「ちっとも」の使い方 [コメントする]

「ちっとも」の使い方


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/14 00:52:20)

※これは過去ログを整理したものです(管理人)

[300] 「ちっとも」の用法について 投稿者:ちょび 投稿日:02/01/21(Mon) 21:39

ボランティアの日本語教室で教えるために
「ちっとも」の分析をしています。
他の掲示板にも質問しているのですが,こちらでも同じ質問を出させて
いただきます。
::::::::::::::::::::::::::
「ちっとも」は主に否定を強調する時に使う。
ただし,「全然」と違い,回数を表す用法はない
ex. A「ディズニーランドに行ったことがありますか?」
   B ○「いいえ、全然ありません」
     ×「いいえ、ちっともありません」
:::::::::::::::::::::::::::
…とここまではいいのですが,なぜ、以下の用法がつかえないのかが、
わかりません。どなたかに教えていただけるとありがたいです。
○私はちっとも食べたくない
 (○私は全然食べたくない)
×私はちっとも食べない ←なぜ、これは使えないのでしょうか?
 (○?私は全然食べない)
○彼はちっとも食べない
 (彼は全然食べない)
よろしくお願いします。
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[301] 解決のためのキーワード 投稿者:Oyanagi 投稿日:02/01/22(Tue) 01:17 <URL>

ちょびさん、ようこそ<勉強部屋>へ。そういえば、日本語オンラインにも同じ投稿がありましたね。そちらに投稿とも思ったのですが、せっかくこちらにいらっしゃったことですし、こちらに書くことにしました。
なによりも、皆様からの疑問で勉強させてもらっているので、内容も他の掲示板では書けないほどヘビー(?)なものになっています。まあ、そのへんは管理人のわがままと思って、できれば最後まで目を通してみてください。
まず、ちょびさんの以下の判断(番号はOyanagiによる)についてですが、私なりに補充すると、次のようになります。
******引用*********
> (1) ○私はちっとも食べたくない
> (2) (○私は全然食べたくない)
> (3)×私はちっとも食べない ←なぜ、これは使えないのでしょうか?
> (4) (○?私は全然食べない)
> (5) ○彼はちっとも食べない
> (6) (彼は全然食べない)
******************
(1)が自然になるのは次のような場面のときでしょう
(1)−ア「ねえ、この店のケーキ最高なんだって。食べてみない?」
     「(私は)そんなもん、ちっとも食べたくないよ」
(1)−イ「あれ、大好きなケーキなのに食べないの?」
     「うん。なんかきょうはちっとも食べたくないんだよ」
ところで、「〜したくない」という気持ちを強く否定するのは通常「絶対に」という副詞が使われます。
例「(食べろと言われていても)絶対に食べたくない」
それに比べると、「ちっとも食べたくない」(「全然食べたくない」もそうだと思いますが、「ちっとものほうが話者の否定的な評価が強くでると思います)というのは、『そのような気持ちが起こらない』という意味だと思います。ですから、(1)(2)というのは「〜たくない」と言い切りで使えるとしても、その基底には『食べたいという気持ちにはならない』という意味になっていると思います。
そうすると、(1)が◯(人によっては言い切りの場合は△)なのは、「ちっとも〜ない」が『(自分または相手が期待するような)変化が起こらない』という用法になっているからだと思います。
★キーワード1:『(時間軸上で)期待されることが起こらない』
また、別の言い方であれば、『食べたいとは思わない』のように思考を表す動詞を使ったほうが文としては落ち着くと思います。
(1)−ウ「そんなもの、(私は)ちっとも食べたいとは思わないわ」
このように「思う」をつけると自然になるのは、一つにはキーワードの1に示したように、『そのような期待される思考が生まれない』というように解釈することもできますが、それ以上に、言い切りではなく「思う」をつけることによって、自分の気持ちを直接表明する表現ではなく、ある種、客観的な観察者の立場で評価を下すという側面が重要ではないかと思います。
★キーワード2:『評価する人は観察者』
ちゃびさんが疑問に思われた、(3)がなぜ×で(5)が◯なのかということを考える上で、このキーワードと次のキーワードも重要だと思います。
★キーワード3:『物事の状態を評価する』
これらのキーワードを使って、疑問を解決したいと思うのですが、その前に遠回りなようですが、「ちっとも」の用法を「なかなか」と比較しながら整理するといいと思います。
ただ、かなり長くなるので、結論だけ先に要約しておきます。
☆「ちっとも」には物事の属性を評価する静的な用法と変化の程度を評価する動的な用法の二つがある。
☆どちらの用法にしても、評価を下す人は客観的な観察者としての立場で評価するので
 自分自身について評価することにはなじまず、第三者を対象にすることが普通である。
☆この制限は特に静的な用法で厳しく、もし、使うとしたら、自分自身を客観的に述べる文脈が必要である。
 例)「自分でも言うのも変だけど、おれって、ちっともご飯を食べない人間なんだ」
☆この制限は動的な用法では少しゆるくなるが、可能になるのは『変化』には必ず結果がありその結果を自分自身でも客観的に評価することができることに由来すると思われる(これは私の推測です)
 例)◯「なかなか日本語が上手にならない」(結果が見えない)
   ◯「薬を飲んだのに、なかなかなおらない」(結果が現われない)
 ※「〜と思う」をつけて「私はちっとも食べたいとは思わない」が自然になるのもこのためだろう。
ざっとこんなものですが、もし興味を持たれたら、続きをご覧ください。
※※※ <参考文献> ※※※
この疑問を読んだときにすぐに思い浮かんだのは「なかなか」の用法だったので、『類似表現の使い分けと指導法』(アルク)の「なかなか」の項(p93-101)と『月刊日本語1995年5月号』の「そこが知りたい 何でも相談」のコーナーの『「なかなか面白い」というのは間違いですか?』の解説を参考にしました。
また、『基礎日本語辞典』(角川書店)の「ちっとも」の項から、「ちょっとも」の用法の整理のヒントを得ていますが、私なりに認知言語学の視点をちょっと混ぜて整理してあります。
※※※※※※※※※※※※※※
→次のツリーに続く
------------------------------------------------------------------------
[302] 用法の整理〜結論 投稿者:Oyanagi 投稿日:02/01/22(Tue) 01:19 <URL>

