#33「〜中」の意味と読み方「ちゅう」か「じゅう」か?


問題点の整理

「〜中」という熟語はその意味によって「ちゅう」と読まれたり「じゅう」と読まれたりする。
その使用例を観察すると概ね次のような意味の違いによって読み方が区別されていることは多くの人の共通した認識である。
(X)「中(ちゅう)」→<その範囲の中(なか)>
   「水中(ちゅう)」「休暇中(ちゅう)」「休憩中(ちゅう)」
(Y)「中(じゅう)」→<その範囲の全てにわたって>
   「世界中(じゅう)」「一日中(じゅう)」
そうすると、XとYのような意味の違いによって「ちゅう」と「じゅう」の二つの読み方が区別されていると言っていいのだろうか。
XもYも<場所>や<物>や<動作>を示す名詞とともに使われる「中」は上のような意味上の区別がかなり明確に行われているようだが、<時>を示す名詞の場合にはなお注意が必要である。

☆問題1

『〜のうちに』という意味で使われる「〜中に」という表現の場合にはどちらの読み方もある。
そして「ちゅう」なのか「じゅう」なのかの選択がゆれているものがある。
 例)「今週中(ちゅう/じゅう)に・・・する」
   「今月中(ちゅう/じゅう)に・・・する」
この二つは意味の違いによって使い分けされているのだろうか?
   
また、どちらか一方に固定しているものがある。
 例)「今日中(じゅう)に/あした・あす中(じゅう)に・・・する」
   「今年中(じゅう)に・・・する」(注:人によっては「ちゅう」も使う)
 例)「午前中(ちゅう)に・・・する」
なぜ一方しか使えないものがあるのだろうか?

☆問題2

問題1を考えるにあたってはどちらが本来的な読み方なのかを考えなければならない。そうすると<時>の名詞と使われる「〜中に」の読み方をどちらが正当なものかをどうやって判断するべきかという問題が生じる。(動作名詞の場合の「ちゅう」は当然除かれる)

<「じゅう」を基本とする立場>

一つには指導を念頭において、日常語に関してはどの単語といっしょでも言える「じゅう」を基本として、「午前中」を唯一の例外とするものがある。
(これは『日本語表現文型1』(筑波大学)の方針でもある)

この考え方はまさに指導上の配慮が念頭にもので、本来どちらが正当かということとは(全くとは言えないが)関係ないと思われる。仮に「じゅう」が基本であるとするならなぜそう言えるのか全く根拠が示されていない。
常識で考えれば、「中」の漢字の音読みである「ちゅう」が基本となるはずである。
 

「じゅう」は「ちゅう」が連濁を起こした結果である(「ちゅう→ぢゅう→じゅう(現代仮名遣い)」)。
そもそも音読みの単語が連濁を起こすこと自体が珍しいことである。通常は訓読みの単語の語頭が連濁を起こす。音読みの単語が連濁を起こすのは1)音韻的条件による2)意味的条件による
(注:<勉強部屋>の記事#7を参照)
1)「◯者」の読み方で「しゃ」になるか「じゃ」になるか
  全部要素が<撥音>「ん」で終わるか<長音>で終わる場合には連濁を起こす傾向がある
  (さらに撥音、長音を含めて2拍の漢字一字であることも関係があるかもしれない)
  例)患者、忍者/王者、聖者(→じゃ)
    筆者、責任者(→しゃ)
2)前部、後部の要素の意味関係
  前部が後部の目的語のときは副詞修飾のときより連濁が起きにくい
  例)風呂炊き(たき)/水炊き(だき)
    草刈り(かり)/丸刈り(がり)

それでは「中」が連濁を起こすのはどんな場合なのだろうか。それを考えるともう一つの考え方ができる。

<「ちゅう」を基本とする立場>

もう一つは「ちゅう」が原則であって、場合によって「じゅう」と連濁を起こすと考える。この考え方は指導上の点では「今日じゅう」「あすじゅう」の例があることによって不都合かもしれないが、原則はどちらであったかを考える上では捨て難い視点だと思われる。
(『基礎日本語辞典』(角川書店)では、「中(ちゅう)」の項目において、「じゅう」と読む場合があるという説明があるので、この辞典の立場は「ちゅう」が本来的であると考えていると思われる)



本考察のアプローチ

(1)本稿では「〜中」の読み方は原則「〜ちゅう」であり、なんらかの条件によって「〜じゅう」になるという考え方に立ち考察することにする。

(2)特に問題となる<時>の名詞に接続する場合については、従来見落とされていた<時>の名詞の概念についても認知的な視点から考察してみたいと思う。

(3)それと平行して、そもそも「〜中」という表現が使えるかどうかという視点も重要だと考える。従来の考察では読み方「ちゅう/じゅう」のみに意識が向かい、あたかも<時>の名詞は自動的に「中」がつくような誤解を与えかねない扱いがされていたように思われるからである。

以上の3点を本考察の方針とし、まず、先の意味上の分類(XとY)をもとに典型的な分類を観察し、それを踏まえて<時>の名詞とともに使われる「中」の意味とその読み方を考察してみたいと思う。



