「できるだけ」(副詞の修飾) [コメントする]

「できるだけ」(副詞の修飾)


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/14 15:02:36)

※これは過去ログを整理したものです。(管理人)

[533] できるだけ 投稿者:AM 投稿日:02/12/17(Tue) 01:34

「私はできるだけ日本で大学を卒業した後帰国するつもりです。」という文を学生が作りました。
文的におかしいでしょうか?
「できるだけ」の後に「早く」がつけば大丈夫のように感じます。
それか「できれば」に変えれば大丈夫だと思いますが。
「できるだけ日本語の勉強をがんばります。」という文は大丈夫だと思いますが、違いをどう説明すればよいのでしょうか?
教えていただければありがたいのですが。よろしくお願いいたします。
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[539] 「〜た後」がクサイですね 投稿者:oyanagi 投稿日:02/12/20(Fri) 03:28

AMさん、こんにちは。
私も長年、学生達の作文を添削してきましたが、ご質問いただいた例は記憶にありませんでした。ほんとうに学生の作った日本語は勉強させられることが多いですね。
今回問題となった文がなぜ不自然なのかについて最初に書きます。その後で(■発展)で、この文も自然になる場合について触れています。
> 「私はできるだけ日本で大学を卒業した後帰国するつもりです。」
この文が不自然に感じるのは、「〜た後」が使われているからではないでしょうか。
「できるだけ」は初級で学習することが多いと思いますが、初級の学習者の作文でしょうか。
初級では「できるだけ〜(する)ようにします」のような文型と一緒に学習するのではないかと思います。または、「できるだけ〜てください」「できるだけ〜たいと思います」とか。
とにかく、単文で文を作って練習することがほとんどだと思います。しかし、学生に作文を書かせれば、当然複文で使うこともあるでしょう。
不自然に感じる原因を私は次のように考えます。
★「できるだけ」は、その人のできる範囲でより上のレベルに向けて努力する態度を表す、と考えます。
★ですから、通常は『程度の概念』が文の要素に入っています。
> 「できるだけ」の後に「早く」がつけば大丈夫のように感じます。
とAMさなんが考えたことが、それに当たりますね。それは副詞であったり、「できるだけ安いのをお願いします」のように形容詞だったり、動詞でも『程度の概念』があるもの/文脈での使用なら大丈夫ですよね。「間に合わないかもしれませんが、できるだけやってみます」
しかし、問題となった文章はこの用法ではありません。もう一つの用法ですね。
★「事態の成立か不成立か」だけが問題になっている場合には、その成立(=目標)に向けて努力するということで、「できるだけ」を使う用法があります。
「できるだけ出席するようにします」などのように「〜ようにする」の文型がそれですね。
「〜ようにする」がなくても「子供にはできるだけ自分で支度をさせています」などもその例ですね。ただ、前者は一回の事態について述べているけども、後者は繰り返される事態いついて述べているという違いはあります。
★二つの用法を示しましたが、どちらも共通した概念を持っていると思います。
つまり、基本的用法は、語彙的に『程度の概念』が示されてある文で、後者の用法は、『現時点から目標(=事態の成立)までの過程』が程度の概念と重なるのだろうと思います。
★先の基本的な用法をA、後者をBとすると、次のようなイメージ図になります。
A:  【  程 度  】
  |→ → → (限界)
B   【現時点ーー目標】
  |→ → → (事態の成立)
この→が「できるだけ」という話者の態度を表しています。
さて、ここまで来ると、なぜ「できるだけ」が「〜た後で」と相性が悪いかが見えてきます。
Bのイメージ図が表しているのは「事態の成立」に向けて努力するという話者の態度であり、“必ずしもその成立を意味していません”
★成立を含意していなのに、成立を前提にして「〜た後で」と文を続けることに無理があるのではないでしょうか。
同じような不自然な文はいくらでも作れます。
「できるだけ、先生に会った後で、よく相談するつもりです」
一方、Aの用法(=「できるだけ早く・・・・卒業した後で」)が自然になるのは、「卒業すること」が前提にあって、その中で「できるだけ早く」という意味解釈になるからでしょう。ですから、「卒業した後、帰国する」が無理なくつながります。
■結論
ということで、「できるだけ」を使う文は、基本的なAの用法をまず押さえて、その上で『程度の概念』があることがポイントであるいことを意識させ、用法Bの場合には『それが成立するように努力する」という使い方なのだから、それが成立したことを前提にして、文を続けることはできないと説明すればいいのではないでしょうか。
■蛇足
ちなみに、「〜た後で」ではなく、ただ、テ形接続であれば、そのような制約からは解放されるので、複文になっても大丈夫だと思うのですがいかがでしょう?(まだ多少不自然かもしれませんが、「〜た後」よりは自然だと思います)
「私はできるだけ日本で大学を卒業して、帰国するつもりです」
(※この人は結局は卒業できずに帰国することもあります)
そして、もちろん、「事態の成立か不成立か」という文でなく、Aの『程度の概念』入る動詞文であれば、「できるだけ〜た後で、〜する」は可能です。
「できるだけ日本語を勉強した後で、帰国するつもりです」
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[540] 修飾関係のマジック 投稿者:oyanagi 投稿日:02/12/20(Fri) 03:32

