「優しい」と「親切な」 [コメントする]

「優しい」と「親切な」


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/16 01:55:08)

※これは過去ログを整理したものです(管理人)

No.572
投稿時間:03/01/13(Mon) 06:52
投稿者名:FN
Eメール:
URL :
タイトル:「優しい」と「親切な」の意味の違い

こんにちは。
形容詞「優しい」と形容動詞「親切な」の意味の違いを教えてくだ
さい。
感覚的には使い分けていると思うのですが、いざ言葉で説明すると
なるとなかなか難しい気がします。

No.573
投稿時間:03/01/13(Mon) 19:21
投稿者名:oyanagi
Eメール:oyanagi@tky2.3web.ne.jp
URL :
タイトル:類義語を考えるときの方法(一例)

FNさん、こんにちは。管理人のOyanagiです。

せっかく<勉強部屋>にご訪問くださったので、類義語の意味の違いを考える手順を、今回の「優しい・親切」を例にとって、辞典を紹介しながら書いておきます。今後のご参考になさってください。
(手順といっても、決まったやりかたがあるわけではありません。私がよくとる方法です。FNさんが日本語教師かどうかはわかりまんが、もし日本語教師であれば、何か参考にする辞典を手元に置くのがいいと思いますよ。)

(1)イメージしてみる。

類義語というのは、文字どおり意味が似ているわけですから、意味が重なっている部分があるのでしょう。そこで、まず内省してみることから始めます。内省というと、区別がわからないのに何を考えるのかと疑問に思うかもしれませんが、重要なことは「頭を刺激する」ことで、別にここで答えが出なくても、あとで辞書などにあたったときの「納得」(または「驚き」)の度合いが違います。

で、何を内省するかというと、【典型】です。つまり、その言葉を使った文を口にしたときに、どんな状況を第一にイメージするかということです。

(ア)「山田さんは優しい人です」
(イ)「山田さんは親切な人です」

アとイを何回か口にしながら、山田さんのどんなことをイメージしますか。
※Oyanagiのイメージ
(ア)→柔和な印象で、相手に配慮して接してくれて、すぐに怒ることがない人。
(イ)→人が困っているときに、助けてくれる人。

私はこんなイメージを持ちます。そうすると、確かに(ア)の「相手に配慮して接する」という部分が『親切』とつながっているかなと思いますが、【典型】のイメージは、「優しい」はその人の様子、性格であり、「親切」は(もちろんその人の属性を示しているのだけども)どちらかというと、態度、行動をイメージするのではないでしょうか。

※もし日本語教師なら、ここでもっとしたほうがいい作業があるのですが、今回は省略します。
 最近「やっさん」の掲示板でそのことにふれた回答があるので、そちらをご参照ください。
 →日本語教師塾 http://6200.teacup.com/yassn/bbs
 (「認知」と「認識」の違いについて)

(2)国語辞典にあたる

(1)をしないで、すぐに(2)でもいいのですが、頭のトレーニングのためにはぜひ(1)をお勧めします。
■まずは「新明解国語辞典」(三省堂)
 人によって辞書の好みも違うと思いますが、新明解は言葉の定義(解説)には定評があります。

■次に別な出版社の国語辞典
 新明解が優れているといっても、やはり別な辞典をひいて比べてみたほうがいいでしょう。
 ※Oyanagiは「現代国語例解辞典」(小学館)を使用しています。
  これは全くの好みですが「例解」の類いの辞書がほしかったのでこれにしました。
  お金に不自由してなければもっと買うのですが・・・・。

■大辞典にあたる
 大きければいいというものではありませんが、幸いインターネットで「大辞林」(小学館)がひけますからそれを利用すればいいでしょう。

それでは「新明解」の定義を引用しておきます。
*******引用********
【優しい】
[1]声や目などの感じが穏やかで、警戒心を与えない様子だ。
   「ー目つき」
[2]節度・思いやりや情が有って、好ましい感じだ。
   「気だてのー娘」