考察1「〜中(ちゅう)」と「〜中(じゅう)」の基本的な用法と意味

1-1仮説

ある単語に「中」を付けることによって、「中」という漢字の意味(「ある対象の中(なか)」)から次の2つの概念が生まれたと考える。

(X)領域限定→<外と区別された中>
(Y)限定された領域のすべて→<外と区別された中のすべて>

(X)の場合には「中(なか)」の元々の意味と同じなので読み方はそのまま音読み「チュウ」をあてた
(Y)の場合には「中」によって限定された領域の「すべて」という意味で強調したいために<連濁>を起こし「ヂュウ」という音になったと考える。
(推測であるが「充分/十分」などの「ジュウ」の音の影響もあったのかもしれない。)
つまり、「中」という漢字がもともと持っていた「なか」という意味にさらにその「なかのものすべて」という意味が加わったことで、それを区別するために「ぢゅう(→じゅう)」という読み方をしたのだと思われる。このことが現在使われている「〜中」の読み方の区別の原則になったと考える。
そこで、以下では<時>名詞では「中(ちゅう)」が基本で、「中(じゅう)」は限られた単語のみで、ある条件のもとで成立することを検証する。



1-2「〜中」の二つの概念と分類

以下の分類と用例は多くの参考書に共通するものであると考えるが、本考察の主旨の一つである<時>名詞のすべてが「〜中」になるわけではないということを明らかにするためにここにまとめておく。

(X)領域限定→<外と区別された中>

   A:モノの中(トコロとしての中)
       ___
      |   |外
      | ● |
      |___|

   B:トキの中
      |   |外
    →→| ● |→→

   (ア)一時的(に限定された)時間   (特定の時間の幅の中)
   (イ)一時的(に限定された)状態   (「変化」と「変化」にはさまれた時間の幅の中)
   (ウ)一時的(に限定された)活動・作用(「開始」と「終了」にはさまれた時間の幅の中)

(Y)限定された領域のすべて→<外と区別された中のすべて>

   C:そのトコロのすべて
       ___
      |******|外
      |******|
      |******| 

   D:そのトキのすべて
      |******|外
    →→|******|→→



1-3それぞれの分類の典型的な例


(A)「水、地、空、空気中」
   「心、胸中」

(B)(ア)「会期、任期中」「休暇中」

     (注:「期間、昼休み、お盆休み、夏休み、ゴールデンウィーク中」
       これらの単語は通常参考書では挙げられているが保留しておく。理由は以下で説明)
     (注:一般的な<時>の名詞(「今週」「6月」など)は以下で別に考察する)

   (イ)<状態を表す漢語名詞>
     「不在中」「留守中」・・・(いない)
     「在日、在学、在職中」・・・(いる)
     「存命中」・・・(ある)
      <動作・現象を表す漢語名詞>
     ・→※「〜ている」が結果状態を表すもの
     「来日、故障、閉鎖、妊娠中」

   (ウ)<動作・現象を表す漢語名詞>(漢語が中心だが和語や外来語もある)
     ・→※「〜ている」が進行中を表すもの
     「授業、仕事、準備、営業中」
     「話し、考え中」
     「プレイ、リハーサル中」


(C)「村、町、東京、日本、島、世界中」
   「部屋、家、庭中、学校、会社中」
   「顔、体中」
    ※上の名詞についてそのトコロを構成するメンバーに焦点が移ると構成員全員という意味になる
    例)「家中が大騒ぎになった」「その映画を観て、世界中が泣いた」
   「親戚中」
    ※この熟語は構成メンバーを取り立てた特別な熟語である。
    通常このような熟語はできないため『〜の間に/で』のように迂言的に表現する。
    例)「彼女の結婚は親戚中から祝福された」
      ?「その噂はすぐに友達中に広まった」
      ?「選手中に緊張が走った」
      ??「社員中に危機感が募った」

(D)<「一」によってひとつにまとめられた時間>

   「一晩中、一日中、一年中」
   「夜中じゅう」
   (※「夜」が「中(なか)」で範囲限定されることによってまとまりをもつ)



1-4二つの概念の特徴

(X)と(Y)の概念は物事の見方が異なる。
(X)は対象となるモノ、トキをそのもの(全体)ではなく、その「中(なか)」に意識を向かわせるものである。それはすなわち「外」と区別された「中」を意識することである。
対象がモノであれば、そのモノの「中(なか)」に意識が向かい、ひとつの空間(トコロ)を意識する。
「水は冷たい」
「水中(ちゅう)は暗い」

対象がトキであれば、単なる<幅>をもった<時>の概念から、そのトキの「中(なか)」に意識が向かい、そのトキの外(前後)との区切りが意識される
「期間は一週間だ」
「期間中(ちゅう)は混雑が予想される」

(Y)はすでに範囲がしめされたトコロやトキについて状態や出来事がその範囲すべてにわたるという見方である。つまり、外と区別された領域が前提となって、ある状態や出来事がその範囲の一部ではなくすべてにわたるという見方である。
「部屋は汚かった」
「部屋中(じゅう)汚かった」(=部屋の中はすべて汚かった)

このような概念を<時>についてイメージ化すると下のようになる。

                   |   |        |   |
  (→→)===(→→)    →→|   |→→    →→|===|→→
  幅を持った<時>の概念     外 中 外      外 中 外     
                   『〜チュウ』       『〜ジュウ』



