアになっているので、ここに分類する。
※「足る」は現在でも定型句として使用される。(「信頼にたる人物」など)文語「足る」(四段)は一段動詞化を経て、口語の「足りる」になった。また、「足す」と「足りる」は、「用を足す」「用が足りる」、「〜に水を足す」「水が足りる」などでは意味上対応するが、「足し算」の場合は対応しない。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ A—2 |
|
|
(注3) |
他動詞化辞【・す】 |
|
|
【・れる】←自動詞化辞<・る> |
流す←<流す>四段 |
|
|
流れる←<流る>下二段 |
離す |
|
|
離れる←<離る> |
隠す |
|
|
隠れる←<隠る> |
崩す |
|
|
崩れる←<崩る> |
汚す(よごす) |
|
|
汚れる←<汚る> |
汚す(けがす) |
|
|
汚れる←<汚る> |
倒す |
|
|
倒れる←<倒る> |
壊す |
|
|
壊れる←<壊る> |
現す (注4) |
|
|
現れる←<現る> |
表す (注4) |
|
|
表れる←<表る> |
|
|
|
|
※剥がす @<剥ぐ>(注5) |
|
|
※剥がれる←<剥がる> @<剥ぐ>(注5) |
注3)
このグループの自動詞は文語で下二段だったが、口語で下一段に移行したことで、自動詞の活用語尾が「る」から「れる」になった。文語でみれば、Aグループに共通する「す」と「る」の対立がある。
注4)
通則1の<許容>によって次のように送ることもできる
現わす、表わす / 現われる、表われる
注5)
口語では「剥ぐ」は他動詞として使われるが、文語では他動詞(四段)の「剥ぐ」とは別に自動詞(下二段)の「剥ぐ」があった。つまり、文語では自動詞が「剥ぐ」と「剥がる」の二つあったことになる。「剥がれる」「剥がす」が通則1に従わないのは「剥ぐ」が元になっているためである。
(「はぐ」については、B−1も参照のこと)
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ A−3 |
|
|
|
|
自動詞化辞【・る】 |
【・せる】 注6 ←他動詞化辞<・す> |
自動詞化辞【・る】 |
|
寄る<寄る>四段 |
寄せる←<寄す>下二段 |
|
|
乗る<乗る>四段 |
乗せる←<乗す>下二段 |
|
|
|
|
|
|
|
似せる←<似す>下二段 |
似る<似る>上一 |
|
|
|
|
|
*形態のみ対応する 動詞 |
自他の認定は要検討(注7) |
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|
|
見せる←<見す>下二段 |
見る<見る>上一 |
|
|
着せる←<着す>下二段 |
着る<着る>上一 |
|
|
|
|
|
|
浴びせる←<浴びす>下二段 |
浴びる<浴ぶ>上二 |
注6)
このグループの他動詞は文語で下二段活用だったが、口語で下一段に移行。
文語でみれば、Aグループに共通する「す」と「る」の対立がある。口語に移行したことで、他動詞の活用語尾が「す」から「せる」になった。
※このグループをAに含めるのが妥当かどうかはさらに検討する必要がある。
注7)
通常「見る」「着る」「浴びる」は対象に「ヲ格補語」をとるが、「着る」「浴びる」は動作が自分自身に及びため<再帰的>な意味になる。そこで自動詞的だと判断することも可能。「見る」は英語の「look (at)」と考えれば自動詞とみなせるかもしれない。「浴びる」は口語では「・る」だが、文語では「・ぶ」なので形態の対応が上とは違う。口語になってからの比較的新しいペアだと言える。
グループB 他動詞が元で、共通語幹に「自動詞化辞」がついて自動詞が派生した
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ B−1(注8) |
|
|
|
【−u】 ←<—u>四段 |
|
|
自動詞化辞【−e・る】 ←<—u>下二段 |
1)「完全体→非完全体」 |
(注9) |
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焼く←<焼く>以下同じ |
|
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焼ける←<焼く> |
抜く (抜かす)補注1 |
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|
抜ける←<抜く> |
砕く |
|
|
砕ける←<砕く> |
欠く |
|
|
欠ける←<欠く> |
裂く |
|
|
避ける←<裂く> |
解く(とく) |
