文法考察ファイル#48 「〜で止まる/止める」と「〜に止まる/止める」再考

※この考察ファイルは、勉強部屋掲示板(新)に投稿されたsaburooさんの記事と連動しています。また、以前の考察ファイル#25を踏まえています。以下の内容を読む前に、この二つに目をとおしていただくと、理解しやすいと思います。この考察についてのコメントは、どうぞ掲示板のスレッドにご投稿ください。

→掲示板の該当スレッドは[こちら
→文法考察ファイル#25は[こちら
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■今回のまとめのポイント

(1)「止める/止まる」の意味には二つの側面がある。
  (これは考察ファイル#25でも指摘しましたが、ちょっと言葉を変えてあります)
   
    (i)動的な側面:「動きアリ⇒動きなし」の変化を表す
    (ii)静的な側面:(停止後、、移動先に)とどまる、しばらく身を置く

(2)そして、(私たちの認知の仕方としては)これが連続している。

   ※必ずしも連続していると捉える必要はないかもしれませんが、下のポイントの(5)を
    理解しやすくするためにこのように考えるのがいいと思います。

    [参考]「集まる」が移動の過程を含意しながらも集合地点に焦点があたり、
        「〜に集まる」と言うように、(i)の側面がどんどん薄くなり、
        (ii)に焦点がシフトしていくと、最終的には「人が〜に泊まる」という
        構文につながると見ることができます。

(3)「〜で止まる/止める」の「で」は【限界点】を示す用法にシフトしているとみる。

   つまり、「〜で止める」は「〜を越えないで」という意味で限界点を示す。

   [参考]「3時に終わる」と「3時で終わる」の違い
       「1時に着く」と「あと10分で着く」(※今12時50分)

(4)二つの側面と「で」と「に」

   (i)の側面に焦点が与当たれば、限界点を示す「で」が使われて、運動がその位置で停止することを示す。
   (ii)の側面に焦点が当たれば、「に」が使われて、移動先(=停止後)の存在位置を示す。

(5)人は特別な地位を与えられていて、ほかの動物や物とは異なる振る舞いをする。

   ※今回は、この(5)が一番のポイントですが、一番脆弱な部分でもあります。
    (つつき甲斐があるかと思いますので、遠慮なくどうぞ。)
   ※「鳥」もちょっと特異な振る舞いをするのですが、それはあとの解説で触れることにします。   

次に以上の5点を踏まえた全体の概念図を示しておきます。

■全体の概念図

注)図が崩れないように、適当に画面のサイズを調節してご覧下さい。

図Aについて:
・後で解説をしやすいように、動的な側面が強い方を「X」、静的な側面が強い方を「Y」、その中間点で、視点の取り方で「に」も「で」も使える「Z」、さらに、特別な地位を与えられた人間の場合の「P」を記入しておきます。
・「→」と「←」は移動方向ではなく、単に、視点がどっちよりかを示しただけです。←(「で」寄り)、→(「に」寄り)
・長く引かれた罫線の下は人についての場合を取り出してあります。

図Bについて:
・図Aと縦方向で対応しています。
・「↓」は他動詞の場合の「使役主」による「対象」への働きかけをイメージしています。
・罫線で囲まれたボックスは認知の範囲と焦点を示します。
 ★Xの位置にあるボックスは、実線(のつもりです)で書かれています。
  つまり、全体に焦点が当たっています。
 ★Yの位置にあるボックスは、破線(のつもりです)で書かれています。
  つまり、停止までのプロセスは認知はされていますが、焦点が当たっているのは停止位置です。
 ★人の場合には、さらに、移動のプロセスは含意されるだけの場合があるので、それは(  )に入っています。

図A

  「動きあり」                「しばらく身を置く」
     ⇒「動きなし」            「とどまる」
   X            Z          Y
 動的|                       |静的
 側面|←←←←←←←←←←←←|→→→→→→→→→→|側面
   |で          で|に        に|
   |★限界点                ★着点|
   【止まる】      【止まる】      【止まる】
   【止める】      【止める】      【止める】
    ───────────────────────
    で                     に
   X                    P  Y
   |←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←|→→|
                         【立つ】  【泊まる】:人の場合
                         (立たせる)【泊める】:人の場合

図B
   X            Z          Y

        ↓                  ↓           
  |─────|            |---------|─|
  |●>>>●|⇒×          |○>>>>|●|
  |─────|            |---------|─|
        |
       「で」止まる             「に」止まる
          止める                止める
    ───────────────────────
                          「に」立つ
                            (立たせる)