1-5<時>名詞と「〜中(じゅう)」(※助詞なし)

1-5-1「〜中(じゅう)」と日本人の意識

上のDに示された<時>名詞は『すべてにわたって』という意味で使われる「〜中(じゅう)」をとる典型的なものである。
『すべてにわたって』という意味はなにも「〜中(じゅう)」だけが担っているわけではない、ほとんどの<時>名詞の単語は「〜(の間)はずっと」という迂言的に表現することになる。
つまり、わざわざ「〜中(じゅう)」という熟語が出来るということはそれなりに意味があるはずで、限られた特別な単語であるということである。
典型的には<区分されたトキ>名詞ではなく、<長さによって区切られたトキ>名詞に付くというわけである。したがって、次のような熟語はない。
×「今日中(じゅう)忙しい」
×「朝中(じゅう)忙しい」
×「3月中(じゅう)忙しい」

また「一」によってまとめられた時間といっても「一週間中(じゅう)」や「一ヵ月中(じゅう)」はない。
これは恐らく日本人の<時>に対する認知の仕方と関係していると思われる。
ある状態や出来事が途切れることなく続く場合にどこまで続くのかを表現しようと思ったときに、その時間的なまとまりは次のような構造になっていると思われる。
 
 [←[←[←[夜中]→1晩]→1日]→1年](遠心的な構造になっている)

「週」や「月」は言ってみれば機械的に区切られた時間の単位であって、「一週間/一ヵ月続く」ということに特別に意味を感じないが、日常生活の経験から「夜(=一晩、夜中)、一日、一年続く」ことに特別の意味を感じるということではないだろうか
要するに、日本人にとって「一晩」「一日」「一年」というは<認知レベル上で基本的なトキの長さの単位>と意識されていると言える。このことは本考察でも重要な意味をもつ。

それでは、<区分されたトキ>名詞はどの程度「〜中(じゅう)」がつくのか検討してみる。
注:以下の考察では一般的な<時>名詞を大きく3つに分けて検討する。
  (1)<今>を中心とするグループ
  (2)<今>を中心としないグループ
  (3)ある特定の期間を表す語

  (3)は(2)の下位分類であるが、(2)が(1)の単語に対応しているのに対して、
  (3)は(1)とは独立しているので、別に項目をたてて考察するのが適当だと思われる。
  (1)については、語彙の体系として日常語とそれに対応する書き言葉的な単語があるので
   それらを対応させて考察することにする。



1-5-2「〜中(じゅう)」と一般的な<時>名詞

(1)<今>を中心とするグループ    (2)<今>を中心としないグループ

 ×けさ                 ×朝
       ×明朝            
                     ×昼        ________
                     ×夕方      |※(Y)Dの語 |
 ?今晩          ×ゆうべ   ×晩       |  ◯一晩   |
       ×明晩    ×昨晩             |        |
 ?今夜          ×昨夜    ◯       |  ◯夜中   |
                     ×午前 ×午後  |  (よなか) |
                              |        |
 ×今日   ×あした   ×きのう   ×〜日 ×〜曜日 |  ◯一日   |
 ×本日   ×明日    ×昨日             |        |
     (みょうにち) (さくじつ)           |        |
 ?今週   ×来週    ×先週             |        |
 ?今月   ×来月    ×先月    ×〜月      |        |
??今年   ×来年    ×去年    ×〜年      |  ◯一年   |
 ×本年          ×昨年             |________|

                    (3)ある特定の期間を表す語

                     ◯ ◯ ×春 ×秋
                     ◯夏休み
                     ?昼休み ?お盆休み ?ゴールデンウィーク

(1)についての考察

予想通りほとんどの単語が不可(×)であるが、可能と思われるもの(?)もある。
『日本語表現文型1』(筑波大学 p.133)では次のような「今週中」の例文が載っている。
「雨は今週中(じゅう)降り続くでしょう」

これがどの程度自然かは疑問が残るが、もしこれが認められるとすれば、次のような文も可能だと判断する人もいると思われる。
「雨は昨晩中/昨夜中(じゅう)降り続いた」
「不順な天候は今月中/今年中(じゅう)続くでしょう」

×印をつけたものは基本的に迂言的に『〜いっぱい、〜はずっと』と表現するが、上の例文もそのように表現するのが自然ではないかと思う。
なぜ上の単語は「〜中(じゅう)」が可能なのだろうか。これは「〜中(じゅう)」の特徴から説明できると思われる。

・「〜中(じゅう)」がつく典型的なものは<長さによって区切られたトキ>名詞である
 <時間の長さ>からみた「中(じゅう)」の構造
 
 [←[←[←[夜中]→1晩]→1日]→1年](遠心的な構造になっている)

・このような遠心的な構造が<今>を中心とする語彙の体系に拡張されると次のようになる。
 <時間の展開>からみた「中(じゅう)」の構造
 
 [※過去はない×←[今晩・今夜](きょう)]→今週]→今月]→今年]

