#2 「〜ガ〜てある」と「〜ヲ〜てある」、「切れる」と感じるのはなぜ?

Shujiさんがご指摘の「切れる」感じということについて考えてみたました。
書き込みによると、「窓が開けてある」と「服を着てある」を比べていますが、
「が」と「を」、「開ける」と「着る」は別々に扱ったほうがいいのではないかというのが
私の考えです。
すぐ思いついたのは「〜ガ〜タイ」と「〜ヲ〜タイ」の違いについてです。
この違いを説明する際に、句のまとまりとして、
(1)わたしは<りんごが><食べたい>
(2)わたしは<<りんごを食べ(る)>たい>
のような分析をすることがあります。
結局は『ヲ』格名詞が要求する他動性が、動詞との結び付きを強めるのでしょう。
この考え方を利用すると、他動性の強い動詞の場合にはガ格は表われにくいことになり、
実際次ののように不自然になります。
(3)?わたしは<<あいつガ殺し>たい>
   ◯わたしは<<あいつヲ殺し>たい>
また、ガ格の後ろに挿入句があるとやなり不自然になります。
(3)’?わたしは<りんごガ>(みんなといっしょに)<食べたい>
    ◯わたしは<<りんごヲ(みんなといっしょに)食べ>たい>

そこで、本題ですが、
「窓が開けてある」と「窓を開けてある」の文で『切れる」感じがあるとすれば、
同じ様な理由からではないかと思います。
(4)<窓が><開けてある>
(5)<<窓を開けて>ある>
(4)では単純に<窓>の属性(この場合は状態)を述べる文
(5)では<窓を開けた>その結果今そのような状態に<ある>ことを述べる文
この違いによって(4)よりも(5)のほうが次の意味が強く出てくるのでしょう。
A『だれかが』
B『何か目的があって』
C『あることをし終わって(すでに実施済みで)』-->(動作が終わったことを強調)
D『その結果が持続している』

例)◯「あれ、あんなところに花が生けてあるよ」
  ?「あれ、あんなところに花を生けてあるよ」(※発見の場面では不適切)
  ◯「お客が来るので、花が生けてあるのよ」
  ◯「お客が来るので、花を生けてあるのよ」(※A〜Cの意味がより強く出る)

次に、「服が着てある」と「服を着てある」ですが、
基本的には上の違いが当てはまるかどうか実は疑問です。
引用の場面では「が」「を」ではなく「は」を使って、
「服は着てある」となっているのがどうも気になるんです。
確かにShujiさんが指摘するように、「てある」の意味を考えれば、この引用文は「服を着てある」だと思うのですが、実際この文脈では「が」や「を」では不自然ですよね。
どうしてかと考えて見ると、
「太郎が花を生ける」 --> 「花が/花を生けてある」
のように、他動詞文はその変化を受けた対象(目的語)を取り出して「〜ガ/ヲ〜てある」とするのに、
「太郎が服を着る」  --> 「服が/を着てある」
では見かけは同じですが、変化を受けた対象は「服」ではなくて<主体変化>で「太郎」にならなければならないはずです。ここに矛盾が生じるわけです。
このような矛盾は再帰性のある<主体運動>かつ<主体変化>動詞ならでは現象だと思います。
これが「着せる」という第三者に対する働きかけであればなんら問題ありません。
「太郎が(次郎に)服を着せる」 --> 「(次郎に)服ガ/ヲ着せてある」

つまり、「着る」の類の動詞は「対象物+ガ/ヲ 〜てある」という文を作れないということになってしまうのです。そこで「は」という便利な助詞が登場したと考えるのですが・・・
げっげっ! そんなのありっ!ていう感じですが、本当にこう考えるのは正しいのでしょうか。

ですから、もし「切れる」感じがするとすれば、それは「窓ガ/ヲ開けてある」とは違う理由ではないかと思うのです。

私の前回の推測が正しければ、そもそも「着る」は<主体変化>と捉えて、状態には「テイル」を使うわけですから、それを敢えて「テアル」を使うというところにこの文に対して「切れる」と感じる何かがあるのだと思います。
ちょっとマンガっぽく書けば、『本当は「もう服は着ている」っていわなっきゃいけないんだけど、もう着るべき服は着て準備完了の意味を強く言いたい! どうしよう。そうだ、おいらは元々他動詞なんだから「てある」を付けちゃえ!でも、「ガ」「ヲ」は使ったらおかしくなちゃうから、「服は着てある」 これで言いたいニュアンスが出せたぞ。』のような心の働きがあったのでしょう。やっさんの命名をお借りして創作すれば『身につける系動詞ならではの合わせ技、一本!』みたいなものだと思います。
引用文の中での「着てある」がこのような<臨時借用>をすることによって一種独特の<臨場感>を作り上げているのだと思います。
逆に、このような<臨場感>を生み出す文脈だからこそ、「着てある」という<臨時借用>が許されるのかもしれません。
例)「さあ、おまえも早くこの服を中に着るんだ」
  「うるさいな。もうその服は着てあるよ。ほら。」
               着ているよ。ほら。」
               着ておいたよ。ほら。」
 (どの文が一番自然でしょうか?)



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