■発展
実は上に書いたことは、問題になった文のみに焦点をあてたものなので、Bの用法でも「できるだけ」と「〜た後で」が使える場合がないのか、もう少し考えなければいけません。
結論は「事態の成立が前提になって文が続く場合には『できるだけ』が前件にかかると不自然になる場合がある」ということでした。その不自然さは、今回の質問にあった「卒業する」→「帰国する」のような表現の組み合わせでおきます。
これを構造で示すと、
[できるだけ・・・た後で][〜する]
となります。
そすると、次のような構造の場合はどうなるでしょうか。
[できるだけ][・・・た後で〜する]
つまり、「できるだけ」があとの文全体にかかっている場合ですね。
[できるだけ][宿題を全部すませた後で、遊びに行きなさい]
このように、修飾構造が変わると、同じ構造でも自然になります。
この修飾関係を問題となった文にあてはめるとどうでしょうか。
[できるだけ][日本で大学を卒業した後、帰国するつもりです]
このように、修飾関係を変えて文を読み直してみると、自然に感じませんか?
ただし、意味は異なります。この文の意味しているところは「単に、帰国する時期について、できるだけ・・・するつもりだ」と言っているわけです。先に考察した時には「大学を卒業することについて、できるだけ・・・た後、〜するつもりだ」という修飾関係だったので不自然に感じました。
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以上です。考えてみると、もっと違う制約がみつかるかもしれません。とりあえずこんなところで。以前の質問への投稿もそうでしたが、もっともらしく書かれているからといって、これが答えというわけではないので誤解のないように。あくまでも考え方の一つです。
今回ご質問していただいたおかげで新しい発見ができました。ありがとうございました。内容で不明、納得が行かないところがあれば遠慮なくご質問ください。
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[543] Re: 修飾関係のマジック 投稿者:AM 投稿日:02/12/21(Sat) 01:16

