条件 〜ば [コメントする]

条件 〜ば


donko さんのコメント
 (2004/11/14 00:58:01)

こんにちは。
以前 お世話になったことがあります。
また よろしくお願いします。

「電話番号がまちがえれば、どうすればいいですか。」

まちがえたら、まちがえた場合は、 だったらいいですが、どうして しっくりいかないのでしょうか。

例えば

パソコンがなければ、どうしたらいいですか。

これならいいと思うので、前件が無意思動詞の場合は後件に、「どうすればいいですか」を 使うことができますよね。


「ば」の制約と本質

Oyanagi さんのコメント
 (2004/11/19 20:20:48)

donkoさん、こんにちは。

条件の表現については、指導で悩むことが多いと思いますが、私も過去にいろいろとまとめたものはあるのですが、こうやって新しい質問を読むたびに、まだまだ考えが足りないなと痛感します。
さて、いただいた疑問について、私が考えたことを以下に書いておきましたが。かなり長いです。(すみません)
前半は、おおむね、一般の参考に書かれているこを今回の問題にあわせてまとめたものです。で、今回は、いままで私もどうもしっくりこなかったことを整理してまとめてみました。それが、後半部分です。いただいた質問については、前半部分でもある程度対応できると思いますが、興味があればどうぞ後半もお読みください。
自分では、まあまあうまくまとめられたかなと思いますが、これが正しいかどうかはまったく別ものです。donkoさん、そしてこれを読まれた方がさらに考える参考となれば幸いです。

■前置き

まず、いただいた質問の文章を確認しておきます。

 >「電話番号がまちがえれば、どうすればいいですか。」

というのは、「電話番号ヲ間違えて、電話する」という状況でしょうか。
「電話番号が」だと、その部分でも不自然になるかと思うので、「を」で考えますね。
で、「どうすればいい」にも「ば」があって、「〜ば、どうすればいい」と言うと、「ば」が重なって不自然に感じる人もいるかもしれません。逆に、「〜たら」を使う場合は、「〜たら、どうしたらいい」は「たら」が重なります。
今回の問題は、前件の「〜ば」「〜たら」だと思うので、それ以外の不自然さを排除するために、対象とする例文を次のようにしますね。
(1)「電話番号を間違えれば、どうしたらいいですか」
(2)「電話番号を間違ったら、どうすればいいですか」
(3)「パソコンがなければ、どうしたらいいですか」

donkoさんの考えでは、
(1)が×、(2)が○、(3)が○、ということですね。
私もおおむねそのように判断しますが、人によっては、(3)はちょっと△だ(=間違いではないかが、やや不自然さを感じる)と判断する人もいるかもしれませんね。

そこで、まず、(1)がなぜ不自然になるのかを、一般的な参考書に書かれている「〜ば」の【制約】に基づいて考えてみます。
ご質問の内容を拝見すると、前件、後件の制約については、すでに勉強されているようなので、下に書いた制約のことはすでにご存じのことと思います。ただ、参考書のたぐいでは、指導上の配慮から形式的にまとめたものが目立ちます。このような形式的なまとめのものは、それに合うような問題に出くわしたときには、うまく対処できますが、そうでない場合に、うまく対応できません。ですから、ここで、一体何が「本質」なのかを考えてみたいと思います。

今回のまとめにあたって、現在広く利用されている(と思われる)参考書として
(A)『初級を教えるための 日本語文法ハンドブック』(スリーエー)
(B)『日本語文型辞典』グループ・ジャマシー編集(くろしお出版)
を改めて読み直しましたが、(A)はうまくまとめていますが、一つ不適切な例文がありました。(といっても、私の個人的な判断ですが。これについては後半部分で扱っています。)(B)は非常によく整理されています。両方とも手元にあるようでしたら、基本的なことを(A)で確認して、さらに(B)の解説を読まれることをお勧めします。