|
|
解ける←<解く> |
解く(ほどく) |
|
|
解ける←<解く> |
剥く(むく) |
|
|
剥ける←<剥く> |
剥ぐ(はぐ) |
|
|
剥げる←<剥ぐ>(注10) |
脱ぐ |
|
|
脱げる←<脱ぐ> |
もぐ |
|
|
もげる←<もぐ> |
切る |
|
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切れる←<切る> |
折る |
|
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折れる←<折る> |
破る |
|
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破れる←<破る> |
取る |
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取れる←<取る> |
割る |
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割れる←<割る> |
掘る |
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掘れる←<掘る>(注11) |
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2)生産動詞 |
(注12) |
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炊く |
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炊ける <——> 見出しあり |
編む |
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編める <——> 見出しなし |
織る |
|
|
織れる <——> 見出しなし |
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3)その他 |
(注13) |
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売る |
|
|
売れる←<売る> |
知る |
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知れる←<知る> |
釣る |
|
|
釣れる <——> |
|
|
|
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(気を)揉む |
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(気が)揉める←<揉む> |
(気を)引く |
|
|
(気が)引ける←<引く> |
開く(ひらく)☆ |
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(視界が)開ける←<開く> |
注8)
このグループは文語において自他動詞の終止形が同じだったという特徴がある。
また、このグループは他動詞の<可能態>と自動詞の形態がが同じという特徴があり、その意味概念から、自動詞が<自発態>と呼ばれることがある 。
注9)
1)の動詞は、意味特徴として、破壊、離脱、欠損など「完全体→非完全体」という変化を表す。自動詞は「みずからそうなる/勝手にそうなる」といった意味概念を持つ。
※他動詞の可能形と形態を同じだが、意味は区別される。
例)これはダイヤモンドカッターを使えば切れる (可能)
重みでひもが切れた (自動詞)
注10)
「剥ぐ」は、これ以外に「剥がれる<剥がる>」と「剥がす」の対応がある。
(A−2を参照のこと)
注11)
「掘れる」は「掘る」の可能形(可能動詞)ではなく、雨などが降って溝や穴ができるという意味の自動詞である。
※「穴が掘れる」という場合、生産動詞になっているので2)とも重なる。
注12)
2)は他動詞が生産動詞と呼ばれる特徴をもつ。意味特徴として1)と対照的な動詞である。自動詞は、1)と違って「みずからそうなる」という意味概念を持たない。それにもかかわらず、同じ接辞で自動詞化されるのは、生産動詞は、その行為者を取り外して考えたときに、生産物を「無から有」の発生だと見ることができるからだろう。この発生という概念は、1)との共通意識を生む。それは「自然に〜なる/勝手に〜なる」という意味概念である。このような共通意識に支えられて「eる」で自動詞化されたと思われる。
※この2)の動詞は文語においては、自動詞「炊く」「編む」「織る」はなかったようである。