ここで、先に指摘した日本人の<認知レベル上の基本的なトキの基本単位>を思い出していただきたい。
「一晩」「一日」「一年」である。通常は「今晩・今夜/今日/今年は一晩/一日/一年中(じゅう)」のように迂言的に表現されるため、この3つに対応する「今晩・今夜中(じゅう)」「今日中(じゅう)」「今年中(じゅう)」という熟語はできないはずである。
しかし、この3つの<基本単位>のうち「一晩」と「一年」は「一日」ほど基本単位として強く意識されないと思われる。そのために「一日」に当たる「今日中(じゅう)」は不可だが、「一晩」と「一年」にあたる「今晩・今夜中(じゅう)」と「今年中(じゅう)」は可能になると考えられる。
そうすると、対応する<基本単位>をもたない「今週」と「今月」は比較的「〜中(じゅう)」の熟語が作りやすいということも理解できる。しかも、「中(じゅう)」の遠心構造からして「今週中(じゅう)」のほうが「今月中(じゅう)」より自然に感じると思われる。
それにしても、これらの熟語は典型的なものではなく、あくまでも拡張的な使用であり、<臨時的>に使用しているという感じがする。

(2)についての考察

「夜中(じゅう)」は「夜なか中(じゅう)」ほど一般的ではないかもしれないが、『基礎日本語辞典』に用例として載っているので◯とした。おそらく、「夜なか中(じゅう)」に影響されたものと思われる。
×印の単語は(1)と同様に迂言的に表現するしかない。

(3)についての考察

次の例文のように「夏/冬中(じゅう)」は使っても「春/秋中(じゅう)」とは普通使わないのはなぜか。
「このあたりは夏中(じゅう)観光客で賑わう」
「このあたりは冬中(じゅう)雪に閉ざされてしまう」
?「このあたりは春中(じゅう)お花見が楽しめる」
?「このあたりは秋中(じゅう)紅葉が楽しめる」

「夏/冬」と「春/秋」の対立は興味深い。これは「〜めく」という接尾語が使えるかどうかという判断と関係していると思われる。「春/秋」は「〜めく」という熟語があるが「夏/冬」には通常使われない。どうやら日本人は「夏」と「冬」はしっかりと季節の区分を意識できるが、「春」と「秋」はその二つの季節の間にあって次第に変化して「なる」ものだという意識があるようである。したがって<一つにまとまる>という意識を持つことができる「夏/冬」は「〜中(じゅう)」と言えるのだろう。(「一(ひと)夏/冬」という熟語がある点でもそれがうかがえる)

同じ<休み>を意味する単語でも上のように自然さに違いがあるのはなぜだろうか。今のところ理由は不明である。単に慣用の問題だろうか?
「夏休み中(じゅう)ずっと北海道のおじの家にいた」(筑波『日本語表現文型1』p.133)
?「疲れていたので昼休み中(じゅう)寝ていた」
 →◯「昼休みはずっと〜」
  ◯「昼休み中(ちゅう)/の間 ずっと〜」



1-5-3「〜中(じゅう)」のまとめ

「〜中(じゅう)」で「その期間すべてにわたって」の意味を表すものは非常に限られていることがわかった。
典型的には<長さによって区切られたトキ>名詞で、<一つにまとめられた>単語である。つまり(Y)のDのグループとそれに準じる単語になる。
<今>を中心とする単語では、「〜中(じゅう)」がもつ<遠心的>な視点のために「今〜」の単語にその使用が認められるが、臨時的な使用の感がある。
また特定の期間を表す単語では、季節の単語のうち「夏」と「冬」だけが、休みを表す単語のうち季節と関係する単語だけが「〜中(じゅう)」がつく。
このように「〜中(じゅう)」の熟語は非常に限られたものしかない。これは日本人の<トキ>の認知の仕方と関係していると考えられる。



1-5-4残された問題点

『すべてにわたって』という意味で使われる「〜中(じゅう)」は助詞を伴わない。つまりそれ自体副詞のように働くのだが、「〜中(じゅう)に」と「に」を伴って「〜の間に/うちに」の意味で使われる場合がある。この場合には上で見たような非常に限られた熟語だけとは限らないようである。
これについては後で「〜中(ちゅう)に」と比較して考える。



1-6<時>名詞と「中(ちゅう)」

1-6-1<時>名詞に「中(ちゅう)」が付くことの意味

<時>の名詞とはその名が示すとおり、既に他の<時>と区別されたものである。従って、わざわざそのその「外」と区別するために「中(なか)」であることを明示しなくてもいいはずである。
<今>を中心とする語彙のグループは助詞なしで、それ以外の語彙のグループは「に」をともなってその<時>であることを指定する。
「あしたアメリカに行く」
「来週アメリカに行く」
「3月にアメリカに行く」

つまり、<時>の名詞としてわざわざ「中」を付けて範囲を明示しなければならないのは(X)B(ア)のようなごく一部の単語だけだということである。
「×休暇に/◯休暇中に・・・する」
「今国会の ×会期に/◯会期中に この法案を採決する」
「首相の ×任期に/◯任期中に 不信任決議案が提出された」

上の分類の(ア)の※印の例は「中」がなくても「〜に」だけで時を指定できるので上の単語とは区別される。
注)これと関連することだが、初級学習者が「父はうちにいます」と言えばいいところを「父はうちの中にいます」と言うことがある。<時>の名詞も基本的にはこれと同じである。「中」がつけば「外」ではないという意味が付加されることになる。