説明不足ですみません。
> [できるだけ][日本で大学を卒業した後、帰国するつもりです]
>
> このように、修飾関係を変えて文を読み直してみると、自然に感じませんか?
> ただし、意味は異なります。この文の意味しているところは「単に、帰国する時期について、できるだけ・・・するつもりだ」と言っているわけです。先に考察した時には「大学を卒業することについて、できるだけ・・・た後、〜するつもりだ」という修飾関係だったので不自然に感じました。
学生に確認したところ、上記の説明と同じで、彼女は「できるだけ帰国するつもりです」と「できるだけ」は「帰国するつもり」にかかるという説明だったんです。
ですから、私は修飾関係をわかりやすくするために「〜後、できるだけ帰国するつもりだ」と訂正するだけでいいかと思ったんですが、他の先生にも確認したところ、「できるだけ」は範囲を示すから「できるだけ」どうしたいのかという意味で「早く」などが必要だといわれました。それと「帰国するつもり」が「程度の概念がない(瞬間動詞なので?)」(努力して何かをするには時間がかかるためそういう時間的な程度−ある程度の継続性?−と言う意味だと思うのですが)からこれは不自然じゃないかと言われました。
また、問題は私が作ったのですが、採点をしたのは別の先生でその先生は「帰国する」というのは努力しなくても「大学を卒業」したら必然的にしなければいけないことで「日本で仕事をするつもりです」とかならいいのではということでマイナス点ではなくすべて間違いとして採点していました。つまり文全体の意味がおかしいということなのでしょうが。
学生は私の説明では最後まで納得しなかった(私も全くの間違いとは思わなかったため説明があいまいになったからだと思いますが)のですが、ごり押ししてしまいました・・・。
> 以上です。考えてみると、もっと違う制約がみつかるかもしれません。とりあえずこんなところで。以前の質問への投稿もそうでしたが、もっともらしく書かれているからといって、これが答えというわけではないので誤解のないように。あくまでも考え方の一つです。
難しいですね。日本人でもこういう文は書いてしまいますから、どこまで許容とするのかが・・・。
採点作業もすんで、テスト結果も渡してしまいましたが、マイナス4点はやっぱりなんとなく申し訳ない気持ちがします。
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[549] 採点はなかなか大変です 投稿者:oyanagi 投稿日:02/12/26(Thu) 22:34

修飾関係については解決できたようで、よかったです。
テストなどで、学生が書いた文を採点するのはなかなか大変だと思います。要は「基準」を作って、公平に、ということになるのですが、そうは簡単にはいきませんからね。通常は二人以上の先生によりダブルチェックして偏りがないように注意しますが、先生によって見方がずれることがあります。

> また、問題は私が作ったのですが、採点をしたのは別の先生でその先生は「帰国する」というのは努力しなくても「大学を卒業」したら必然的にしなければいけないことで「日本で仕事をするつもりです」とかならいいのではということでマイナス点ではなくすべて間違いとして採点していました。つまり文全体の意味がおかしいということなのでしょうが。
>
> 学生は私の説明では最後まで納得しなかった(私も全くの間違いとは思わなかったため説明があいまいになったからだと思いますが)のですが、ごり押ししてしまいました・・・。
最終的には主任の判断によると思いますが、AMさんがなさったように、「学生が何を言いたかった」の考えることによって、学生の理解度をはかるようにしてあげるのがいいでしょう。
どのような試験だったかはわかりませんが、「できるだけ」の使い方を問う問題ならば、零点ということもあるでしょう。点を与えるかどうかは、何がポイントなのかにもよると思います。
> 難しいですね。日本人でもこういう文は書いてしまいますから、どこまで許容とするのかが・・・。
日本人でもよくしてしまう「間違い」であれば、それはやはり教育的な立場からして「間違い」としなければならないでしょう。
そうではなく、今では「広く使われていて、間違いとは言えない」ようなものであれば、「許容」とするか考えることはあるかもしれません。
それでも「全然いいね」を許容している日本語学校は少ないのではないかと思いますが。
今回問題となった文章は「文法」からして不自然な文なので、自然な言い方を指導するのがいいと思います。減点するのか、零点にするのかは、その問題の目的によるでしょう。
> 採点作業もすんで、テスト結果も渡してしまいましたが、マイナス4点はやっぱりなんとなく申し訳ない気持ちがします。
マイナス4点というのがどの程度の点数なのかわかりませんが、「公平に厳しい」のであれば、「申し訳ないと思う」ことはないと思います。それで学生がより自然な言い方を身に付けてくれればいいわけですから。
むしろ、正解者が少なかった場合には「なぜ正しい使い方ができなかったのか」を反省する材料として、フィードバックするほうが重要だと思います。
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[551] Re: 採点はなかなか大変です 投稿者:AM 投稿日:02/12/28(Sat) 04:35

ありがとうございました。
採点基準は作成の時に考えておかないといけませんね。
しかし、学生の作る文でいろいろ勉強になるものです。ありがたいと思って、もっと勉強していかなければいけないと思っています。
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