【親切】
 弱い立場にある人や困った目に会っている人の身になって、何かやったりやさしく対応したりすること。またその態度。
 「ーを尽くす」
*******************
さて、この定義から何を読みとるかですが、(1)のイメージの作業でやったことがそれほど的外れではなかったことがわかります。【親切】の定義に「やさしく対応する」が入っている、まさにこの部分が二つの単語の使い分けを分かりにくくする元凶ですね。
ただ、冷静に考えれば、どこに視点を当てるかの違いとして説明できそうです。やはり「優しい、優しく(〜する)」は、その人の性格や様子であり、「親切だ、親切に(〜してくれる)」は、その人がとる行動や態度に焦点が当てられていると言えるのではないでしょうか。

ここでの(1)のイメージ作業と(2)の辞書の定義をまとめておきましょう。
※図を書いてみるといういのは私の「癖」です。イメージをどんなものであれ書いてみるとわかった気になれます(いい意味で)

 Aさん Bさん
 ○  ●
 |→→|
 |  |

上のようにAさん、Bさんの二人がいるとすると、
★「優しい」は「○」と「○→」の部分で、Aさんの性格や見たときの印象、行動するときの印象を述べる言葉で、
★「親切」は「○→●」の部分で、他の人に<やさしく>何かをしてあげる態度や行動を述べる言葉だと言えます。
ポイントは「親切」のほうが相手(=●)がいて、その人が困っているときになどに助けてあげるということをイメージする言葉だということです。そして「→」の部分が共通しているわけですから、「親切」の意味には「やさしく〜してあげる」という日本語になるのもうなずけます。(こういうのってよくこじつけになるんですけど、今回はどうでしょうかネ)

(3)類義語辞典にあたる

ここまできたら、残るのは辞典を編集するほどの言葉に対して鋭い観察力を持っている人が実際に類義語をどう区別しているかをみることです。
人によっては、いきなり(3)から入ることもあると思いますが、(実際私もそんなことが少なくありませんが)こういう辞典のたぐいを先に見ると、悪しき“先入観”が入ります。「そう書いてあるからそうなんだ」というのでは、せっかくのネイティブの頭に眠る「語感」を遊ばせておくことになります。時間があれば、(3)は最後に持ってくるのがいいでしょう。

■「使い方の分かる 類語例解辞典」(小学館)
■「類義語使い分け辞典」(研究社)

類義語の辞典はたくさん出ていますが、二冊選ぶとしたらこれかなと思います。(と言うか、自分がこの二冊を持っているからなのですが)
前者が語彙数を優先して、使い方を用例をあげて比較するもので、解説は簡潔にまとめられているだけです。後者は語彙数はおさえられていますが、解説が詳しく比較もかなり踏み込んで考察しています。こういった性格の異なる辞書を二冊もっていればいいと思います。

そこで、調べてみると、前者では「優しい」と「親切」は類義語として比較対象にはなっていませんでした。(といっても解説はそれなりに役に立つので読んでおくことをお勧めします)

次に後者の辞典ですが、ここでは他の単語も含めて比較されています。ちょっと長いですが、引用しておきます。
********引用********
(易しいの解説のあとで)
「やさしい」は「優しい」とも書き、レベルを落としているから理解しやすいという意味のほかに、他人を思いやるような感じがあって近づきやすいという意味があり、その人の素直で大人らしい様子・落ち着いて穏やかな態度・優美な立ち振る舞い・思いやりのある性格などを表し、もちろん「簡単だ」には置き換わらないが、「親切だ」になる場合がある。
「親切だ」は子供・老人・体の不自由な人など、弱い立場にある人や困っている人に対し、その人の身になって何かしてやったり、思いやりのある態度を示すことで、「親切な説明[忠告・物腰]・親切に教える[世話(看護)する]・とても親切な人が席を譲ってくれた」などと使い、「やさしい」に置き換わる。ただ「親切だ」には自分は上位に立ち、善行を施しているという意識が感じられ、「人に親切を無にする・小さな親切大きなお世話」など、親切にした方は礼の一つも欲しいという気になり、された方は迷惑だと感じて、人間関係にひずみが生じる場合がある。「親切な行い・小さな親切運動」といった道徳的な印象のあるものには、「やさしい」には置き換わらない。(中略)
「やさしい目[声・笑顔・性格]・気持ち[気立て・根]がやさしい」などは、態度と言動しか表さない「親切だ」には置き換わらない。
********************
(2)でまとめたことが、ここでも的外れではなかったことがわかります。
ここでやってみる作業が二つあります。