※また、可能形(可能動詞)ではなく自動詞として「編める」「織れる」を使うことはまだ一般的ではないようで、大辞林(2版)には登録されていない。あくまでこのグループの典型は1)で、2)はその拡張だと思われる。
※1)の中にも生産動詞として使われるものもある。
例)「焼ける」:家を焼く / パンを焼く(生産動詞)
「折る」 :板を折る / 鶴を折る (生産動詞)
注13)
3)の動詞も、可能形(可能動詞)とは区別されるが、可能形(可能動詞)から自発の意味を表す自動詞になったと考えられる。
※自動詞が対象物の属性を表すという点で、この自動詞(自発)は、可能の「属性を表す可能」と接点を持つ。
例)これは母の遺品なので、私にはとても売れない。(可能)
こういう本はよく売れる。(自動詞)
例)おまえにはこの魚は釣れないよ。(可能)
このへんの海ではけっこう大きな魚がよく釣れる。(自動詞)
ただし、「売れる」の場合には、売り手を離れて「良い本はみずから売れるようになる」という見方もできるので、その点では1)のグループに近いものがある。
※「知れる」は可能と自動詞(自発)の区別が微妙だが、次のような例を参考のこと。
例)得体の知れないもの (可能)
このことが相手に知れたら大変だ。(自動詞<自発>)
比較:知られたら (他動詞<受身>)
補注1)
他動詞には「抜く」のほかに、「抜かす」という形もある。これは自動詞「抜ける」から規則的に派生した(C−2−3)他動詞だと考えられる。「一人が抜ける/一人を抜かして数える」の意味で自他の対応が見られ、「抜く/抜ける」とは棲み分けがされている。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ B—2−1 |
|
注14 |
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自動詞化辞【−a・る】 ←<—a・る>四段 |
【−e・る】 ←<—u>下二段 |
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※見つかる<見つかる> |
※見つける←<見つく> |
(@見る) |
|
※掛かる |
←@掛ける←<掛く> |
|
|
※助かる |
←@助ける←<助く> |
|
|
※負かる☆(注15) |
←@負ける☆←<負く> |
|
|
※分かる☆(注16) |
←@分ける☆←<分く> |
<分かる> ↓ ※分かれる |
|
※上がる |
←@上げる←<上ぐ> |
|
|
※挙がる |
←@挙げる←<挙ぐ> |
|
|
※揚がる |
←@揚げる←<揚ぐ> |
|
|
※下がる |
←@下げる←<下ぐ> |
|
|
※曲がる |
←@曲げる←<曲ぐ> |
|
|
※被さる(かぶさる) |
←@被せる←<被す> |
|
|
※合(わ)さる 補注1 (合う←<合ふ>) |
←@合(わ)せる←<合す> |
|
|
※混ざる (混じる) 補注2 |
←@混ぜる←<混ず> |
|
|
※当たる |
←@当てる←<当つ> |
|
|
※重なる |
←@重ねる←<重ぬ> |
|
|
※連なる |
←@連ねる←<連ぬ> |
|
|
※決まる |
←@決める←<決む> |
|
|
※止まる |
←@止める←<止む> |
|
|
※集まる |
←@集める←<集む> |
|
|
※休まる (休む←<休む>四段) |
←@休める←<休む> (注17) |
|
|
※縮まる (縮む←<縮む>四段) |
→@縮める←<縮む> (補注3) |
|
|
※閉まる |
←@閉める←<閉む> |
|
|
※温まる |
←@温める←<温む> |
|
|
※始まる |
←@始める←<始む> |
|
|
※固まる |
←@固める←<固む> |
|
|
※染まる |
←@染める←<染む> |
|
|
※定まる |
←@定める←<定む> |
|
|
※詰まる (詰む←<詰む>四段) |
←@詰める←<詰む> (補注4) |
|
|
※薄まる |
←@薄める←<薄む> |
|
|
※丸まる |
←@丸める←<丸む> |
|
|
※炒まる (注18) |
←@炒める←<炒む> |
|
|
※変わる |
←@変える←<変ふ> |
|
|
※終わる |
←@終える←<終ふ> |
|
|
※伝わる (伝う←<伝う>四段) |
←@伝える←<伝ふ> (補注5) |
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|
※備わる |
←@備える←<備ふ> |
|
|
※加わる |
←@加える←<加ふ> |
|
|
※植わる |
←@植える←<植う> |
|
|
※据わる |
←@据える←<据う> |
|
|
|
|
|
