#38「〜にわたって」と「〜を通じて/通して」(期間)の違いは何か?

問題点の整理
「〜にわたって」も「〜を通じて/通して」も「〜」が期間を表す場合にはその期間全部を意味するにもかかわらず、以下のように使われ方に違いがある。

◯「1週間にわたって 会議を行う」
×「1週間を通じて/通して 会議を行う」
?「1年間にわたって 雨が多い」
◯「1年間を通じて/通して 雨が多い」など

両者を違いはどこにあるのだろうか?


考察の趣旨
日本語オンラインに寄せられたきんちょさん、村上さんの「期間」に対する捉え方の違いにヒントを得て、今回の考察をまとめてみました。 今回特に注目したのは以下の点です。

★「Xにわたって、Aが〜。」は「Aが〜コトがXにわたる。」という動詞の意味を強く残している。
★したがって、「〜にわたる+名詞・・・」のように連体修飾も可能である。
 (「〜を通じる/通す+名詞」のような連体修飾は(同じ意味では)ありえない)

この違いに注目して、「〜にわたって」を『継続のアスペクト表現』、「〜を通じて/通して」を『時の副詞』という捉え方で考察してみました。


考察
<二つの構文の特徴>

上記このことから次のような特徴が浮かび上がると思います。

☆「Xにわたって、Aが〜」の文の基本的な意味は
 「Aが〜コトがXにわたる」という意味である。
 「Aが〜コトがXという期間続く」という意味で、『Aという事態の継続のアスペクト』を表す。
  つまり、述部の『Xにわたる』では補語であったXを文頭に移動して期間を取り立てた結果が
 「Xにわたって、Aが〜」という文であると考える。

☆「Xを通じて/通して、Aが〜」の文の基本的な意味は
 「Xの期間(=〜から〜まで通してみたときに)に、Aが〜」という意味である
  つまり、Aという事態を単に修飾する「時の副詞」である。

以上の特徴から例文を検証してみます。

<例文の検証>

(ア) a「1週間にわたって    会議が行われた。」
   ×b「1週間を通じて/通して 会議が行われた。」

aは「会議が1週間にわたった」という事態について、期間を文頭に移動して取り立てた結果の文です。
当然「1週間にわたる会議が〜」のような連体修飾も可能です。
「会議が1週間続いた」という継続のアスペクトを表しています。

bの「1週間を通じて/通して」というのは「1週間という期間を通してみたときに」という意味ですから、『1週間という期間を通してみたときに(会議が行われた)」のような解釈となり、時の指定と述部がマッチしません。明らかに不自然です。時を指定するなら、cのようにそれに合う内容のものが述部に来なければいけません。

    c「(会議が行われた)1週間を通じて/通して、何も目新らしい議論はされなかった。」

(イ) a「3日間にわたって    高熱が続いた。」
   ?b「3日間を通じて/通して 高熱が続いた。」

 『高熱の状態が3日間にわたった』という事態について、期間の部分を取り立てて文頭に移動したことによって、「3日間にわたって 高熱が続いた」となると考えられるので、aは自然な文です。
述部も「続く」でそのものずばり継続のアスペクトを表しています。

   もしbが成立するとしたら、「3日間という期間を通してみたときに(高熱が続いた)」というような文脈にして、時を指定するようにしなければならないのですが、述部に「続く」という動詞が使われているため、どうしても「そのような事態が 〜間にわたった」という解釈を受けるので「〜を通じて/通して」は使いにくくなるのだろうと思います。(これはきんちょさんが指摘されたことと同じです)

「3日という期間を通してみたときに」という時の指定に合うような文脈を補うと次のようになるでしょう。

   c「一回目の手術が終わり、2回目の手術がなされるまでの3日間は地獄のようだった。
     まず、何度も解熱用の注射が打たれたにもかかわらず、
     3日間を通じて/通して これまでにないほどの高熱が続き、
     さらには感染症の恐れも出てきたため4日目に再手術となったのである。」

(ウ)△a「この地方は1年にわたって    雨が多い。」
    b「この地方は1年を通じて/通して 雨が多い。」

 『雨が多い』という事態について、「雨が多いコトが1年にわたる」という解釈が不自然であるためにaは不自然になると思われます。つまり、「わたる」は継続のアスペクトなので、この「一年」は「半年〜1年〜2年」というときの「一年」の解釈を受けることになり、さらに、「多いコト」という述部も「わたる」とは合わないという印象を受けます。

一方bでは「一年」が「半年〜1年〜2年」の1年間ではなく「春から冬までとおしてみたときに(雨が多い)」ということで「時の指定」になっているので自然な文となるのでしょう。(これは村上さんときんちょさんが指摘されたとおりです)
ただし、aの「1年」を毎年の「1年間」というふうに捉えられないこともないので”△”としてあります。
述部を工夫すれば「わたって」も自然になると思います。

    c【過去形にしてそのような事態が1年間継続したという意味にする】
     「この地方は昨年は異常気象に見舞われ、1年にわたって雨が多かった。」

    d【さらに継続のアスペクトが出やすいように動詞にする】
     「この地方は昨年は異常気象に見舞われ、1年にわたって雨が多く降った」

    e【もっと自然な文にするために表現を変える】
     「この地方は昨年は異常気象に見舞われ、1年にわたって雨がちの天気が続いた」

(エ)△a「このへんは1年にわたって    いろいろな野鳥が観察できる。」
    b「このへんは1年を通じて/通して いろいろな野鳥が観察できる。」

『野鳥が観察できる』という事態について、「野鳥が観察できるコトが今後1年にわたる」という解釈であればaは可能ですが、それは(ウ)と同様継続のアスペクトの解釈が優先されて「2年目は期待できない(:野鳥は他の場所へと移動してしまう)」という意味になると思います。
もちろん、毎年の「一年間」という解釈も(ウ)と同様できなくはありませんが、そのように時を指定することは本来bの「〜を通じて/通して」の役目だと考えられます。
bが自然なのは(イ)と同じ理由です。

(ウ)と同様にaも工夫すれば自然な文になるでしょう。

    c【起点を明確にしてその時点からの継続という意味にする】
     「巣箱などの設置によって野鳥が戻ってきたので
      今後、自然環境の変化を考慮しても
      数年にわたって、いろいろな野鳥が観察できるでしょう。」

以上、『継続のアスペクト』を基本とする「〜にわたって」と『時の指定』である「〜を通じて/通して」という特徴をもとに違いを考察してみました。



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