『ドイタ、ドイタ』と『ドイテ、ドイテ』 [コメントする]

『ドイタ、ドイタ』と『ドイテ、ドイテ』


とも さんのコメント
 (2004/12/11 15:26:45)

アメリカ人のトモダチに『ドイタ、ドイタ』と『ドイテ、ドイテ』の違いは何なのか?と聞かれ、適切な答えが見つからず困っています。意味は両方とも同じなのですが、なぜ過去形で言っても意味は変わらないのに、過去形にする必要があるんでしょうか?
これは私自身も気になったのですが、同じように『よし、買った!』って言いますよね?まだ買ってないのに(代金を支払っていないのに)どうしてこのような表現になるのでしょうか?


気持ち先行型

Oyanagi さんのコメント
 (2004/12/21 07:05:34)

ともさん、こんにちは。レスが大変遅くなりました。
先週末に書き込もうかと思っていたら、サーバーの障害でアクセスできず、どたばたしていました。

■「どいた、どいた」の「た」の」用法

さて、ご質問の「過去形」についてですが、日本語教育では一般に「モダリティを表す“タ”」と呼ばれています。ですから、「どいた、どいた」や「よし買った」の「た」は
★形は「過去」の形と同じですが、過去のことを述べるという働きにはなっていません。

モダリティというのは、簡単に言えば、伝える「内容」の部分ではなくて、その内容を「どう伝えるか」という部分です。例えば、「あしたは雨がふるかもしれない」と言えば、伝える内容は「あした雨が降る(コト)」で、話し手はそのコトについて、どの程度の確かさがあるかを伝えていますね。ですから、この「〜かもしれない」はモダリティを表す部分ということです。

それでは、ご質問の「た」がどのようなモダリティを表すかというと、「どいた、どいた」「さあ、買った、買った。安いよ」などは、
★差し迫った要求
です。

ともさんは、意味は両方とも同じだと書かれていますが、まず考えなければいけないことは、「どいた、どういた」の用法は、命令に使いものなので、「どいて」よりは「どけ」(命令形)とも比べる必要があるでしょう。その上で使われる状況を考えると、決して言い換えが自由にできるわけではないことに気づくと思います。使い方を教えるのであれば、それについて指摘してあげればいいと思います。

親しい関係では、かなり自由に「〜て」と依頼の表現が使えますが、それを同じように、「〜た、〜た」は使えませんね。
 例)「ねえ、ノート見せて」「ねえ、ちょっと待って」
   ×「ねえ、見せた、見せた」×「待った、待った」

実際、「〜た、〜た」でよく使われる動詞は限られているようです。
そして何よりも重要なのは、「差し迫った」という状況です。つまり、そのような要求(命令)をすることが、差し迫った状況になっていないと不自然だということです。だから、「あと1年待った」といって借金の返済の引き延ばしを頼むことは不自然です。一方、彼女を別の男が連れ去りそうになったときん、「ちょっと待った!」と言って呼び止めるのは正しい使い方です。

■なぜ「過去形」を使うのか?

次に「なぜ過去形にする必要があるか」についてですが、これは、次の質問の「よし、買った!」とも共通するものがあるので一緒に扱います。

「どいた、どいた」の「た」は、<「過去形」だけれど、「過去」を表しているわけではない>ということを上に書きましたが、「た」は「た」ので全く関係がないわけではありません。

★「た」=【過去】=今から見て既に終わったこと→【完了】

このように、【過去】と【完了】がお互いにつながっていることは容易に想像できます。
実際に、日本語では「1時間前に昼ご飯を食べました」と「もう昼ご飯を食べました」のように、過去の出来事として「た」を使う場合もあれば、完了したという意味で「た」を使うことができます。

さて、この【完了】というのは、必ずしも現時点を基準にして「現在、過去、未来」を考える【時制】とはちがうので、いつのことであってもそれが完了しているのか、完了していないのかを話し手が決めることができます。ですから、ともさんもお気づきのとおり、実際は過去ではないのに、「た」が使われている例はたくさんあります。それは、第一に「完了」という概念で説明することができます。
※複文の場合には「相対テンス」と呼ばれることもあります。
「読み終わった人は帰ってもいいですよ」
「来た人に全員これを渡してください」

上の場合、「帰る」には「読む」ことが【完了】していることが必要だし、「渡す」のは、その場所に「来た人」つまり「来る」ことが【完了】した人です。このような完了の概念を、<心理的>なものに拡張して考えると、モダリティにつながるものが見えてきます。
<心理的>ということは、実際にはそのコトは実現していないのだけれども
★<自分の頭の中では、既に完了しているものとみなす>ということです。

「邪魔だから、どけ(よ)」とか「邪魔だから、どいて(よ)」と要求する場合に、実際は「どく」という動作は【完了】していません。でも、頭なの中では「どいタ」あとの状況がイメージされていて、<その状況に「なれ」>という気持ちを表すのが「どいた、どいた」なのだろうと考えられます。言ってみれば、
★<結果の先取り>のようなものです。
★<気持ち先走り(?)型>なので、差し迫った状況でしか使えないという制限がある
と考えればいいでしょう。

※関連項目※
質問には挙げられていませんでしたが、「〜ほうがいい」という構文で、「アドバイス」の意味を出す場合には、「勉強したほうがいい」のように「た形」が使われることもこのモダリティと関係していると思われます。つまり、話者に頭の中には、<既にそうシタあとのことがイメージされている>んですね。そのイメージがいいものであるからこそ、そのほうがいいと<アドバイス>できるわけです。

最後に、「よし、買った!」の場合ですね。

これも使える動詞が非常に限られていますね。用法を考えると、「(話者の)意志決定」です。「よし、買います!」と言っても同じ用法になりますね。では、「買います!」と何が違うかというと、状況でしょう。「どいた、どいた」と同様、<(意思決定)を迫られて>いる状況ではないでしょうか。

★差し迫った上状況であればこそ、<気持ち先走り(?)型>=<結果先取り>になって「〜た!」となる
のだろうと思います。

※関連事項※
「よし、買った!」ほど、気持ちは先走っていませんが、似たような用法(=心理的な完了)としては、
「じゃあ、頼みましたよ」とか「よし、その仕事は僕が引き受けたよ」などがあります。
この「た」も(例えば翻訳などで)過去の意味に考えたら変ですよね。<今の話者の心的な態度を示す>ことになるのがモダリティの特徴です。

以上、長くなりましたが、何か不明点、質問がありましたら遠慮なくどうぞ。


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