1-6-2「中(ちゅう)」の意味のスケール

それ以外の大部分の単語は「中」を付けることによって、単に<時>の指定ではなく、その期間の「中(なか」に意識を向けさせることになる。

「今週は忙しい」
「今週中(チュウ)は忙しい」(a)
「今週大統領が来日する」
「今週中(チュウ)に大統領が来日する」(b)
「今週これを提出する」
「今週中(チュウ)にこれを提出する」(c)

このように<時>の名詞にわざわざ「中(ちゅう)」を付けるのは「外」と区別して<時>の幅の「中」に意識を向けさせるということである。それによって上に示したように(a)〜(c)の3つの用法が生まれると考えられる。
(a)「〜中(ちゅう)は/なら」によって「外」と区別して『その中(なか)全体について』述べる。
(b)「〜中(ちゅう)に」によって「外」と区別して『その中(なか)で起こる出来事について』述べる。
(c)(b)がさらに『〜の間に/うちに』という意識につながる。
    ※この場合には述部が意志性のあるものが典型的である。



1-6-3「〜中(ちゅう)」と一般的な<時>名詞

 (1)<今>を中心とするグループ    (2)<今>を中心としないグループ

 ×けさ                 ×朝
       ?明朝           
                     ×昼
                     ×夕方
 ×今晩          ×ゆうべ   ×晩
       ?明晩    ?昨晩 
 ×今夜          ?昨夜    ×夜  ×夜中
                     ◯午前 ×午後
_______________________________________
 ×今日   ×あした   ×きのう   ×〜日 
 ◯本日   ◯明日    ◯昨日    
     (みょうにち) (さくじつ)
 ◯今週   ◯来週    ◯先週    ◯〜曜日(注)
 ◯今月   ◯来月    ◯先月    ◯〜月
 ×今年   ◯来年    ×去年    △〜年
 ◯本年          ◯昨年
_______________________________________

                    (3)ある特定の期間を表す語
                     ×夏 ×冬 ×春 ×秋
                     ◯夏休み
                     ◯昼休み ◯お盆休み ◯ゴールデンウィーク

 注:「〜曜日」は日を示すが、「〜日」と比べて一週間の中における日を表すということで
   この列に位置すると考える。

(1)(2)についての考察

(1)(2)のグループの単語を<トキ>の区分の仕方によって大きく二つに分けると、一つは<一日をさらに詳しく区分した>もの(上側)。もう一つは<一日を中心に拡張していく>グループである(下側)。

前者のグループは「午前中」のみが◯でそれ以外は基本的に×である。
ただし、書き言葉的な単語(「明朝」「明晩」「昨晩」「昨夜」)は文章語としては使用可能かもしれない。
「中(ちゅう)」が付きにくいのは、これらのグループは<一日をさらに詳しく区分した>ものであるために、「外」と区別するために「中」を付けるという発想がないためだと考えられる。
その点で「午前中」は異質な単語のようである。なぜ異質かというと<トキ>を表しているのに、後に示すように第1レベルに属する単語だからである。

後者のグループの全体を見ると、書き言葉的な単語を含めれば、ほとんどの単語は「〜中(ちゅう)」がつくことがわかる。これは先の「〜中(じゅう)」とは対照的である。ここでも「チュウ」の読み方が本来的なものであることがうかがえる。



1-6-4「〜中(ちゅう)」が付く語と付かない語は何が違うのか

そこで奇妙に思われるのは(1)(2)のグループで「〜中(ちゅう)」が付かない単語が『変則的に』分布しているということである。これは何を意味しているのだろうか?

そこで「〜中(ちゅう)」の有無を次のような3つのレベルの中で位置付けを試みたいと思う。
第1レベル:「〜中(ちゅう)」が不可欠
      「〜中(ちゅう)」を付けなければ<時>の幅を表せない

第2レベル:「〜中(ちゅう)」を付けることができる
      「〜中(ちゅう)」を付けなくても<時>の幅を表せるが、
      「〜中(ちゅう)」を付けることによって<時>の幅の「中」に意識を向けさせる

第3レベル:「〜中(ちゅう)」が不必要
      「〜中(ちゅう)」を付けなくても<時>の幅を表せるし、
      「〜中(ちゅう)」を付けなくても<時>の幅の「中」に意識が向いている

そうすると、次のような図にまとめられる。

     ____
    |◯午前中|
    |____|
    |◯休暇中|
    |◯会期中|
    |◯任期中| 
    |_<第1レベル> 

  (1)<今>を中心とする単語       (2)今を中心としない単語
   __________________   ____
  |×今日   ×あした   ×きのう |=|×〜日 |   ←※「一日中(じゅう)」
  |___<第3レベル>________| |____|
   __________________   ____
  |◯本日   ◯明日    ◯昨日  | |    |
  |    (みょうにち) (さくじつ)| |    | 
  |◯今週   ◯来週    ◯先週  |=|◯〜曜日|
  |◯今月   ◯来月    ◯先月  | |◯〜月 |
  |_____     ________| |____|
   ____ |   | _______   ____
  |×今年 ||◯来年||  ×去年  |=|△〜年 |   ←※「一年中(じゅう)」
  |____||   ||_<第3>__| |____|
   _____|   |________
  |◯本年          ◯昨年  |
  |___<第2レベル>________|