|
※つとまる 勤まる 務まる |
←@つとめる←<つとむ> 勤める (補注6) 務める |
|
|
|
|
|
|
※受かる (注19) |
←@受ける←<受く> |
|
|
※儲かる (注19) |
←@儲ける←<儲く> |
|
|
|
|
|
|
*形態のみ対応する動詞 |
自他の認定は要検討 |
(注20) |
|
※預かる |
←@預ける←<預く> |
|
|
※授かる |
←@授ける←<授く> |
|
|
※教わる (おそわる) |
←@教える←<教ふ> (おしえる) |
|
注14)
文語の「下二段活用」から口語で「上一段活用」に移行。
口語の形態だけを見るとどちらが派生形なのかわからないが、このように文語の活用を見れば、他動詞が元で自動詞が派生形だとわかる。
注15)
対応するのは「値段を負ける」と「値段が負かる」。
※「山田が負ける」—「山田を負かす」はC−2−3を参照。
注16)
文語の「分かる」には、表にあるように、「分く」に対応する四段活用の「分かる」とは別に下二段活用の「分かる」があった。後者は口語で下一段へ移行し「分かれる」となり、「分かる」と「分かれる」で別の意味を担うようになった。
注17)
「休む」は文語において、四段の自動詞と下二段の他動詞が存在した。他動詞の「休む」は口語で一段動詞の「休める」に移行し、その「休める」が上の表のように「休まる」という自動詞を派生したと考える。
注18)
「炒まる」は不自然だと感じる人もいるが、かなり定着しているので掲載する。大辞林(第二版)には見出しとしては登録されていない。このグループの規則に従って作られた、比較的新しい自動詞だと思われる。
注19)
この動詞は自他で主客の交替が起こらない。
「Aが試験ヲ受ける」— 「Aが試験ニ受かる」
※しかもガではなくニ格が表れる。
「Aが金を儲ける」 — 「Aが(金が)儲かる」
注20)
意味概念上、「預かる」「授かる」「教わる」は自動詞に近いが、対象を「ヲ格」で示すので、構文上は、他動詞構文だと見られる。「教わる」は「おそわる」で「おしわる」ではない。音韻の転換も起こっている。
補注1)
自動詞には「合わせる」に対応する「合わさる」のほかに「合う」がある。「合う」は「会う」と同源なので、「あふ」から「合ふ」、そして「あはす(合す)」が生まれ、「あはす」に対応する「あはさる」が派生した考えられる。その結果、「合う」と「合わさる」の二つの自動詞が存在し、意味の棲み分けが行われている。
※送り仮名については、「合さる/合せる」が本則で、「わ」が入る「合わさる/合わせる」が許容であるが、これは派生元を<合す>とした場合であるが、現在は、「合う」を元とみる傾向が強く、「わ」を入れた表記のほうが一般的だと思われる。
補注2)
自動詞には「混ぜる」に対応する「混ざる」のほうかに「混じる」がある。「混じる」は「多数の中に少量の物が入っている」場合に使われる傾向がある。三つの形、そして「交(ぜる/ざる/じる)という表記があり、使い分けに一部混乱が見られる。
補注3)
自動詞が「縮まる」と「縮む」の二つが存在する理由は注17参照。
「縮む」は「縮まる」と違って抽象的なことには使いにくい。(「差が縮まる」など)
補注4)
自動詞が「詰まる」と「詰む」の二つが存在する理由は注17を参照。
「詰む/詰める」は将棋用語で残っている。
補注5)
自動詞が「伝わる」と「伝う」の二つが存在する理由は注17を参照。
「伝う」は現在では、「Xが<場所>を伝う」という表現形式で使われ、「伝わる」と意味の棲み分けが行われている。
補注6)
「務」は「司会を務める/が務まる」で「ヲ」「ガ」の主客交替が見られるが、「勤」のほうは、「理事長を勤める/が勤まる」の対応以外に、「勤める」が「会社に勤める」のように自動詞としても使われる。
※「〜まる」の自動詞は意味的に「可能(〜めることができる)」になっている。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ B−2−2 |
(注21) |
|
|
【−u】 |
自動詞化辞【−a・る】 ←<—a・る>四段 |
(【—e・る】 ←<—u>下二段) |
|
繋ぐ@→ |
※繋がる |
←@ 繋げる ←<繋ぐ> |
|
塞ぐ@→ |
※塞がる |
←@(塞げる)←<塞ぐ> |
|
挟む@→ |
※挟まる |
←@(???)←<挟む> |
補注1 |
刺す@→ |
※刺さる |
←@(???)←<??> |
補注2 |
|
|
|
|
絡む☆@→ |
※絡まる☆ (注22) |
←@ 絡める ←<絡む> |
|
包む☆(くるむ)@→ |
※包まる☆ (注22) |
←@(包める)←<包む> |
補注3 |
跨ぐ☆@→ |
※跨がる☆ (注22) |