実は「なかなか」の用法はある面で「ちっとも」と重なるところがあるので、比較するとその特徴がよく見えてくると思います。
ちょっと脇道にそれますが、授業で「なかなか〜ない」を「あまり〜ない」とだけ説明してしまって、あとで困ることがありますが、そんな時にはほとんどの場合、したの<時間軸上の変化>という視点が抜けていことがあります。その意味で、用法を整理する場合には、時間軸上で変化する”動的”なものと、そうではなく、物事の属性を述べる”静的”なものとに区別する視点は重要だと思います。
************************
(1)なかなか
[原義]:『中』を基準として物事のありかたを観る
[A]:[原義]に基づいて、物事が<中>よりもマイナスに位置していると観る場合
    
   動的(時間軸が導入された場合)
   変化の進展が期待したほど起こらない
   (<中>の位置にも達しない程度)
   (<0>ではないが期待される<+>の位置には到底達しない程度)
           <最高の程度>
 0   <中> +  |
 ◯→●→×| →×  |
 「なかなか上手にならない」
 「なかなか来ない」
 「なかなか変わらない」
[B]:[A]の拡張
  静的(◯の属性を述べる)
  ◯の属性に注目:なかな変化が展開しない=>『手強さ』
 「なかなか難しい(試験)」<=『なかなか解けない』
 「なかかな強引な(やつ)」<=『なかなか譲らない』
 「なかなか勇敢な(人物)」<=『なかなかひるまない』
[C]:[原義]に基づいて、物事が<中>よりもプラスに位置していると観る場合
  静的(物事の属性を述べる)
  注)Bの「手強さ」が拡張されて、
   「手強さ」=プラス評価という見方がされているのかもしれない(?)
           <最高の程度>
 0   <中> +  |
 |    |  ◯  | 
 「なかなかいい」
 「なかなかおいしい」
 「なかなかよく出来ている」
**********************
(2)ちっとも
[A]:時間軸上の変化(1)
   動的:『変化の”開始”が起こらない』
<現状>      <期待する状態>にならない
 |         |
 ◯→×       ■
 「ちっとも上手にならない」
 「ちっとも来ない」
 「ちっとも変わらない」
[B]:時間軸上の変化(2)
   動的:『変化の”停止”が起こらない』
 
 →→◯→→→<現状>
   ↓
   ×
   ■−<期待する状態>にならない
 「ちっともじっとしていない」(=動き回る)
 「ちっとも休まない(で働く)」(=働き続ける)
[C]:[A]の拡張
   静的:物事の属性
   ◯<現状>と■<期待状態>のギャップが非常にある
   =>強い否定の評価
 「ちっとも良くない」
 「ちっともおいしくない」
 「ちっとも奇麗じゃない」
************************
以上の用法のまとめで、重要なのは「なかなか」も「ちっとも」も動的な面と静的な評価の二つの用法を持っているということです。
(私が面白いなと思ったのは、動的な側面では「なかなか」は「ちっとも」は程度に違いはあれ、場面が許せば入れ替えが可能なのですが、静的になった場合には、「なかなか」がプラスの評価に転じるのに対して、「ちっとも」はマイナスの否定的な評価になるところです。
これは「なかなか」がもともと「中中」であり、物事(状態)がそれよりプラス側にあるのか、マイナス側にあるのかという見方によって用法が分かれているのにたいして、「ちっとも」は0から期待される位置までの差の大きさに視点がいくためでしょう。(※『拡張』というところがそれを意味しています)
*************************
結論(観察者の立場)
さて、問題となった(3)の文と(5)の文ですが、先の用法の分類でいくと、それぞれ静的な用法(物事の属性を評価する)になっていることがわかります(その人の習慣はその人の属性の一つ)。
この用法ではキーワードの2で示したように『観察者の立場で客観的に評価を下す』という態度が強くでます。
ですから、通常は第三者について(5)のように「彼は◯◯をちっとも食べない」のように言うことができますが、自分自身についてはそれなりの文脈がないと不自然です。
×「私はご飯をちっとも食べない」
◯「自分でも変だと思うだけど、私ってちっともご飯を食べない人間なんですよ」
一方、動的な用法にも同様に観察者の立場という態度があるのですが、用法からして、変化の結果を客観的に評価できるということで、自分自身について、期待どおりの結果が『なかなかでない』という言い方ができるのだと思います。(つまり、(1)が可能になる)
**************************
ということで、長くなりましたが、これでなんとか説明できるような気がするのですが、じっくり考えるといろいろな不備な点が出てくると思います。
不明なことろ、またご意見があれば、遠慮なく書き込んでください。
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[305] Re: 用法の整理〜結論 投稿者:崇城大学S.Y. 投稿日:02/01/24(Thu) 17:00