次に、たとえこの【制約】に違反していなくても、「〜ば」が不自然になることがある場合を考えます。これが本考察のメインである「本質」ですが、これを踏まえて、この【制約】とは別の視点で、(1)が不自然に感じる理由、そして(3)も△だと感じる理由を考えてみます。

■「〜ば」の制約(一般的な参考書の解説に基づいて考える)

 *前件が、状態をあらわすもの(=形容詞、状態性の動詞など)であれば、
  後件で、「意志表現」(=希望、意志)や
 「働きかけ」(=依頼、許可、命令、禁止など)が使える。
  例)
1.時間があれば、行きたい。
2.食べたければ、食べてもいいよ。
3.高ければ、買いません。
4.お金がなければ、銀行でおろしてください。
5.知っていれば、教えてください。

 *ただし、前件と後件の主語が異なる場合は、
  状態を表すものでなくても「意志表現」が使える。
6.彼女が行けば、私も行きますよ。
7.雨が降れば、私は行きません。

結局、上のことをまとめると、次のようになります。
★前件と後件の主語が同じで、
★前件に動作を表すものが来ると、
★後件で、「意志表現」「働きかけ」が使えない。
 ※このような制約がなく、自由に(注)「意志表現」が使えるのが「〜たら」です。
(注)「なら」との対比で考えると、全く自由というわけではありませんが、
今は直接関係ないので、簡単にこう書いておきます。

      ↓(私は)    ↓(私は)  
×8.  彼のうちに行けば、手料理を作ってあげたい。[意志表現]
○9.  彼のうちに行けば、手料理を作ってあげられる。
○10. 彼のうちに行ったら、手料理を作ってあげたい。[意志表現]

      ↓(あなたは)  ↓(あなたは)
×11.たくさんもらえば、少し分けてください。[働きかけ]
○12.たくさんもらえば、ほかの人にも少し分けられる。
○13.たくさんもらったら、少し分けてください。[働きかけ]

■制約と例文(1)(2)(3)

例文(1)は、「電話番号を間違えた人」と、それに対して「何かする人」は同じです。
「間違える」という動詞ですが、確かにこの動詞自体は、動作を強くイメージする動詞ではありませんが、“この文での使われ方”を考えると”「間違えて電話する」ことを意味しているので、やはり「動作」をイメージするのではないでしょうか。

次に後件の「どうすれば/どうしたらいいですか」の部分ですが、ここではあまり深入りせずに、聞き手に答えを要求するということで、「働きかけ」に分類しておきましょう。

そうすると、前件と後件が「同じ主語」で、前件が「動作をあらわすもの」で、後件が「働きかけ」になるので、制約に違反して非文になると考えることができます。

次の(4)のように、制約に違反しないように、前件を「状態性」をもたせたものにすれば、自然さがアップします。
(4)「(書いてある)電話番号が間違っていれば、どうしたらいいですか」

ちなみに(2)のように「〜たら」を使えば、制約は関係ありませんから、大丈夫だし、(3)は「ない」という状態性の述語ですから大丈夫ですね。

■「〜ば」の「本質」(=発想)

上では、さらっと説明しましたが、上に書いたような「制約」がどうであれ、そもそも、「〜ば、どうしたらいいですか」という言い方が不自然だと感じる人がいると思います。

○か?の判断は人によって異なると思いますが、不自然だと判断される理由は、「〜ば」という条件文と「どうすれば/どうしたらいいですか」という質問文の相性が悪いからだと思います。この相性の悪さは、「〜ば」という条件文の発想と結びついています。

★(I)「〜ば」の発想は、後件の事態が成立するには、どのような条件が必要かを考えるものです。

つまり、「日本語が上手になりたい」と思った時に、「どうすればそうなるか」というのが「〜ば」の発想です。ですから、図にすると次のようになります。

★ 【前件】←【後件】

そのつながりが、日々の経験から常識となって知識に組み込まれていくと、
★(II)<前件が成立する場合は、必ず後件が成立する>
という話し手の意志を超えた強い因果関係、真理を述べる用法になります。それが慣用句となったものが、ことわざです。ことわざに「〜ば」がよく使われるのは、このためです。

