「親愛なる〜」 [コメントする]

「親愛なる〜」


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/13 22:38:06)

※これは過去ログを整理したものです(管理人)

[88] “親愛なる” 投稿者:mayugeneko 投稿日:01/03/23(Fri) 14:05 <URL>

今、わたしの周りで議論されている話題なのですが、今ひとつすっきりしないので、こちらをお邪魔してみました。
問題A
手紙の最初に使われそうな「親愛なる〜〜さん」の「親愛なる」ですが、これはどうして「親愛な」というナ形容詞の用法は適用されないのでしょうか?
問題B
もうひとつ、「偉大なる毛主席」は、「偉大な毛主席」でもおかしな感じはしません。が、手紙文の最初などは、「〜なる」の方が座りがいいんですね。これは、どうしてなんでしょうか?
以下2つ仮説を考えてみました。
問題Aについて。
1.「偉大なる毛主席」は、「偉大」という言葉が毛主席を修飾している関係。
一方、例えば、「母なる大地」というような「名詞+なる」の場合は、「母」と「大地」との関係性を表しているのではないか。
これを適用すれば、「親愛」を名詞的用法に考えて、「親愛(名詞)+なる」で、わたしと相手との関係性を表現しようとしているのではないか?
まとめると、
・形容詞なる+名詞=修飾
・名詞+なる+名詞=関係性
が。ですがね・・・。
そうなると、「母なる大地」は、「母である大地」に置き換えられますが、「親愛であるあなた」には置き換えられないんですよね・・・。
とうことで、これは、たぶん違う。
2.「親愛なる」の「なる」は、古語の「親愛なり」からきているという考え方。でも、そうすると、どうして「偉大なり」→「偉大なる」が、「偉大な」でも使えるのに、「親愛なあなた」がおかしいかの説明がつきません。
長々と書いてしまいました。
つまり、この辺で今詰まっているということなんです。
皆さんのお考えをお聞かせ下さい。
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[89] Re: “親愛なる” 投稿者:きんちょ 投稿日:01/03/23(Fri) 16:44 <URL>

 こんにちは。Oyanagiさんが おこたえになると おもうのですが、
たまたま めに ついてしまったので、わたしの かんがえを
さきに かかせていただきます。
 仮説の2.の解釈で いいと おもいます。
 ただし、「古語」というよりは「擬古語(=文語体で造語された
ことば)」といったほうが的確かもしれません。
 それでは なぜ、「親愛な〜〜さん」が つかわれないかという
ことですが、「親愛」ということばが はなしことばとして
定着しなかったからだと いうことに なろうかと おもいます。
 厳密には「親愛」という語の歴史を、どのような文献に出現して
いるかというところから しらべなければなりませんが、要するに
これは、Dear〜の翻訳語ですよね。形式ばった いいかたに、
形式ばった漢語を使用した文語体の翻訳をあてたということと、
その語が はなされる ことばではなく、もっぱら てがみのなかで
つかわれる語だったことで 口語体の語彙のなかには はいりこま
なかったのだと いうふうに かんがえて よいのでないでしょうか。
 ところで、学校文法では、この「親愛なる」のような語は どう
あつかうのでしょうか。これ全体で「連体詞」と するのが妥当では
ないかと わたしは おもうのですが、てもとの辞書には「形容動詞」
で でています。また『岩波 国語辞典』は形容動詞を厳密に解釈して
「親愛に」の かたちが ないところから「親愛」を「名詞ノ・ナ」と
しています。かんがえてみれば「親愛で」「親愛だ」も つかえるか
どうか疑問です。「名詞ノ」というのは「親愛の情」などの例を
いっているのですが、「ナ」とも表示されているので「親愛な人」と
いうような用例をみとめているのかもしれません。
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[93] (1)文語文法と口語文法 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/03/24(Sat) 21:17 <URL>

