[疑問点]
この家がだれのうちか質問する時に<これ>と<ここ>を使って二つのの文が考えられる。
(A)これはだれの家ですか?
(B)ここはだれの家ですか?
写真などのような対象を見て話すときには(A)が自然に感じて
ある家を目の前にして話すときには(B)が自然に感じる。
対象を<モノ>として認識するときには当然「これ」という指示詞が使われるが、
対象を<場所>として認識するときには「ここ」が使われる。
日本人にとってこの当り前のように感じていることも英語などに翻訳してみると、このような使い分けはちょっと不思議にも思えてくる。英語では(C)となり、(D)のような文にはならないのではないかと思う。
(C)Whose house is this?
(D)Whose house is here?
このことが気になって、以前「ここ」の使い方について調べたことを踏まえてこの日本語の特徴をまとめてみた。
以前アルクの掲示板で「ここ」の丁寧な表現として「こちら」を使うことがあるが、授業などを終わる時に、『今日はこちらまで』というのは不自然なのはなぜか?という投稿があった。
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このときに「ここ」の二つの意味を考えて、(1)の用法には「こちら」を丁寧な言い方として使用できるが、(2)の用法には使用できないのではないかと考えた。
(1)地理的場所を指す場合
(2)部分や箇所を指す場合(『基礎日本語辞典』角川書店より)
(アルクの書き込みを見てみる→ここをクリック)
まず、<部分や箇所>を指す場合に日本語と英語とではどのような違いがあるか見てみる。
[英語との対比例]
1 その話しのどこが面白いんですか。
What's interesting about that story?
2 私のどこがいけないんですか。
What's wrong with me?
3 彼の話しはどこまで本当なんだろうか。
I wonder how much of what he says is true?
4 僕のどこが気に入らないんだ。
What have you got against me?
5 ここからあとは自分でやりなさい。
You do the rest by yourserl.
(以上の対訳は『英語表現辞典』(朝日出版社)からの引用)
6 彼のどこが好きなんですか。
7 この文のここがおかしいと思うんです。
(注)英語でもhere/whereを使う例
8 どこが痛いの。Where does it hurt?
9 背中のこの辺が痛い。My back hurts right around here.
10 ほかに痛いところは?Do you have pain anywhere else?
(以上の対訳は『英語表現辞典』(朝日出版社)からの引用)
日本語は英語と比べて<部分や箇所>は「場所」扱いで「ここ/どこ」を使う場合が多いという事実は何を意味するのか?
下のような物〜箇所〜場所という連続性を考えて見ると、日本語と英語の表現は次のように対応していると思われる。
「これ」 「ここ」 「ここ」
<物>--------------<箇所>--------------<場所>
what
具体的 where where
抽象的 what
人間の認知の仕方に<メトニミー:換喩>というものがある。
注)<メトニミー>については#9をご参照ください
この近接による意味のズレ現象が日本語には顕著に現われているのだろうか?
つまり、<場所>で表現して、その中味(場所→建物、箇所→モノやコト)を指示するという現象である。
日本語には「ここ」「これ」の使い方にそれが現われているのではないだろうか?
さらに日本語には時間をそれが流れる空間と認知(<メタファー>による認知)することによって「ここ」が時点を示すことができる。
1) ここで一服しょう。
Let's take a short break now.
2) ここが我慢のしどころだと思った。
I thought that now I woukd have to prove my ability to be patient.
(以上「英語表現辞典(朝日出版社)」からの引用)