                               ↓
                              |─|
                         (○>>> )|●|
                              |─|
                              「に」泊まる
                                 泊める

■解説

(1)物の場合(乗り物を除く)
   ★動いている物体について述べる場合は、一般的に動的側面に焦点が当たるので「で」が用いられる。
   (1)─1:ボールがちょうど下水溝の手前「で」止まった。
       2:   を          「で」止めた。

   ★目標、目的地の意識がある場合には、「に」も用いられる。
   (1)─3:ボールがちょうど狙った位置「に」止まった。
       4:   を         「に」止めた。


(2)乗り物の場合
   ★話者がどのような立場でどこにいるかで自然な文が決まる。
    基本的に視点の取り方によって、(1)と同様に二つの側面に焦点を当てた文が成立する。

   (2)─1:車が家の門の前「で」止まった。
       2: を     「で」止めた。
   (2)─3:車が家の門の前「に」止まった。
       4: を     「に」止めた

   ★着点の視点で語られる文脈で「で」を使ったり、
    限界点の視点で語られる文脈で「に」を使ったりすると不自然になる。
   (2)─5:?? 駐車場の案内係が
         「それじゃ、あの1番のスペース「で」止めてください」
   (2)─6:?? 信号がちょうど赤に変わったので、
            バスは、横断歩道の手前「に」止まった。

   ★電車について客が駅員に尋ねる日本語としては、途中停車の駅で
    あっても「〜に止まりますか」と聞く。
    これは、客の視点は着点であり、限界点(それ以上は行かない)
    ではないからである。
   (2)─7:すみません。この電車は飯田橋「に」止まりますか。

    注:例えば、駅弁を買いたくて、停車時間を尋ねる場合の文に現れる
     「で」は通常の場所(範囲の限定)になっていると考えられる。
   (2)─8:すみません。飯田橋「で」何分くらい止まりますか。
      ※この文においても、「に」は使用可である。

(3)人の場合
   ★図Aを見てわかるとおり、(1)(2)と違って、視点の取り方で
    「〜で止まる/止める」と「〜に止まる/止める」が使い分けられているのではない。
   ★着点が意識されるコンテキストであっても、「〜に止まる/止める」が使われず、
    「〜で止まる/止める」を使うか、
    その代わりに「(そこに移動して、)そこに立つ」と言う。
    つまり、「移動あり」⇒「移動なし」の視点が幅を利かせているのである。
    物や乗り物が「〜に」を使えた状況であっても人の場合は使えず、「で」を使うか
    別の動詞「立つ」を使わなければならないわけである。

   (3)─1:(写真をとってもらうのに、いい立ち位置に向かって歩いている人に)
         もう少し後ろに行って。ほらそこに旗が立っているでしょう。
         そうそう。そこ「で」止まってちょうだい。
   (3)─2:(同じ状況)
      ?? そうそう。その横「に」止まってちょうだい。
   (3)─3:(同じ状況)
         そうそう。その横「に」立ってちょうだい。

   ★人間の場合、「〜にとまる」と言うと、それは通常「〜に泊まる」ことを意味する。
    つまり、人間にとって、静的な側面で捉えられた事象とは「泊まる」ということになる。
   (3)─4:今晩、うち「に」泊まっていかない?
   (3)─5:彼、かわいそうに泊まるところがないというから、うち「に」泊めてやったよ。

(4)鳥などの場合
   ★鳥が飛ぶという運動を停止するのは、停止する位置を決めた上でのことである。
    そうでなければ、飛んでいる最中に死んで/気絶して落下するということになる。
    したがって、人間とは逆に、着点の視点が幅を利かせて、普通の文脈では
   「〜にとまる」と言うことになる。

   (4)−1:その鳥はしばらく上空を旋回したあと、近くの木の枝「に」とまった。

   注)生き物の場合、他動詞「〜にとめる」は使いに九句k、構文的使役「〜させる」で他動性表現をする。
   (4)−2:新しく作ってあげた止まり木に止まらせて、すこし遊ばせてやった。

   ★「〜でとまる」は、次のような文脈で、動的側面に焦点が当たった場合である。
   (4)−3:枝から枝へ飛び移っていたが、その大きな枝のところ「で」止まった。

   注)ちょうどヘリコプターのホバーリングのように空中で静止しているような状態を作る場合なら飛んでいる最中であっても、空中にある目印を使って「鳥が〜で止まった」と言えるかもしれません。