ですから、今回の例文にあてはめれてみれば、典型的には、
(1)→「電話番号を間違えれば、相手につながりません」
(3)→「パソコンがなければ作業ができません/どうしようもありません」
のような文になりますね。

「〜ば」が(I)(II)のような発想であることは、「〜ば」の構文を考える上で非常に重要です。
「安ければ、買いたい」や「安ければ、買おう」や「安ければ、買って下さい」のような意志表現のベースになっているのは、「安ければ、買える」という条件文です。このような前提を踏まえて、そのような事態に対して、話者が(だから)「〜たい」「〜よう」「〜てください」という態度を示していると考えます。(これは私の推測です)

では、なぜ「意志表現」や「働きかけ」は前件が状態性でないと不自然になるのでしょうか。それは、次のように考えるが、理にかなっているのではないでしょうか。

★前件が動作性の述語の場合は、二つの状況が想定されます。
 [1]<時間の流れ>とは関係なく、
    そのような事態が成立する/しないことのみに焦点が当てられる場合。
 [2]<時間の流れ(する−している−した)>を意識して、
    そのような事態が成立した後のことに焦点が当てられる場合。
※状態性の述語は当然[1]になります。

★[1]の状況の場合には、「ば」の発想(構図)である、【前件】←【後件】と矛盾なく処理できますが、[2]の状況の場合には、それと反対に(=時間の流れのとおりに)【前件】→【後件】という発想になります。つまり、<ある事態が成立シタ>と仮定して、それに対して行うことについて述べるということです。[2]のような場合は、完了の「た」をもつ「〜たら」を使うことになります。

前件に状態性の述語が来ると、後件で「意志表現」「働きかけ」の文が作れるというのは、実は、それが「ば」の発想に逆らわないからにほかなりません。

で、ポイントは、動作性の述語の場合、「主語が同じ」かどうかが真に重要なことではなく、重要なことは、[1]のように解釈できれば、意志表現は可能だし、[2]のように解釈されれば、意志表現はだめだということです。“形式的”にまとめてしまうと、「主語が同じ/違う」というような言い回しになってしまうということです。

注:『日本語文型辞典』では、「主語が同じ」といった言い方をしていない点で非常に評価できると思います。(といっても、私の個人的な感想ですが)

そこで、改めて、上の「制約」で紹介した例文をここで考えてみます。
6.彼女が行けば、私も行きますよ。
7.雨が降れば、私は行きません。
これは、「彼女が行ったあと」のこと、「雨が降ったあと」のことに焦点が当てられているのではなく、「私が行く/行かない」の“条件”を前件で示しているということです。
次の例文も同じです。
14.お金をくれれば、やってあげあるよ。

結果的に、「主語が同じ/違う」という条件と同じではないかと思われるかもしれません。たしかに、学習者に指導する上で、このように形式化したものは有効です。しかし、次のような文に出くわした時、どう対処すればいいでしょうか。

15.もし、今学期中にこの本を読み終われば、次にこの本を読みます。
(『日本語文型辞典』の例文(9)より引用)

「制約」に従えば、前件も後件も同じ主語で、動作を表しているから、不可になるはずです。しかし、「動作動詞のどの部分に焦点をあてているか」を考えれば(:つまり、[1]なのか[2]なのかを考えれば)、このような文も成立することが理解できます。
15は、この本を読み終わったあとのことに焦点を当てているのではなく、「次この本を読む」ことの条件を挙げているからです。つまり、話者は「この本は読み終わるかどうか確かではなく、ただ、読み終わることが、次のこの本を読むことの条件だ」といっているわけです。上掲の参考書の解説にも注がありますが、これをあきらかに、[2]の解釈になるように文を作ると、「〜ば」は不可になります。(例文を引用します)
16.(誤)この本を読めば次にこの本を読みます。
  (正)この本を読んだら次にこの本を読みます。

