1<シャ>で当然音読みの語につくもの
<職業、職種>を表わす語につく
易者、医者、経営者、学者、科学者、記者、芸者
<動詞の成分に付き、それをスル人、シタ人>の意味になるもの
予言者、歩行者、作者、筆者、生産者、消費者、労働者、使者
読者、勝者、敗者、信者、失業者、患者
加害者、被害者、容疑者、犠牲者、挑戦者、走者、話者
2<もの>で当然訓読みの語につくもの
<プラスのイメージ>がある語
働き者
<中立のイメージ>の語
若者、似た者(※これはマイナスのイメージか?)
<マイナスのイメージ>がある語
浮気者、偽り者、偽者、戯け者、したたか者、曲者、愚か者、剽軽(ひょうきん)者
慌て者、荒くれ者、困り者、晒し者、馬鹿者、除け者、裏切り者、怠け者、独り者
ひねくれ者、暴れ者、邪魔者、流れ者、好き者 注)<すきしゃ>もあり
この二つの熟語例を観察すると、次の2点が指摘できる。
(1)<もの>はその人の属性を表わし、ほとんどが<マイナスイメージ>の語である
(2)<シャ>はその人の<何をする/した>人なのかを表わす語である
次に、1、2の例外となる熟語例を拾ってみる。
3<シャ>で訓読みの語につくもの
引き上げ者:意味「外国での生活を引き払って故国へ帰ってきた人。
特に第二次大戦後、外地から内地へ帰ってきた人。」
(大辞林より)
注)大辞林からは上記の一例ののみ(見落としがあるかもしれません)
4<モノ>で音読みに語につくもの
<プラスのイメージ>がある語
人気者、果報者、律儀者
<中立のイメージ>の語
伊賀者、甲賀者
<マイナスのイメージ>がある語
前科者、厄介者、道楽者、新参者、お調子者、無精者
初心者(もの):意味「初な人」
以上の二つの熟語例の観察から、先の1、2で指摘したことがほぼ当てはまると思われる。
特に、3の例は<訓読み>をせずに<音読み>することで、<もの>がもつマイナスイメージを
避けているような印象を受ける。
これらの1〜4の観察から(1)(2)の点が大きな枠組みとして関係しているのではないかと
推測できるが、なぜそうなっているのかは不明である。
さらに、(1)の適用外の熟語例も少なからず存在する。
5 <シャ>で属性、資格などを持つ/ある人の意味になる熟語
A類:人格者、初心者、独裁者、障害者、第三者、〜主義者、配偶者、関係者、
B類:賢者、愚者(*愚か者)
弱者、強者
唖者(聾唖者)
死者、王者、業者?
これらの例は個々に検討されなければいけないが、
(3)B類のように<漢字一字>の場合には<シャ>が付きやすいのかもしれない。
また、A類の中でも「人格者」「初心者」などはそれぞれ、<プラスイメージ><中立>と見れば、<もの>ではなく<シャ>が付くのかもしれない。「初心者(シャ)」に対して「初心者(もの)」もあることは興味深い。
(4)それ以外の語については<音読み>がもつ語感、つまり<固さ>がかなり影響されている印象を
うける。これは和語のもつ当然の印象で、<もの>がつく熟語例全体に影響しているだろう。
5 まとめ
学習者にどのように提示するかという視点で、まとめてみると、
第一に<音読み>の語につくか、<訓読み>の語につくかという音韻上の視点から分類して、
その際に、それぞれの意味特徴を(1)(2)のように捉えることもあながち間違いとは
言えないのである程度有効と考えます。
それを踏まえて、(1)(2)の例外となる熟語例を挙げます。
つまり、<もの>がつくけれど、<プラスイメージ><中立>のものを挙げる。
これは例が少ないのでそう負担にはならないだろうと思います。
さらに、3、4のように<音読み><訓読み>の規則に従わない熟語例を挙げて、
同じ様な意味特徴を確認させます。
5の扱いはどうしたらいいかは今のところ判断がつきかねます。
(3)については今後さらに検討する必要があると思います。
さらに、決定的に重要な点として、その語の成立の背景(歴史)も考慮しなければならなりません。
しかし、今回の分析ではそこまで至りませんでした。