「〜に〜がありません」は不自然? [コメントする]

「〜に〜がありません」は不自然?


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/16 01:57:53)

※これは過去ログを整理したものです(管理人)

No.578
投稿時間:03/01/16(Thu) 08:54
投稿者名:FN
Eメール:
URL :
タイトル:います、あります。の否定形の使い方

先日『優しい』と『親切な』の違いについて質問したものです。

以前に書きましたスペインの知り合いからまた質問されて、(教えるとまではいきませんが)『(場所)に(主語)があります/います』の過去形について説明していたとき、ふと疑問に思ったことがあります。

例:
『庭に猫がいます。』→いわゆる“There is a cat.”の場合。
これを単純に否定文にすると
『庭に猫がいません。』
となりますよね。 しかし、日常そのように言うかというと、、、
言わないのでは?と思ったのです。
例えば、『庭には猫は(一匹も)いません。』と助詞を変えて言う方が私にはスムーズに聞こえます。
文法的にはどのように説明すればいいのでしょうか?

お手数ですが、コメントいただけるとありがたいです。

No.581
投稿時間:03/01/17(Fri) 04:14
投稿者名:oyanagi
Eメール:oyanagi@tky2.3web.ne.jp
URL :
タイトル:猫vsお父さんのパンツ

FNさん、こんにちは。

> 例:
> 『庭に猫がいます。』→いわゆる“There is a cat.”の場合。
> これを単純に否定文にすると
> 『庭に猫がいません。』
> となりますよね。 しかし、日常そのように言うかというと、、、
> 言わないのでは?と思ったのです。
> 例えば、『庭には猫は(一匹も)いません。』と助詞を変えて言う方が私にはスムーズに聞こえます。

これはもっともな疑問です。私も初めて初級を教えたときには同じ疑問を持ちました。
スペイン語はわからないのですが、英語と同じように考えれば、動詞をただ否定形にするだけでは、どうもへんな文になってしまいますね。

> 文法的にはどのように説明すればいいのでしょうか?

文法の話をする前に、ちょっと考えてみて下さい。
普通は言えないような文が、「言える場合があるとしたら、それは何か」ということです。今回に限らず、こう考えるとまた違った世界が広がります。

たとえば、「あ、犬が鳴いています」はごく自然な文ですね。
ところが、「あ、犬が鳴いていません」はさっきの文と同じような不自然さを感じます。

そこで、こんな状況を考えてみます。「このスピッツという犬はいつもキャンキャン鳴く犬だ。いつも鳴いてうるさくてしょうがない」
そんな状況で、人がその犬を見たとき、
「あ、犬が鳴いてない(どうしたんだろう)」と言うはずです。
まあ、スピッツじゃなくても、普通の犬でもいいんですが、要するに、本来は「〜する」はずなのに、今は「〜していない」場合に、驚きを込めて「あ、・・・が〜していない」と言えるというわけです。
ほかの例文をもう少し。
(はじめてデジタル時計を見た人)
「あれ? この時計には針がないぞ」
(お父さんがたんすの引き出しをあけて一言)
「お〜い、母さん。わしのパンツがないぞ」

そうすると、「庭に猫がいない」という文も「いつもは野良猫がたくさんごろごろしている庭なのに」という前提があれば、「あ、庭に猫がいません」という文もOKだということになります。OKというのは使えるという意味で、「あれ! 庭に猫は一匹もいません」と言う場合もあります。ありますが、驚きを表すのは、「が」のほうがぴったりではないでしょう。なぜこのような違いが出るのかは次に書きます。

さて、前置きが長くなりましたが、日本語で存在文と呼ばれる文型「〜に〜がある」は初級の学習者にとって、主語にあたるところに「が」が来る初めての文型になります。ですから、あまりこの「が」が何かなどと踏み込むことはせず、
肯定文「〜に(は)〜があります」
否定文「〜に(は)〜がありません」
   「〜に(は)〜はありません」
のように(いい意味で機械的に)否定文には「は」も使いますとだけ言って済ませることもあります。