 日本語オンラインの方から(「きんちょ」さんの好意によって)こちらにアクセスしました。勉強になりました。ただ、下の[A][B]は分けなくてもいいのではないでしょうか。[B]も『変化の”開始”が起こらない』だと思います。「じっとする(している)」「休む」という変化が生じない(「動き回る動作が継続している」「働く動作が継続している」)ということではないでしょうか。どうしても分けたいなら[A][B]の「変化」は「動作」にでもすべきではないでしょうか。
> **********************
> (2)ちっとも
>
> [A]:時間軸上の変化(1)
>    動的:『変化の”開始”が起こらない』
>
> <現状>      <期待する状態>にならない
>  |         |
>  ◯→×       ■
>
>  「ちっとも上手にならない」
>  「ちっとも来ない」
>  「ちっとも変わらない」
>
> [B]:時間軸上の変化(2)
>    動的:『変化の”停止”が起こらない』
>  
>  →→◯→→→<現状>
>    ↓
>    ×
>    ■−<期待する状態>にならない
>
>  「ちっともじっとしていない」(=動き回る)
>  「ちっとも休まない(で働く)」(=働き続ける)
>
> [C]:[A]の拡張
>
>    静的:物事の属性
>    ◯<現状>と■<期待状態>のギャップが非常にある
>    =>強い否定の評価
>
>  「ちっとも良くない」
>  「ちっともおいしくない」
>  「ちっとも奇麗じゃない」
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[306] 反省→ちょっと修正 投稿者:Oyanagi 投稿日:02/01/25(Fri) 00:06 <URL>

S.Y.さん、コメントをどうもありがとうございました。
確かに、Bの用法で、「〜続ける」と書いておきながら、
<変化の>の停止という表現はおかしいですね。
S.Y.さんのコメントを読んで、AとBをくくる概念として先のまとめはちょっと誤解を招くような悪い書き方だったと反省しています。
そこで、ちょっと修正版を書いてみました。
**********************************************
どうしても<変化>という用語を使うと、『動作動詞』『変化動詞』というような”動詞の意味特徴”の面とだぶってしまいます。
あのまとめで、<変化>としたのは、もっと広い意味で、
★時間軸上で、期待される事態が生起しない
とするべきですね。
そうすれば、AもBもいっしょにくくることができますし。
ですから、<継続動詞>を使って、そうような動作が始まらないこともあらわせるし(「さっきからちっとも食べない」)、そのような現象が起きないことも当然表せますようね(「ここんとこちっとも雨が降らない」)。
「ちっとも休まないで、働き続ける」というのも、これにならって、時間軸上で当然期待されるべき「休む」という事態が生起しないと考えたほうがすっきりしますね。
もともと、AとBを分けたのは『基礎日本語辞典』(角川書店)の解説に影響を受けてのことですが、まあ、無理に分ける必要もないと言えばないでしょうが、事態が「静」→「動」というものと、「動」→「静」の二つのものがあるという見方はそれなりに意味があることかもしれませんが。
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貴重なコメントをありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
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[307] Re: 反省→ちょっと修正 投稿者:きんちょ 投稿日:02/01/25(Fri) 09:52

 なにやら、古典物理学で「等速度運動」というのは「静止」と区別できないというのと おなじような はなしですね。
 しかし、学習者のなかには「天動説」の たちばでしか ものごとを理解したがらない ひとも いるかもしれないので、とりあえず分類しておいて、「実は ひとつのことだ」と こころのなかで おもっておく、というのも わるくはないかもしれない、、と、おもいました。
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[308] Re^2: 反省→ちょっと修正 投稿者:Oyanagi 投稿日:02/01/27(Sun) 02:27 <URL>

きんちょさん、こんにちは。
なかなか意味深なコメントですね。
それにしても、「古典物理学」の話が出てくるところなど、きんちょさんの「引きだし」の多さにはいつもながら関心します。
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