←@(跨げる)←<跨ぐ> |
|
|
|
|
|
グループ B−2−2’ |
(注23) |
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|
つかむ☆ |
つかまる☆ |
つかまえる←<つかまふ> |
|
( |
※捕まる |
※(捕まえる) |
|
@(掴む)@→ |
※掴まる |
( |
|
注21)
このグループは、文語において(終止)形が同じ他動詞が下二段と四段で二つあった点がユニークである。B−2−1と同じベースを持ちながら、文語他動詞の下二段のほうは口語では廃れ、四段のほうが口語に引き継がれた。
※ただし、「つなげる」や「からめる」、「つかまえる」などは口語でも使われ、他動詞が二つ存在するようになっている。
※文語だけ見ればB−2−1だが、口語の形態に合わせて、他動詞(五段)の形態と自動詞(五段)の形態のペアとして下位分類をした。
注22)
この三つの動詞は自他において主客の交替が起こらず、意味もきちんと対応していない。
「AがBに絡む」—「Aが(Bに)絡まる」
「AがBを(Cで)くるむ」—「AがCにくるまる」
「AがBをまたぐ」—「AがBにまたがる(股がる)
注23)
「つかまえる」という動詞は文語では「つまかふ」で、上の動詞とは対応が異なる。しかし、五段動詞の自他の対応が上の動詞と同じであり、また「つかまふ」の語源として「つかむ+ふ(反復)」という説があり、異なる語であっても共通点があるのでこのグループに入れておく。
※「掴む」は「掴まる」と形態上対応するが、主客の交替は起こらない。
「Aが棒をつかむ」—「Aが棒につかまる」
×「棒がつかまる」とは言わない。
※「(犯人が)捕まる」に意味上対応するのは「(犯人を)捕まえる」である。
補注1
大辞林(2版)では、文語(マ行下二段)に「挟む」があったことは確認できたが、「挟める」という他動詞が存在したかは確認できなかった。
補注2
「刺す」は口語において、同じ形態で自他の対応があるが、このグループの基盤となっている、文語にマ行下二段「刺す」があったかは確認できていない。
補注3
現代語では「言いくるめる」などの複合に、他動詞の「包める」のあとが認められる。
グループC 自動詞が元で、共通語幹に「他動詞化辞」がついて他動詞が派生した
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—1 |
|
(注24) |
|
|
【−u】 ←<—u>四段 |
他動詞化辞【−e・る】 ←<—u>下二段 |
|
|
揃う←<揃ふ> 以下同じ |
揃える←<揃ふ> |
|
|
整う |
整える←<整ふ> |
|
|
違う |
違える←<違ふ> |
|
|
間違う |
間違える←<間違ふ> |
(補注2) |
|
従う |
従える←<従ふ> |
(補注3) |
|
開く(あく) |
開ける←<開く> |
|
|
空く |
空ける←<空く> |
|
|
付く |
付ける←<付く> |
|
|
続く |
続ける←<続く> |
|
|
傾く |
傾ける←<傾く> |
|
|
届く |
届ける←<届く> |
|
|
落ち着く |
落ち着ける←<落ち着く> |
|
|
※近づく |
※近づける←<近づく> |
(@近い) |
|
立つ |
立てる←<立つ> |
|
|
建つ |
建てる←<建つ> |
|
|
育つ |
育てる←<育つ> |
|
|
並ぶ |
並べる←<並ぶ> |
|
|
※浮かぶ (@浮く) |
※浮かべる←<浮かぶ> |
(注25) |
|
※赤らむ |
※赤らめる←<赤らむ> |
(@赤) |
|
休む☆ |
休める☆←<休む> |
(注26) |
|
痛む |
痛める←<痛む> |
|
|
傷む |
傷める←<傷む> |
|
|
沈む |
沈める←<沈む> |
|
|
進む |
進める←<進む> |
|
|
縮む |
縮める←<縮む> |
|
|
止む(やむ)☆ |
止める☆←<止む> |
|
|
込む |
込める☆←<込む> |
|
|
緩む |
緩める←<緩む> |
|
|
入る(いる) (入る はいる)(注26) |
入れる←<入る> |
|
|
|
|
|
|
*形態のみ対応する動詞 |
自他の認定は要検討 |
|
|
含む |
含める←<含む> |
(補注1) |
注24)
このグループはB−1のように、文語において自他動詞の終止形が同じだったという特徴がある。そして、自動詞の可能形(可能動詞)が他動詞と同じ形になっている。
※したがって、自動詞のうち意思動詞は、形の上では可能動詞と他動詞が同じになる。
「進む」—「進める」 行き止まりだからこれ以上進めない。(可能)
計画をさらに進める。(他動詞)
注25)