もちろん「〜に〜がありません」がそう不自然なく使える場合もありますから、「は」だけだとも言えないし、「が」だけだともいえないわけですが、そのへんはあまり深入りしないこともあります。
「ジョンさんのうちには電話がありますか」
「いいえ、私のうちには電話がありません」
「この町にはスーパーが一件もありません」
※なぜこれらが「が」のままで自然なのかは、最後まで読んでいただいて、わかってもえらればと思います。

さて、本題ですが、
存在文の「〜に〜がある」は文法では『現象文』と呼ばれる文型で、見たことを“ありのまま”その“全体”を述べる文です。
「あ、犬が鳴いている」もそうですね。文の特徴としては、文全体が聞き手に新しい情報を与えるものだというのがあります。

ですから、「庭に猫がいない」ことを“ありのまま”その“全体”を述べる文というのも当然あるわけです。
ところが、ここで問題が一つあります。それは「〜ない」という否定文の扱いです。

日本語では「〜ない」というのは、その人が『判断』した結果使えると考えます。つまり、“ありのまま”その“全体”を述べるのではなく、”何かについて”それが“どうなのか”を述べる文になるということです。理屈をこねているようですが、「否定」するからには、それはその人の判断だってことですね。

それで、『判断』の場合には『判断文』という文型があって、その基本が「〜は〜だ」なんですね。つまり、主題として「〜は」をたてて、それについて、それが“どうなのか”を述べるというわけです。

そうすると、「〜に〜がいる」は問題ないけれども、「いない」と言うからには、その“対象について”それが“どうなのか”を述べる文型、つまり判断文にするのが普通だというのが文法の理屈です。

したがって、普通の状況では
肯定文の場合は、自分から観察した結果を述べるのであれば
★「あ、庭に猫がいるよ」と、
 見たことを”ありのまま”その”全体”を新しい情報として述べるし、
「庭に猫がいますか」の答えとしても
★「(見回して)ええ、庭に猫がいますよ」と
 見たことを”ありのまま”その”全体”を新しい情報として答えることができますが、

否定文の場合は、「庭に猫がいますか」の答えとしては、普通は
★「(見回して)ええと、庭に(は)猫は(一匹も)いないよ」と、
 <猫について観察した結果を言えば、一匹もいない>と『判断文』で答えることになります。

『現象文』として使うのであれば、(「庭に猫がいますか」と聞かれても、聞かれなくても)
★「(見回して)あれ!? 今日は庭に猫が(一匹も)いないよ」と、
見たことを”ありのまま”その”全体”を新しい情報として述べることになるわけです。
そして、判断文と違って、「いるはずの猫がいない」という意味が強くでます。

以上です。日本語教師ではないとうかがったので、できるでけ分かりやすくと思ったのですが、いかがでしょうか。文法用語もいくつか使ってしまいましたが、もし分かりにくいところがあったら遠慮なくご質問ください。

No.582
投稿時間:03/01/17(Fri) 07:56
投稿者名:FN
Eメール:
URL :
タイトル:Re: 猫vsお父さんのパンツ

ありがとうございました。
メールを見た瞬間、「こんなにしっかりと丁寧に書いてくださったんだ」と本当にありがたく思いました。
前回お返事をいただいたときもそうでしたが、「読んでいくうちに目の前が明るくなっていく」のがはっきりと分かりました。

そうですね、考え方、物を見る視点をちょっと変えるだけで、これほど変わるものとは思っても見ませんでした。

単に「この使い方はNO」として排除するのではなく、「言える場合は何なのか」という考え方ができる、というのには、はっとさせられました。

確かに途中の文法用語などに少し戸惑いましたので、今回も何度か読み直してみます。
ご親切に、どうもありがとうございました。


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