mayugenekoさん、お久しぶりですね。
「親愛ナル」についてですが、mayugenekoさんの仮説はどちらもそれなりに正しいのではないかと思います。
以下、ちょっと長くなりますが私の考えをいくつかのスレッドに分けて書きます。
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最初にこの疑問を読んだときに「文語文法」と「口語文法」の対比を考えてみました。
☆文語文法          ☆口語文法
1)形容動詞
A<ナリ活用>静かナリ  →  静かダ
         ナル〜 →  静かナ〜
         ニ〜  →  静かニ〜
B<タリ活用>堂々タリ  →  ×
2)名詞+[断定の助動詞] 
  名詞+ナリ      →  名詞+ダ 
     ナル〜     →  名詞+ノ〜
----
概ね関係は上のようになっていると思いますが、学校文法(橋本文法)では「静かダ」と「名詞+ダ」の『ダ』は違うものという立場です。しかし、ご存じのように形容動詞という品詞を認めずに「静か+ダ」のように考えて『ダ』は同じ<断定/指定の助動詞>と考える立場もあります。
このようなことは文語文法の「ナリ」にもあてはまることだと思います。
そうすると、<断定/指定>ということなので連体形の場合には現代語では「◯◯である〜」と言えます。
『母ナル大地』は3)の場合で、『母である大地』と言えます。(:大地は母デアル)
『偉大ナル先駆者』は1Aの場合で『偉大である先駆者』と言えます。(:先駆者は偉大デアル)
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[94] (2)「◯◯ナル〜」と「◯◯ナ/ノ〜」 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/03/24(Sat) 21:18 <URL>

そこでmayugenekoさんの仮説1を口語文法と対応させると次のようになると思います。
>・形容詞なる+名詞=修飾
>・名詞+なる+名詞=関係性
・形容動詞-ナ+名詞=修飾
・名詞+ノ+名詞=関係性
形容動詞のほうは、口語文法では連体形は「〜ナ」となりましたから『偉大ナル先駆者』は『偉大ナ先駆者』とも言えます。名詞のほうは、「名詞+の〜」になりましたから『母の大地』という言い方ができます。
『母の大地」と『母ナル大地』では意味が違うのではないかと感じるかと思いますが、それは「母の〜」という場合にはどうしても所有格の解釈が優先されるからだと思います。「の」が関係性をもつというのは「名詞(主語)」と「名詞(述語」結び付ける(繋辞/コピュラの連体形)ということですから、この点で上の関係は構造上正しいと思います。
例)「部長の山田さん」→「部長である山田さん」
  「絹のハンカチ」→「絹であるハンカチ」
  「子供の時」→「子供である時」
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ということで、上の仮説は正しいと思いますが、問題は「親愛ナルあなた」は「親愛デアルあなた」に言い換えが出来ないことです。mayugenekoさんはこのことから上の仮説は間違っていると結論づけましたが、これはむしろ”文法的には言い換えができる”けれども、”現代語としてはそう言わない”というのが正しいように思います。それはきんちょさんの解説された背景があるからだと思います。ですから、仮説自体が間違っているのではなくて、「親愛ナル」という使い方がある意味で特殊であると考えるほうがいいと思います。
この特殊性というのは<文語文法の化石>と呼べるようなものだと思っています。
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[95] (3)文語文法の<化石> 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/03/24(Sat) 21:20 <URL>

次に先の対応表に<化石>の部分(※)を加えてみます。
☆文語文法          ☆口語文法
1)形容動詞
A<ナリ活用>静かナリ  →  静かダ
         ナル〜 →  静かナ〜
             → ※◯◯ナル〜 (ア)
         ニ〜  →  静かニ〜
B<タリ活用>堂々タリ  →  ×
         タル〜 → ※堂々タル〜 (イ)
         ト〜  → ※堂々ト〜  (ウ)
2)名詞+[断定の助動詞] 
C「ナリ」
  名詞+ナリ      →  名詞+ダ 
     ナル〜     →  名詞+の〜
               ※名詞+ナル〜(エ)
D「タリ」
  名詞+タリ
     タリ〜     → ※名詞+タリえない(:〜は政治家たりえない)(オ)
     タル〜     → ※名詞+タルもの(:政治家たるのもは・・・)(カ)
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<文語文法の化石>と私が呼ぶのは口語文法になっても以前として文語文法の活用が生き延びて使われているものを指します。文語のタリ活用の形容動詞は現代語では形容動詞という意識はほとんどなくなりましたが、辞書には形容動詞として登録されている場合が多く、(イ)(エ)のようなものがその<化石>として認められます。また、Dの「たり」は現代でも(オ)(カ)のような慣用表現の中に生き延びています。
今問題となっているのは(ア)と(エ)です。
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[96] (4)<化石>の意義とまとめ 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/03/24(Sat) 21:21 <URL>

