#31「そう思う」と「そうだと思う」


考察

注:以下にある引用はアルクの「にほんご喫茶室」の掲示板からの引用です。

☆構文の違い(1)品詞の問題

まず構文の確認ですが、この二つは同じ「そう」を使っていても構文上は異なるものです。
(ダミアンさんと基本は同じですが、「私も」と「私は」の二つを入れてあります)

そう思う」→「そのように」+「思う
 1)「私もそう思う」=<(あなたがそう思っているように)私もそうのように思う>
 2)「私はそう思う」=<(あなたはそう思っていないようだが)私はそのように思う>

「私も〜」の場合は相手と同じ考えだということで、当然<心理的に近い>情況で使われます。
ここでポイントは「そのように」の部分には<名詞><形容詞/形容動詞><動詞>なんでもOKということだと思います。
A1)「このドレス 有名ブランド品よね/かなり高いわよね/私に似合うわよね」
   「私もそう思うわ」
A2)「このドレス 有名ブランド品かしら?/かなり高いかしら?/私に似合うかしら?」
   「私はそう思うわ」

そうだと思う」→「そうだ思う
 1)「私もそうだと思う」=<私も「◯◯は/が〜だ」と思う>
 2)「私はそうだと思う」=<私は「◯◯は/が〜だ」と思う>
ポイントはBの「そうだ」にあたる部分は<*名詞文>しか来ないということです。

B1)「このドレス 有名ブランド品よね」
   「私もそうだと思うわ」
B2)「このドレス 有名ブランド品かしら?」
   「私はそうだと思うわ」

☆構文の違い(2)接続の問題

もう一つのポイントはなぜ両者にニュアンスの差が出るかということです。
これも構文上の違いから来ていると思われます。

次の例文を比べてください。
X1「山田さんの行為をとても立派に思う
Y1「山田さんの行為をとても立派だ思う」

「思う」や「感じる」など思考や感覚を表す動詞は、Xのように補部を<連用形>にして直接繋げることもできるし、Yのように<引用の「と」>を使って繋げることもできます。
両者はその繋がりの直接性からXのほうがYよりも直接的に感情や思考を述べる文になります。それは<直接経験する>かどうかにも繋がってきます。
X2「この布はとても柔らかく感じる」
Y2「この布はとても柔らかいと感じる」

直接手に触ってみて考えを言う時にXのほうが適当で、Yは直接手にしていなくても表現できます。このように一般に<連用形接続>は主観的な印象(話者の直接的な感覚や感情を述べるの)を与えるのに対して、<引用接続>は客観的な印象を与えます

このようなわけで、B1)はA1)と結果的に同じ考えであっても形式上「◯◯は××だ」と自分で判断する形になっていて<引用接続>になっているのでAとは異なるニュアンスが生じるのだと思います。

そこで改めてダミアンさんの作られた例文をみると、
----(引用開始)#7087より
>「ねぇ、この男優って、かっこいいよね!」だったら、
> A.「うん、(私も)そう思う。」(主観的な意見の同意が得られて、自然な感じ)
>「ねえ、この男優って、この間の映画に出てた、あの人だよね?」だったら、
> B.「うん、(多分)そうだと思う。」(客観的な事実に対する確認が出来て、自然な感じ)
----(引用終了)

前者は<形容詞文>で後者は<名詞文>になっています。これは自然な文を作ろうとした結果だと思います。
後者は文法上は「そう思う」を使って、「うん、(私も)そう思う。」とも言えると思います。
でも前者は文法上は「そうだと思う」は使えません。
「そうだと思う」に『多分』のような副詞が入るのは「〜は〜だ」という判断文の形式になっているからでしょう。「そう思う」は完全に相手の意見に同調しているわけですからそのような副詞が入る余地はないのでしょう。

☆「そうだと思う」の「思う」

ここで大きな疑問が起こると思います。「そうだと思う」は<形容詞>でも<動詞>でも使っているのではないかという疑問です。そこで上では<*名詞文>としましたが、これは純粋に名詞が来ている場合だけでなく構文上/意味上そのような特徴を持っている場合と考えるのがいいと思います。

ア)「山田さんは行くんですか/ですよね」(「〜んです」の文型
  「そうだと思います」
イ)「やっぱり山田さんが一番頭がいいですか/ですよね」(総記の「が」の文型
   (=一番頭がいいのは山田さんかな)
  「そうだと思います」

そこでもう一度ダミアンさんの例文とそのニュアンスの差の説明を見ると
----(引用開始)#7087より
「ねぇ、私ってかわいい?」と聞かれて、
 A.「ああ、そう思うよ。」は許されても(ちょっと無粋ではありますが)、
 B.「ああ、そうだと思うよ。」はダメですよね
   (逆に「その気ないよオレ」、という意思表示になるかもしれません)
----(引用終了)
という箇所がありますが、この部分は非常に考えさせられました。

<形容詞>であっても「そうだと思う」で答えることは実際(よく)あることだと思いますが、文法上<*名詞文>しかできないとしたらどうしてこんなことができるのかと考えてみました。
これは私のまったくの推測ですが、
<形容詞/形容動詞><動詞>の場合には『〜(の/んじゃない)?』の( )の部分を補っているのではなかと思います
「ねぇ、私ってかわいい(んじゃない)?」
「ああ、そうだと思うよ。」(=かわいいだと思うよ)

そうすると、Aの「思う」は<相手の考え方と同調する積極的>な「思う」の意味で使われていますが、Bの「思う」は<断定留保>の用法の「〜と思う」になっているような気がします。
だから、「思う」を使わずに、「ああ、そうだとも!」と言えば、かなりストレートに気持ちが伝わるような気がします。(ちょっとクサイ台詞ですが)

☆「そう思う」と「そうだと思う」のまとめ

「そうだと思う」は「そうだ」という形式からそれに相当するものとして<*名詞文>しか来ません。
名詞文になっているということは<判断文>になっているということです。
見かけ上<動詞>や<形容動詞/形容詞>を受けているようでも、実は「〜の」の形で受けていると考えられます。そうすると、「そう思う」のように相手の提示した内容に完全にマッチするような形の表現とはちがって再度「◯◯は〜だ」の形式で受け、<引用接続>することでかなり客観的な印象を与えることになります。そして「そうだと思う」は「そうだ」と言い切らずに「〜と思う」を付けることで<断定留保>の印象も与えます。
以上をイメージにすると次のようになるでしょうか。
「そう思う」  →ぴったり寄り添った「思う」
「そうだと思う」→1歩退いた「思う」

ということで、ダミアンさんが感じた両者のニュアンスの差はおそらくこの「思う」が違う意味合いで使われていることによるのではないかというのが私の考えです。

☆どう指導するか

初級の学習者に指導する場合には以上のことを踏まえて、便宜的に広く通用する「そう思う」をまず教えて、「名詞」の時には「そうだと思う」が使えると指導するというのはいかがでしょうか。名詞文の場合に限っておけば、両者にそうニュアンスの違いが出ないので差し支えはないように思います。
中級になってから、「名詞」以外でも「そうだと思う」が使われることがあることを適宜指導するのがいいと思います。



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