「午前中」は先にも書いたように(2)のグループでありながら第1レベルに属する特異な単語である。
(1)と(2)は<時>名詞の種類は異なるが、相互に関係していると思われるので「=」で結んである。

このレベル分けは日本人の物事の見方と関係していると考えられる。
第1レベルは<モノゴト>の単語を<トキ>の単語として使うために「中(ちゅう)」を必要とする。
第3レベル一つのまとまった『認知レベル』の基本単位としての<トキ>名詞であるために
 わざわざ<領域限定>の「中」を必要としない。
第2レベルは1と3の中間であると考えられる。
 

さて、「〜中(ちゅう)」をとらないのは第3レベルの単語であるが、上の図に見られるとおり、一見『変則的』に分布しているように見えるが、無秩序に分布しているとは考えられない。
第3レベルはどんな要因によって第2レベルと区別されてているのだろうか。



1-6-5「〜中(ちゅう)」をとらない単語の条件

第3レベルの単語を特徴づけている条件として次の3つを設定してみる。

条件1:日常語(話し言葉的な語)であること(非書き言葉的)
条件2:<長さによって区切られた認知レベル上の基本単位のトキ名詞>と関係があること
    「一日中(じゅう)」「一年中(じゅう)」と繋がること
    日本人にとって、先に「中(じゅう)」の分析でも示したように「日」と「年」の
    捉え方は他の<トキ>とは一線を画していると言えるのではないだろうか。
条件3:語の成分の表記・音韻体系からはずれていること
    「今(コン)〜」「来(ライ)〜」「先(セン)〜」という体系からはずれている
    ※この基準3は基準1、2と関係がある。体系からはずれているということはそれだけ
     独自性(日常語的な特性)が強くかつ一つのまとまりを強く感じるということである。

まず、条件1によって次の単語が一つのグループがつくられる
 
今日  あした きのう  〜日
今週  来週  先週   〜曜日
今月  来月  先月   〜月
今年  来年  去年   〜年

次に、これらの中から条件2によって次の単語が残る
 
今日  あした きのう  〜日
今年  来年  去年   〜年

最後に、これらの中から条件3によって次の単語が残る
 
今日  あした きのう  〜日
今年      去年   〜年(注)

このグループが「〜中(ちゅう)」が付かない語である。つまり、これらが第3レベルの単語である。
これで「〜中(ちゅう)」が付かない名詞が一見『変則的』に分布しているように見えて、実はある条件のもとでまとまっているのかが説明できると思われる。

注:「〜年中(ちゅう)」(:「1999年中」など)は図中では「×」ではなく「△」で表示した。
全く使えないわけではないと判断したからである。
上の条件1〜3は(1)のグループにはかなり強く働くが(2)のグループにはそう強く働かないのかもしれない。しかし、「〜日中(ちゅう)に」と比べれば「〜年中(ちゅう)に」は不自然ながらも使えるように思われる。それは基準2のうち、「年」は基本単位の<トキ>としての認識が「日」に比べて弱いからだと思われる。そのために<今>を中心としない単語では使えるようになるのだろう。これは「中(じゅう)」の考察で示した考え方と一致する。

(3)についての考察

このグループは二つに分けることができる。
一つは<一年をさらに詳しく区分する(季節)>もので「中(ちゅう)」が付かない。
「春」「夏」「秋」「冬」
もう一つは<休み>を表す単語で「中(ちゅう)」が付く。
「春・夏・秋・冬休み」「お昼休み」「お盆休み」「ゴールデンウィーク」
前者は<一日をさらに詳しく区分する>もの、「朝」「昼」「夜」が付かないのと同様に「中(ちゅう)」はつかないと考えられる。
後者は上の分類では第2レベルに相当する。 



考察2「〜中(ちゅう)」と「〜中(じゅう)」の共通する用法と意味を考察する

2-1<時>名詞と「〜中(ちゅう)に」「〜中(じゅう)に」

これまで「〜中(ちゅう)」と「〜中(じゅう)」に接続する名詞に関して、それぞれの基本的な意味に沿って考察してきた。しかし、両者の用法が重なる部分がある。それは助詞の「に」を伴って「〜のうちに」の意味になる場合である。この二つはどのような意味の違いがあるのだろうか。

2-1-1「〜中(ちゅう)に」と「〜中(じゅう)に」の接点

これまでの考察を踏まえて<時>名詞につく「中(ちゅう)」と「中(じゅう)」の意味をまとめてみる。
(「中(ちゅう)」については上の考察を再掲する)

<「中(ちゅう)」の意味のスケール>
↓「今週中は忙しい」     (a)
↓「今週中に大統領が来日する」(b)
↓「今週中にこれを提出する」 (c)

↑「今週中にこれを提出する」 (d)
↑「一日中忙しい/働く」   (e)
<「中(じゅう)」の意味のスケール>

このように「中(ちゅう)」のスケールの(c)と「中(じゅう)」のスケールの(d)が意味が重なる部分である。しかし、(c)=(d)ではないと考えられる。
(b)と同じ意味で「今週中(じゅう)に大統領が来日する」は言えない(非常に不自然である)ことからわかるように、「〜のうちに」という意味で使われる場合も両者にはニュアンスの差がある。