★「置き換えができる」場合に、ニュアンスの違いはないかと考えることです。
ニュアンスに違いがあるということは、それぞれの単語の【典型】にひきずられている証拠です。

上の例を読んでみて、ニュアンスの違いを感じるとしたら、この引用の解説にもあるように、(また、2でまとめたように)「親切」は二者関係がイメージされて、「求める者」と「与える者」という関係を意識するのではないでしょうか。

★「置き換えができない」場合には、それぞれの言葉の特徴の【典型】の部分が強く表れている場合です。
(慣用句となっているものは、もう一方では置き換えることができないということもありますね。)
引用部分の最後で「置き換わらない」としているのは、「優しい」の【典型】のイメージである性格を表すということが影響していることは確かでしょう。

ーーーーーーーー
以上ですが、あとは、FNさんが説明しやすいようにまとめてみてください。


(5)番外編
もし(1)〜(3)の作業をしてもよく分からなかったらどうするかですが、それが基本語であれば、一つの単語についてより深く考察した参考書が役に立つでしょう。

■「基礎日本語辞典」森田良行(角川書店)

  基本語について文法・語法が分析されている良書です。
  残念なことに絶版だそうで、今は古本屋で探すしかないようです。
  私は合冊になったものを持っていますが、もともとは1〜3に分かれて出ていました。
  インターネットで調べてみると、この分冊のほうはところどこにありそうですね。

■「ことばの意味1 辞書に書いてないこと」平凡社選書(1〜3のシリーズ)

  基本語(主に動詞、副詞)についてその意味を(副題どおり辞書には書いていないことを)考え、類義語の違いを明らかにする。言葉の意味はどうやって分析するればいいのかも勉強できていい本です。

また、英語から日本語を見るとけっこう発見があります。重要なのは、「英和辞典」ではなく、文と文を比べるということで、たとえば「優しい」をひくと、「優しい」を使った(よく使われる)日本語の文が“自然な英語”でどう訳されるかが書かれています。今回の比較ではそう威力は発揮しませんが、英語での【使い分け】から日本語の意味の違いを知ることができます。それで、私が愛用しているのが下の辞典です。

■「会話作文 英語表現辞典 Japanese-English Sentence Equivalents Revised Edition」(朝日出版社)
※ちなみに、「優しい」は通常は英語でgentleと訳され、「親切」はkind(文によってはnice)と、英語でも使い分けられています。まあ、この程度なら英和辞典でもわかるとは思いますが。

何か不明な点があれば、遠慮なくご質問ください。


No.574
投稿時間:03/01/14(Tue) 04:52
投稿者名:FN
Eメール:
URL :
タイトル:Re: 類義語を考えるときの方法(一例)

Oyanagiさん、早速の回答どうもありがとうございました。
本当に丁寧に説明してくださり、大変ありがたく思います。

まず、私は日本語教師ではありません。
スペインに住んでおりまして、先日現地の知人と日本語について話をして
いたところ、この疑問が浮かびました。

日本語ですらしっかりと理解をしていなかったのに、スペイン語でなおか
つ、スペインの人にこの違いを説明するのはとても難しかったの
で、こちらにメールを送らせていただきました。

『イメージしてみる』を読むにつれて、頭の中のもやっとしたものが消え
ていく気がしました。
完全に理解するまでには、もう一度読み直して頭の中で整理しなくてはい
けませんが、引っかかっていた部分が薄れた気がします。

また、質問させていただくこともあると思いますので、その時はどうぞよ
ろしくお願いいたします。
ありがとうござました。


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