「浮かぶ」という自動詞のほかに、「浮く」という自動詞があるため、「浮かぶ」も「浮かべる」の通則1には従わない。
注26)
自他で主客が交替しない。
「Aが休む」—「Aが体を休める」
主客が交替するのは、「休む」の使役態を使った場合。
「Aが休む」—「XがAを休ませる」
※「休む」については、B−2−1の「休まる」—「休める」も参照のこと。
注27)
「入る」(はいる)は『這入る』(はいいる)が変化したもの。
補注1)
「含む」は「AはBを含む」で「ヲ格」を取るが、意味を考えると、「Aの中にBが入っている」で、自動詞的である。その一方で、「BがAに含まれる」という直接受け身が成立するので他動詞の特徴もしっかり備えているという特殊な動詞であると考えられる。
参考情報→日本語オンラインの掲示板「含む」「含める」について
補注2)
「間違う」は現在は、自動詞の用法とは別に「〜を間違う 」の他動詞用法もある。自動詞「間違う」の意味の展開、拡張と他動詞「間違える」の意味の縮小については、文法考察ファイル #42に詳しく書かれています。
参考情報→#42「間違う」と「間違える」の意味と用法を考える。
補注3)
「従う/従える」は主客の格の交替が他の動詞とは異なり、対応する意味も若干異なる。
「XがYに従う」対「YがXを従える」
「XがYに従う」の他動詞(使役)表現は、「従える」ではなく「YがXを(自分に)従わせる」か「第三者がXをYに従わせる」のように、どちらにしても構文的な使役文になる。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—2−1 |
|
|
|
他動詞化辞【−a・す】(注28) |
【−u】 |
|
|
※動かす |
←@動く |
|
|
※沸かす |
←@沸く |
|
|
※乾かす |
←@乾く |
|
|
※減らす |
←@減る |
|
|
※照らす |
←@照る |
|
|
|
|
|
|
※漏らす☆ |
←@漏る☆ (注29) |
|
<漏る> 下二段 |
注28)
このグループの他動詞は自動詞の<使役態>とつながりがある。「驚く」の<使役態>は「驚かせる」だが、「驚かす」の形も存在する。「脱ぐ」→「脱がせる/脱がす」、「滑る」→「滑らせる/滑らす」などもそうである
一般に「〜せる」→「〜す」の変化は多く、それらはこのグループには入れていない。このグループには通常の<使役態>が使われず「〜す」が他動詞として定着したもののみを扱った。
注29)
文語の自動詞「漏る」には四段活用と下二段活用があった。
形態の対応を見ると、自動詞「漏る」(四段)と他動詞「漏らす」(四段)がペアになるが、意味上対応していない。
「雨が漏る」— ×「雨を漏らす」
この五段活用の「漏る」は自然発生的な意味で使われる(非対格)自動詞だと考えられ、「漏らす」とペアになるのは、むしろ文語下二段の「漏る」で口語の「漏れる」とみるのが妥当だと思われる。「漏らす」—「漏れる」はグループC−2−3を参照。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—2−2 |
|
|
|
他動詞化辞【−a・す】 |
|
(注31) |
【−i・ru】(注30) ←<−u>上二段 |
※生かす |
|
(生ける←<生く>) |
←@生きる←<生く>(注32) |
※満たす☆ |
|
(———←<満つ>) |
←@満ちる☆←<満つ>(注32) |
※延ばす |
|
(延べる←<延ぶ>) |
←@延びる←<延ぶ> |
※伸ばす |
|
(伸べる←<伸ぶ>) |
←@伸びる←<伸ぶ> |
|
|
|
|
※尽かす (尽くす)補注1 |
|
(———←<尽く>) |
←@尽きる←<尽く> |
出来す(でかす) |
|
(でける) 補注2 |
出来る(できる) ←<でくる> ←<@出来(でく)>カ変 |
注30)
文語の自動詞「上二段活用」から口語の「上一段動詞」へ移行。
文語の対応を見れば、グループC−2グループの共通点がわかる。
注31)
このグループの動詞は、文語において、同形の自動詞と他動詞をもっていた。上二段の自動詞は口語で上一段に移行した。下二段の他動詞は口語で廃れたが、「生ける」のように口語で現在も使われているものもある。
※「のべる」は「手をのべる」または「手を差しのべる」などでは使われる。
※「満てる」「尽ける」という一段動詞を派生していたかどうかは未確認。
注32)
文語の「生く」「満つ」には(より古い形として)四段活用もあった。
「満つ」の四段活用については、口語においても未然形で「満たない」という形で使われている。
補注1)