2-1-2「〜中(ちゅう)に」と「〜中(じゅう)の違い

 ・中(ちゅう)の見方は<範囲限定>である
      
     外| 中 |外
   →→→|  |→→→(時間の流れ)
        
   (c)『〜中に』
  
  「〜中(ちゅう)に」:その範囲に中(なか)で
             中(なか)の出来事は<点>として捉えられる

 ・中(じゅう)の見方は<範囲限定>+<遠心的>である
      
     外|←中→|外
   →→→|.........|→→→(時間の流れ)
      ↑↑↑↑↑
   (d)『〜中に』
     
  「〜中(じゅう)に」:その範囲のすべてにわたってもそれを超えないように
             中(なか)の出来事は連続した<線>として捉えられる

(c)は(b)の延長であるから単に「今週提出する」と比べてその期間の幅が外との対比で意識されるにすぎない。ところが(d)は(e)の基本的な意味の拡張だから<作業を範囲の限界まで続けてもそれを超えないで>という意味になる。つまり<連続してあることを続けても明示された範囲を超えないように>である。
同じように<期間>を限定しても「中(ちゅう)に」は述部に示されたことが<点>と意識されるのに対して、「中(じゅう)に」は述部では連続した作業・動作である(=<線>)ことが意識されるわけである。

このニュアンスの違いは次のような文からも読み取れる。
「夏休み中(ちゅう)に本を10冊読む」(c)
「夏休み中(じゅう)に本を10冊読む」(d)
(d)の文は(c)と比べて、<その期間の全てを使ってでも>本を10冊読み終えるという意味あいが伝わるのではないだろうか。そのために次のような文脈では「中(じゅう)に」が不自然になる。
?「夏休み中(じゅう)に本を1冊読むだけでいいそうだ」
?「2日間で1冊読めるから、夏休み中(じゅう)に本を10冊読むのは簡単だ」
 

このように「〜中(ちゅう)に」と「〜中(じゅう)に」に意味の対立があるとすると、3つのグループに分けて考える必要がある。
Aグループ:「〜中(じゅう)に」しか付かない
       (つまり、「〜中(ちゅう)に」の意味も担っている)
Bグループ:どちらも付いて、意味の対立がある
Cグループ:「〜中(ちゅう)に」しか付かない
       (つまり、「〜中(じゅう)に」の意味も担っている)

これまで、「〜中(ちゅう)」「〜中(じゅう)につく名詞は考察したので、最後に「〜中(じゅう)に」がどのような<トキ>名詞に付くのか考察してみる。
基本的な意味で使われる無助詞の「〜中(じゅう)」では、接続する名詞が非常に限られていたが、「〜中(じゅう)に」はもう少し広く付くようである。



2-1-3「〜中(ちゅう)に」「〜中(じゅう)に」と<時>名詞

(1)(2)のグループの下側のグループについての考察

「中(ちゅう)」で考察した第1〜3レベルの単語との間に次のような対応があることがわかる。
Aグループ→×(=第3レベルの単語)
Bグループ→●(=第2レベルの単語の一部)
Cグループ→◯(=第2レベルの単語の一部+第1レベルの単語)

     ____
    |◯午前中|
    |____|
    |◯休暇中|
    |◯会期中|
    |◯任期中| 
    |_<第1レベル> 

  (1)<今>を中心とする単語       (2)今を中心としない単語
   __________________   ____
  |×今日   ×あした   ×きのう |=|×〜日 |   ←※「一日中(じゅう)」
  |___<第3レベル>________| |____|
   __________________   ____
  |◯本日   ◯明日    ◯昨日  | |    |
  |    (みょうにち) (さくじつ)| |    | 
  |●今週   ●来週    ●先週  |=|●〜曜日|
  |●今月   ●来月    ●先月  | |●〜月 |
  |_____     ________| |____|
   ____ |   | _______   ____
  |×今年 ||●来年||  ×去年  |=|△〜年 |   ←※「一年中(じゅう)」
  |____||   ||_<第3>__| |____|
   _____|   |________
  |◯本年          ◯昨年  |
  |___<第2レベル>________|
 

<Aグループ>
Aグループは第3レベルの単語に相当する。
つまり、第3レベルの単語がもつ特徴は、一方では「〜中(ちゅう)」が付かない理由となり、逆に見れば「〜中(じゅう)」しか付かない理由ともなるわけである。
それは「中(じゅう)」はある<時>名詞がすでに範囲を限定されていることを前提に「すべて」という意味を不可する接辞であるからだと思われる。第3レベルの単語はその前提を満たしているということである。
<Bグループ>
Bグループは第2レベルの単語のうちで条件1をクリアーしたものに相当する。
<Cグループ>
Cグループは第2レベルの単語のうちで条件1をクリアーしないもの第1レベルの単語に相当する。

(1)のグループでは過去の単語は「〜中」が付きにくい傾向があるが、『日本語表現文型 中級1』には次のような例文が載っている。
「去年中に終わらなかった仕事をぜひ今年は片付けたい」(p.134)
また(2)のグループでは「〜中(じゅう)に」は付きにくい傾向がある。(理由は後述)
次のような文の自然さの判断は人によって違うだろう。
「今週の火曜日中(じゅう/ちゅう)にレポートを書き上げよう」
「今年の6月中(じゅう/ちゅう)にビルが完成するだろう」
「2001年中(じゅう/ちゅう)にこのプロジェクトを終わらせる」