■いただいた例文についてのコメント

※いただいた例文の通し番号のうち、2が重複していましたが、それは2「運動会」と2「小鳥」としておきます。
※例文7はタクシーの例ですが、自転車のことが書かれていてこれはこれで興味深いので、それぞれ7「タクシー」、7「自転車」としてコメントをつけておきます。
※随時上の解説の例文を参照しますが、その場合は、例えば、「解説(2)」のように示します。

◇例文1:
 人間についてですから、解説(3)の制約が働くと考えられます。
 この状況では、やはりaの文か、「あの旗の前(まで行って、そこ)に立ってください」と言うしかないと思います。

◇例文2「運動会」
 これも人間ですから、例文1と同様に考えます。
 停止する場所の広い、狭いにかかわらず、解説(3)の制約が働くと考えられます。

 注)お芝居であれば、まるで蝉のように「はい、じゃ、あそこにとまって」と言えるでしょう。(笑)

◇例文2「小鳥」
 解説(4)のように考えれば、「でとまる」が使える状況はかなり限定されます。
 特別な文脈がなければ、bが自然な言い方になります。

◇例文3
 これは状況からして、動的な側面に焦点が当たっているので「〜でとまる/とめる」が自然になると考えられます。

注)自分が運転していて、ほかの人が指示する場合、「〜に止まって(ください)」は使いにくいと思います。指示する人が、車内にいても、車外にいても不自然だろうと思います。それは、自分が運転していることで、【車=人】が一体化され、解説(3)の人間の制約が課せられて、人に対して「〜に止まってください」というのと同等になるからだろうと思われます。それに対して、他動詞の「止める」は「運転手(=使役主)」が「車」をコントロールして、その車を止める、という意味ですから【車=人】とはならず、「〜に車を止める」と言うことができます。

◇例文4
 「泊まる」は「ある場所にとどまる」ことで、静的な側面に焦点があたりますから、「で」は許容されにくいでしょう。

注)もちろん、範囲の限定で「で」を使うことは可能です。
  妻:今回は日帰りするの?
  夫:うんん。日帰りはきついから、東京「で」泊まることにするよ。
   (=東京「で」ホテル「に」泊まる)

◇例文5
 これは、移動ではない「動き」の停止ですから、そもそも着点の視点をとれません。ですから、「〜でとめる」しかないでしょう。

◇例文6
 「に」と「で」のどちらを使うかは、使う人の意識次第だと思います。
  ある地点を越えないで止めてほしいという意識が強ければ「ここでとめて」
  (立ち寄りであっても一つの)目的地(を思い出してそこ)に行くという意識が強ければ「ここにとめて」
  となると思います。

注)「ここにとめて」を使うのがやや不自然なのは、急に止めてという場合には、通常動的な側面のほうに焦点があたるためだろうと考えられます。

◇例文7「タクシー」
 タクシーの状況は、文法考察ファイル#25にも書きましたが、「事態のコントロール性」の大小が関わっているかもしれません。しかし、それを考えなくても、今回の考察では、基本的に、話者が動的な側面と静的な側面のどちらを意識して述べるかということでいいかなと思います。どういう状況のときにどちらの側面に焦点があたるかは、いろいろ検討してみる必要があります。

注)例えばですが、乗車して客が道順をあらかじめ説明する場合、私の語感では「で」が自然で「に」は一つ?がつきます。
  これは、いろいろ説明することで、動的な側面が強く意識されるからだと説明できそうですが、いかがでしょうか。
  (う〜ん、苦しいかな・・・)

   「・・・て、・・・と・・・から、その前で止めてください」
  ?「               その前に止めてください」

注)ご指摘のとおり「駐車」の場合は、止める場所が指定されているわけですから、着点志向になり、「〜でとめる」は使いにくくなるのだと言えます。
  (→例文8、9)
   「それじゃ、あそこのあいている駐車場に止めてください」
 ??「それじゃ、あそこのあいている駐車場で止めてください」

◇例文7「自転車」
 「〜にとめる」という表現では、自動車は「停車」の意味になりうるけれども、自転車は「駐輪」の意味になって、一時的に止めるという意味にならない、というご指摘ですが、着点志向の適当な文脈が与えられれば、「〜に止める」で一時停止の意味になると思います。

   (サイクリングの途中)
    道を確認するために、木陰に自転車を止めて地図を見た。
    ※「降りずにサドルに腰掛けたまま」という状況

◇例文8
 状況からして、はっきりと着点志向なので、「〜で」が不自然になります。

◇例文9
 状況からして、はっきりと限界点志向なので、「〜に」が不自然になります。

以上、saburooさんからいただいた例文については、ポイントの(1)〜(5)でなんとか説明ができそうな気がしますが、いかがでしょうか。
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