「尽きる」は現代語においては、「愛想が尽きる」「愛想を尽かす」という意味でのみ、規則的な対応を見せるが、他動詞の基本的な意味は「尽くす」が担っている。文語においては、自動詞「尽く」に対して、他動詞「尽くす」がペアとして存在しており、その後「尽かす」が派生したと考えられる。
補注2)
「でける」は、自動詞で近世になってから生まれた動詞らしい。したがって形態上は他の動詞と共通したものがあるが、他動詞ではなく自動詞として使われているようだ。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—2−3 |
|
|
|
他動詞化辞【−a・す】 |
|
|
【−e・ru】(注33) ←<−u>下二段 |
※溶かす |
|
|
←@溶ける←<溶く> |
※負かす |
|
|
←@負ける←<負く> |
※抜かす (抜く)(補注1) |
|
|
←@抜ける←<抜く> |
※焦がす |
|
|
←@焦げる←<焦ぐ> |
※逃がす |
|
|
←@逃げる←<逃ぐ> |
※覚ます |
|
|
←@覚める←<覚む> |
※冷ます |
|
|
←@冷める←<冷む> |
※癒やす/癒す(注35) |
|
|
←@癒える←<癒ゆ> |
※肥やす |
|
|
←@肥える←<肥ゆ> |
※絶やす |
|
|
←@絶える←<絶ゆ> |
※生やす |
|
|
←@生える←<生ゆ> |
※冷やす |
|
|
←@冷える←<冷ゆ> |
※増やす |
|
|
←@増える←<増ゆ> |
※燃やす |
|
|
←@燃える←<燃ゆ> |
※荒らす |
|
|
←@荒れる←<荒る> |
※慣らす |
|
|
←@慣れる←<慣る> |
※枯らす |
|
|
←@枯れる←<枯る> |
※揺らす |
|
|
←@揺れる←<揺る> |
※濡らす |
|
|
←@濡れる←<濡る> |
※漏らす |
<漏る> 四段 |
|
←@漏れる←<漏る>(注35) |
※遅らす(注36) |
|
(遅らせる) ↑<遅らす>下二段 |
←@遅れる←<遅る> |
※暮らす☆ |
|
|
←@暮れる☆←<暮る> |
※晴らす☆ |
|
|
←@晴れる☆←<晴る> |
出す(だす)(注37) |
|
|
←@出る(でる)←<づ>(注38) |
注33)
文語の自動詞「下二段活用」から口語の「下一段動詞」へ移行。
文語の対応を見れば、グループC−2グループの共通点がわかる。
注34)
「いやす」には、「癒す」と「癒やす」の二つの表記があるが、「癒える」が古くから使われた動詞だったのに対して、「いやす」は比較的新しい動詞だったため、五段動詞の表記の通則1に従って「癒す」と表記することも少なくない。しかし、自他の対応規則に従えば「癒やす」になる。
※「いやし」という名詞になった場合には、その新しさが強く前面に出て「癒し」と表記するほうが多くなると考えられる。
注35)
文語においては、自動詞「漏る」は四段活用と下二段活用の二つがあった。
下二段のほうは口語で「漏れる」に移行し、「漏れる」—「漏らす」というペアになったが、四段活用の「漏る」はそのまま口語に引き継がれている。
※C−2−2も参照のこと。
注36)
「遅れる」は他動詞「遅らす」と平行して「遅らせる」という他動詞をもつ。
※文語において「遅らす」が四段と下二段の二つの活用があったことによる。四段はそのまま五段に移行し、下二段は口語で「遅らせる」になった。
注37)
「出す」は語幹と活用語尾が重なるため、 対応する自動詞がこのグループにおいて唯一※にならない
。
注38)
文語「出づ(いづ)」(下二段)は、「づる」という形を経て、口語の「でる」に移行。
補注1)
「抜く」はB−1に示したように、文語において(終止)形が同じ自動詞「抜く」(下二段)と他動詞「抜く」(四段)があった。四段の「抜く」はそのまま五段の「抜く」として口語に残り、それとは別に、下二段の「抜く」が下一段の「抜ける」となり、それに対応する他動詞として「抜かす」が生まれたと考えられる。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—3−1(注39) |
|
|
|
他動詞化辞【−o・す】 |
【−u】 |
|
|
−o・す |
−u |
|
|
※及ぼす |
←@及ぶ |
|
|
注39)
グループC−2が「-asu」で他動詞化したのに対して、このC—3グループは「-osu」で他動詞化された。「-asu」の異形態と考えられる。
このC−3−1は、形態上、C−2−1のパターンに対応している。
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
グループ C—3−2 |
|
|
(注40) |
他動詞化辞【−o・す】 |
|
|
【−i・ru】 ←<−u>上二段 |
※起こす |
|