(1)(2)の上側のグループについての考察

「中(じゅう)」の考察で示したように「一晩中(じゅう)」という熟語がある。つまり、「日」や「年」ほどではないにしろ、「晩」または「夜」にも他の単語とは違って<一つのまとまった認知的レベルでの基本的なトキ>であるという意識が働くと思われる。
そのために、次の単語はAグループに属すると考えられる。

「今晩」「今夜」「夜」「夜中」

例文)
「今晩/今夜/夜/夜中じゅうに荷物をまとめておく」
「今晩中にこのレポートを書かなければなりません」(「日本語表現文型 中級1』p.134より)

(3)のグループについての考察

<季節>の単語については、助詞が付かない本来の意味での「中(じゅう)」がついた「夏」と「冬」は「中(じゅう)に」もできそうである。この単語に限りAグループに属すると言える。
<休み>の単語はBグループに属すると言えるが、相対的に短い休みには「中(じゅう)」は付かない傾向があるかもしれない。

例文)
?「今年の夏/冬中(じゅう)にこの課題を完成させよう」
「昼休み中(ちゅう)に郵便局に行っておく」
?「昼休み中(じゅう)には全部終わらなかった」
「夏休み中に、本を10冊読むつもりです」(筑波『表現文型1』p.134)
  注)『表現文型』では「じゅう」と読ませているが、「ちゅう」も可能だと思われる



2-1-4「〜中(ちゅう)」が基本であることを考える

上の図からも見てとれるように、「〜中(じゅう)に」しかならないものは限られている。そして、どちらも付くもの(●)にしても、実際の使用頻度を考えると、「〜中(じゅう)に」は「今〜」の単語グループに比較的多く付くのではないかと思われる。
これは本考察の重要なポイントとなっている「中(じゅう)」の<遠心的な構造>と関係していると考える。「中(じゅう)」はその基本的な「〜のすべて」という意味のために、それが<今>を中心とする<時>名詞では<今>を中心に拡張している単語に使われるべきだという意識が働くのであろう。

また、同じ要因から「〜中(じゅう)」は(2)のグループには付きにくいこと。過去の単語にはどちらも付きにくいことを考慮して、これらを「?」として、実際の使用頻度を考慮して改めて図を作成すると次のようになる。(青色になっている部分が事実上の「〜中(じゅう)に」の使用範囲」となる)

  (1)<今>を中心とする単語       (2)今を中心としない単語
   __________________   ____
  |×今日   ×あした   ?きのう |=|?〜日 |   ←※「一日中(じゅう)」
  |___<第3レベル>________| |____|
   ___<第2レベル>________   ____
  |●今週   ●来週    ?先週  |=|●〜曜日|
  |●今月   ●来月    ?先月  | |●〜月 |
  |_____     ________| |____|
   ____ |   | _______   ____
  |×今年 ||●来年||  ?去年  |=|?〜年 |   ←※「一年中(じゅう)」
  |____||___||_<第3>__| |____|


まとめ

本考察では日本人の<時>に対する認識を考察することによって、認知レベル上の基本的なトキの単位というのを手がかりに「中」の用法と熟語の生成を考えてみた。「一晩」「一日」「一年」という<長さによって区切られたトキの単位>という視点は本考察のキーワードとなっている。

問題1については、「ちゅう」と「じゅう」の二つの読み方ができるものは意味によって使い分けがされているのだが、それにしても「じゅう」はある条件のもとで使用される範囲が限定されていることがわかった。
問題2については、「〜中(ちゅう)」「〜中(じゅう)」「〜中(じゅう)に」の3つについて<時>名詞の付きかたを観察することで「ちゅう」を基本とする立場をとるのが適当であることが検証できたと思う。



ネット検索で「〜中に」の使用頻度を調べてみる

以下の結果を見ると、上で考察したように過去の単語は極端に使用頻度が低く、未来の単語も比較的少なく、「今〜」の単語が非常に使用頻度が高いことがわかる。

<ネット検索の結果>(kensaku.orgを使用)

 今日中に 46109 (他に、きょう中に88、きょうじゅうに53)
 明日中に   8774 (他に、あした中に26、あしたじゅうに11、あす中に21、あすじゅうに6)
    注:「明日」という表記は「あした」も「あす」も「みょうにち」もあるが、
      それにしても『今日中に』と比べると数が際立って少ない。
 今週中に 29976
 今月中に 27174
 今年中に 34413
 来週中に   7645
 来月中に   1789
 来年中に   2709
    注:ネット検索では「中」の表記が「ちゅう」か「じゅう」かまではわからないが、
      「今〜」に対して「来〜」はあきらかに数が少ない。
 昨日中に   830(他に、きのう中に9、きのうじゅうに1)
 先週中に     436
 先月中に     310
 去年中に     232
 昨年中に   1182

 今朝中に       11
 今晩中に   2298
 今夜中に   3973
 昨晩中に       89
 昨夜中に     104
 ゆうべ中に      1
(夕べ中に)      2
 明朝中に         1
 明晩中に         1



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