副詞の基本的な用法は<連用修飾>であることは間違いないことであるが、実際には副詞を修飾したり、名詞を修飾することもある。
そこで、どんな副詞が副詞や名詞を修飾するのか、また修飾される副詞や名詞にはどんな特徴があるのかを観察してみる。
山田孝雄に始まる伝統的な3分類をここでも使用する
(1)情態(状態)副詞:動詞にかかってその動作の状態を意味的に限定する
(2)程度副詞:用言や副詞にかかって動作や状態の程度を表す
(3)陳述副詞:述語の陳述の仕方を修飾する
この分類には問題があることは以前から指摘されているが、日本語教育の現場では依然としてこの分類が利用されているので、この分類に従って考察してみる。
なお、本考察では(3)の陳述副詞は、狭義の「呼応の副詞」だけでなく、特定の呼応をもたないものでも一般にモダリティを表すものも含む。
副詞が副詞を修飾する場合(A)と名詞を修飾する場合(B)に分けて、さらに下位分類として(ア)〜(エ)をたて、必要に応じてさらに(1)(2)〜、・< >〜の項目をたてて分類した。
A 副詞が副詞を修飾する場合
(ア)<程度副詞>+<情態副詞>
★<情態副詞>は程度概念があるもの
「とても」 「ゆっくり」歩く
「大変」 「うまく」できた
「少し」 「早く」でかける
「すいぶん」「はっきり」断わった
「もっと」 「上手に」書け
「ちっとも」「はっきり」答えなかった
注)<情態副詞>にはいわゆる『形容詞』や『形容動詞』の副詞的用法も含む
<程度副詞>は上記のもの以外にもたくさんあるが、それに修飾される<情態副詞>は
そう多くないのかもしれない。
注)<情態副詞>が「〜する」と動詞になるものは非常に多いが、そのうちかなりのものが
<程度副詞>+<情態副詞シテイル>で状態の程度を指定できる。
例:「非常に」「ゆっくりシテイル」
「かなり」「ほっそりシテイル」
「ちっとも」「しっかりシテイナイ」
「ずいぶん」「ねばねばシテイル」
なお、<情態副詞シタ>で連体修飾することができるので
<程度副詞>+<情態副詞シタ>+名詞、という修飾構造もある。
例:「非常に」「じめじめシタ」「気候」
「かなり」「あっさりシタ」「味」
「ちょっと」「でこぼこシタ」「表面」
(イ)<程度副詞>+<程度副詞>
★後者の<程度副詞>は<量>を表すもの
「かなり」 「たくさん」食べた
「もっと」 「たくさん」ください
「ずいぶん」「おおぜい」来た
B 副詞が名詞を修飾する場合
(ウ)直接修飾する場合:<程度副詞>+<名詞>
★(1)<名詞>は相対的な拡がりを持つ、時間・空間を表すもの
「だいぶ」「昔」
「ずっと」「前」(時間)
「ずっと」「前」(距離)
「もっと」「右」、「左」、「上」、「下」、「奥」
「もっと」「こっち」
「少し」 「北」
★(2)<名詞>:形容詞的な性質をもつもの
「かなり」 「やり手」だ
「ずいぶん」「子供」だ
「とても」 「心臓」だ (=度胸がある)
AさんはBさんより「ずっと」「大人」、「お姉さん」、「お兄さん」だ
(エ)格助詞「の」を伴って修飾する場合:<副詞>+の+<名詞>
(1)<陳述副詞>+の+<名詞>
★<名詞>は慣用で決まっているもの
「まさか」の「時」
「もしも」の「場合」、「話」
「せっかく」の「日曜日」、「誕生日」
「あいにく」の「雨」
(2)<程度副詞>+の+<名詞>
★<名詞>は程度概念があるか、数量があるもの
<程度副詞>は以下のように3つに下位分類する
・<程度>
「かなり」の「腕前」だ
「かなり」の「時間」がかかる
「相当」の「悪(ワル)」だ
「わずか」の「間」停電した
「ちょっと」の「間」に盗まれた
・<量>
「たくさん」の「人」が来た
・<比較>
「一層」の「寂しさ」が感じられる
クラスで「一番」の「秀才」
(3)<情態副詞>+の+<名詞>
<情態副詞>は以下の2つに分類してみたが、これ以外にもあるかもしれない
・<状態>
体に「ぴったり」の「服」
かばんに「ぎっしり」の「札束」
筋が「めちゃくちゃ」の「物語」
注)この例は非常に少ないように思われる(?)
・<時>
「さっき」の「事件」
「ひところ」の「にぎわい」
「かって」の「繁栄」
「しばらく」の「間」
「やっと」の「こと」で〜
「さっそく」の「ご返事」
「たびたび」の「失礼」
「突然」の「嵐」
注)この『<時の副詞>+の+<名詞>』は最近むやみに使いすぎるという指摘があります。
駅のアナウンスで「まもなくの発車となります」のような言い方は本来
「まもなく発車となります」でいいはずだという指摘です。
改まった言い方、丁寧な言い方にしようという心理が働くためにこのような結び付きが
多様されるようです。
(4)<転成副詞>+の+<名詞>
・<動詞→副詞>
「初めて」の「こと」
「たとえば」の「話」
・<合成語→副詞>
「事実上」の「倒産」
「予想どおり」の「結果」
注)いわゆる『時名詞』が副詞になったものは元々名詞だったものなので
「〜の〜」とできるのは当然なのでここには含めない。
例) 「今」の「状況」、「きのう」の「話」、「前」の「事件」など
副詞の分類が定まらない状況では修飾副詞と被修飾副詞、名詞の特徴を明らかにするのは非常に困難であると思われるが、とりあえず伝統的な3分類をもとにその特徴を観察してみた。
いまだ定説のない副詞の品詞分類や職能などは日本語だけでなく他言語と比較することでまた新たな位置付けが可能になるのではないかという期待がある。
この考察は(元になった掲示板によせられた投稿にあるように)日本語と中国語の対照比較のための素材とするべく試みたものである。日本語の副詞がこのような振る舞いをすることがどのような意義をもつのかは今後の勉強の課題である。
本考察の分類と用例は概ね『日本語教育指導参考書19 副詞の意味と用法』(国立国語研究所)によりますが、下位分類の項目の一部とその名称、★については独自につけたものです。また、用例は新たに補充したものもあるので、それらも含めて分類にあたって不適切な区分と用例があればご指摘願います。