(ア)については<化石>として残っている理由はきんちょさんから指摘があったように概ね次のようなものだと思われます。その「〜ナル」を二つに分類してみました。
理由)文語調の響き、意味合い(:重々しさ、格調の高さなど)を出すため
1)「〜ナ/〜ナル」のどちらでも言える
  注:形容動詞の意識があるものは述部にもなるので「〜である〜」とも言える
    そのような意識がないもの(=連体詞)は述部にはならないので「〜である〜」とは言えない
  『偉大ナル人物』→『偉大ナ人物』→◯(偉大である人物)
  『新たナル挑戦』→『新たナ挑戦』→×(新たである挑戦)
2)「〜ナル」の形しか使われない
  注:連体詞のように使われるので当然「〜である〜」とは言えない
  『親愛ナル人』 →×『親愛ナ人』→×(親愛である人物)
  『大いナル野望』→×『大いナ野望』→×(大いである野望)
1)のグループは探せばけっこうあると思いますが、2)のグループは非常に少ないのではないかと思います。
他に思いついたのは『大いなる〜』だけです。これ以外は大辞林を検索してみても見出し語としては見つかりませんでした。(他にあればぜひ教えていただきたいと思います)
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(エ)についてですが、文語文法の「〜ナル」が持っていた用法がすべて口語文法の「〜の」に受け継がれたわけではないようです。『ナリ』のもともとは『ニ+アリ』からですから「〜に存在する」という意味で使われることもあったので、そのような意味で現代語でも文語調の文体として使われることがあるようです。
そこで、再度対応表を作ってみると、
 ☆文語文法     ☆口語文法
1)「◯◯ナル〜」 →「◯◯の〜」(「〜である」と言える)
2)「◯◯ナル〜」 →「◯◯にある〜」
3)「◯◯ナル〜」 →「◯◯という〜」
2)は古文の中だけの用法かもしれませんが(:春日ナル三笠の山に月の舟出づ/万葉集)、3)は現代でも「山田太郎ナル人物が・・・」などと書き言葉的に使われることがあると思います。
『母ナル大地』は1)の場合だと思いますが、先に書いたように『母の大地』では現代語では所有の意味に解釈されてしまうこともあって、『母ナル大地』という表現が慣用句として<化石>のように残っているのだと思います。
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以上まとめると、『親愛』というのは品詞では形容動詞に分類され文語文法では「親愛ナリ」という単語で<ナリ活用>のグループだったのですが、口語文法に移行した際に規則的に「〜ナル」→「〜ナ」という対応が起きなかったものの一つだと言えるでしょう。このグループはある特定の活用(とその用法)のみが慣用となって<化石>として残っていると言えると思います。
『母ナル大地』については、同じように<化石>として残っていると言えますが、『新明解国語辞典(3版)』の「母」の項にある「母なる」の説明は非常に示唆的です。「母の役目をする」とあります。まさにこのような意味で使われる慣用句として<化石>化して残っているのだろうと思います。
余談:「父ナル◯◯」のような表現が慣用句としては普通ではないというところに『母』の偉大さをかいま見るおもいがします。(^^)
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[97] Re^2: “親愛なる” 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/03/24(Sat) 21:27 <URL>

きんちょさん、貴重なコメント有難うございます。
いつでも遠慮なくご意見を書き込んでくださいね(^^)
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「親愛(なる〜)」という表現がどのような背景で<作り出された>のかは興味深いことですね。おそらくきんちょさんが指摘してくださったようなことだと思います。
きんちょさんの解説を踏まえて、文法の視点から私が考えたことを別スレッドに書いておきます。
文語文法については付け焼き刃なので変なところがあったらご指摘ください。
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[100] Re: ありがとうございました! 投稿者:mayugeneko 投稿日:01/03/27(Tue) 00:54 <URL>

oyanagiさん、きんちょさん、レスをどうもありがとうございました。
じっくりと読ませて頂きました。
仮説1は全くダメかと思っていたのですが、意外にも理屈があっていたようで、ほっとしました。
自分ひとりではなかなかここまで考えが及びません。
わたしもこれからもっと勉強しようと思います。
本当にありがとうございました。
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