|
←@起きる←<起く> |
※過ごす |
|
|
←@過ぎる←<過ぐ> |
※落とす |
|
|
←@落ちる←<落つ> |
※降ろす |
|
|
←@降りる←<降る> |
※下ろす |
|
|
←@下りる←<下る> |
※滅ぼす |
|
|
←@滅びる←<滅ぶ>(注41) |
注40)
文語の自動詞「上二段活用」から口語の「上一段動詞」へ移行。文語の対応を見れば、グループC−3の共通点がわかる。
このC−3−2は、形態上、C−2−2のパターンに対応している。
注41)
「滅ぶ」は口語でも「滅びる」とともに自動詞として使われている。
グループD 分類不能(グループを構成せず。個別に対応関係がある)
五段動詞 |
|
一段動詞 |
|
他動詞 |
自動詞 |
他動詞 |
自動詞 |
その他個別に対応 |
|
|
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【−u】 |
【−o・る】 |
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積む☆→ |
※積もる☆ |
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自動詞が「・える」<・ゆ> |
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(注42) |
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【・る】 |
【・える】<・ゆ> |
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見る |
見える |
(煮やす) |
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煮る |
煮える |
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【・つ】 |
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【・える】<・ゆ> |
絶つ (絶やす) <絶つ>四段 |
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絶える <絶ゆ>下二段 |
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【—u】 |
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【—o・える】<—o・ゆ> |
聞く <聞く>四段 |
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聞こえる <聞こゆ>下二段 |
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【ke・す】 |
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【ki・える】<ki・ゆ> |
消す(けす) |
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消える(きえる) |
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*形態のみ対応する動詞 |
自他の認定は要検討 |
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【・す】 |
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【・える】<・ゆ> |
越す <越す>四段 |
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越える <越ゆ>下二段 |
注41)
自動詞は、文語において「〜ゆ」(下二段)という形をもち、口語で「〜える」という形になった。自発の意味を持つ。文語において下二段「〜ゆ」は、C−2−3でみたように「〜える」—「「〜やす」という対立をなすグループなるものがあったが、そのような規則的な対応にならないものがこれらの動詞である。
※だたし、「煮える」は「(業を)煮やす」の定型句において規則どおりの他動詞をもつ。
※口語において「・える」と対応する他動詞の形態は、上の表を観察する限り、共通語幹に「・ゆ」をつけて自動詞に、「る」/「つ」/「す」をつけて他動詞になったと見られるが、不規則な対応をしていることは確かである。