■「ば」の本質と「どうすれば/どうしたらいいですか」の関係

いよいよ問題の核心です。
「どうすればいいですか」とか「どうしたらいいですか」という問いかけを、先の「制約」では、簡単に「働きかけ」の一つの形式ということで分類しましたが、もう少し考えてみる必要がありそうです。

「どうしますか」「どうしましょうか」「どうすれば/したらいいですか」のような疑問文は、二つの事柄を対象にとります。
一つ目は、
[A]静的な物事です。
 例:「落ちているゴミ」に対して、「どうしましょうか」
 例:「必要なものがいまここにない」ことに対して、「どうしましょうか」
二つ目は、
[B]動的な事象です。
 例:「息子がケガをした」ことに対して、「どうしましょうか」

★[A]の場合は、静的な物事ですから、時間の流れとは関係ありません。
だから、「〜ば、どうしたらいいですか」も、前件が状態性のものであれば、「ば」の発想に逆らうことなく、文を作ることができると思います。

★一方、[B]の場合は、動的な事象ですから、「ある事態が成立しタ」ことをうけて、それに対して、どうすれば分からなくて、聞き手に答えを求めるというものです。
そうすると、「ば」の発想とは反対に、【前件】→【後件】になってしまいます。
ですから、『日本語文型辞典』p.481の解説に書かれているように、「ば」は間違いで、「たら」を使うのが正しいと考えます。
17.(誤)雨が降ればどうしますか。
   (正)雨が降ったらどうしますか。

この解説では「どうしますか」のみ扱っていますが、「どうすれば/どうしたらいいですか」も同様に扱っていいと思います。

注:『初級を教えるための 日本語文法ハンドブック』(スリーエー)のp.222には、「と」との対比で、次のような記述があります。
********引用開始************
「と」と似ている面もありますが、「〜ば」は「〜と」と違って、仮定条件によく用いられます。
(4)明日もし雨が{ ○降れば/×降ると }、どうしますか。
*****************************
この○と×の判断は、『日本語文型辞典』と反対です。これは一体どうしたことでしょう。
私の考えでは、「降れば」は×にするほど不自然ではないけれども、○として紹介する文としては不適切だと思います。天候については、さほど不自然に感じなくても、次のような人の動作が主語になると?がつくのではないでしょうか。
 
 △(5)「雨が降れば、どうしたらいいですか」
○(6)「雨が降ったら、どうすればいいですか」

 ?(7)「もし田中さんが来れば、どうしたらいいですか」
○(8)「もし田中さんが来たら、どうすればいいですか」

これは、「降る」が事前現象を表し、無意思だからというよりも、文全体の意味が、「雨が降ることに対してどうするか」を問うのではなく、「雨が降るという“状況”の場合にどうするか」を問うものだからでしょう。 このへんは、もう少し吟味する必要があると思います。

■まとめ

最後に、以上の考察を踏まえて、今回いただいた質問の文の不自然さがどうなるのかを説明します。

*「電話番号を間違えれば、どうしたらいいですか」は、
前件が「間違え電話する」という動作を表す述語になっていて、後件で「どうしたらいいですか」が使われているので、はっきりと、<前件が成立した後に焦点をあてる>ことになるので、「〜ば」の発想(=本質)に逆らうことなって、不自然です。「〜たら」ら「〜た場合」を使うのがいいです。

*「パソコンがなければ、どうしたらいいですか」は、
前件が状態性の述語のため、後件で「どうしたらいいですか」を使っていても、「ば」の発想に逆らうことにはならにので、問題ありません。

ただ、状態性の述語とはいえ、「そのような状態であることが判明しタ」あとに焦点を当てるような文脈があると、「ば」の発想に逆らうことになって、やや不自然な印象をあたえることもあると考えられます。

以上です。何か不明な点、疑問点があれば遠慮なくご質問ください。


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