菊 さんのコメント
(2003/11/29 10:42:02)
いつもお世話になっています。
今回させていただく質問は「ほど」と「くらい」なんですが、「日本語能力試験直前対策文法2級」国書刊行会の39ページ・日本でこの程度の地震は、おどろく( )のことではない。の問題の答えの選択肢に「ほど」と「くらい」があります。そこから出た生徒の質問なのですが、どうして「ほど」が正しい答えなのか、自分なりに考えてみました。
日本語文法ハンドブックや講談社Effective Japanese Usage Dictionary(日本語使い分け辞典)や、国語辞典
の例文から考えて、「ほど」の使い方は、{書き言葉、フォーマル、一般的なこと、形容詞や副詞の程度を表す時によく使う。}
で、「くらい」は、{話ことば、個人的なこと、名詞のあと、数字、期間、の時によく使う}と結論を出したのですが、これで合っているでしょうか?また、この「日本でこの程度の地震は、おどろく( )のことではない。」の
「おどろく」の「く」と、「くらい」の「く」を続けたら、
実際ことばを話す時、「く」「く」と続き、濁音と清音の関係や、ことばの「語呂合わせ」の都合上、適切ではないように
思うのですが、いかがでしょうか? よろしくお願いします。
saburoo さんのコメント
(2003/11/29 23:06:22)
「ほど」と「くらい」
こんにちは。
「くらい」と「ほど」について、前に書いた原稿がありますので、以下にコピーします。
名詞を受ける場合と、動詞などを受けて複文になる場合を分けてあります。
ちょっと長いですが、ゆっくり読んで、おかしなところを指摘していただけたらうれしいです。
saburoo
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◇Nぐらい(くらい):程度
Nが比較の基準となり、あるものがどの程度のものであるかを示します。使われる文型によって意味合いが少し違います。
「Nと同じぐらい」の意味で、そう言い換えられる場合。比較の文型につながる言い方で、形容詞文や様子を表す動詞文の場合、「だ・です」が続く場合、「NぐらいのN」の場合です。「Aぐらい〜Bはない」の形で、「Aがいちばん〜」を表します。
これ(と同じ)くらい重いです。
休みの日と同じぐらい暇です。
大雨の日の川(と同じ)ぐらい濁っています。
私の犬も、大きさはこれ(と同じ)ぐらいです。
あなたのぐらいの車が欲しいですね。
ここはちょうど野球場ぐらいの広さがあります。
あれぐらいの大きさで、赤いカバンはありませんか。
彼女くらい頭のいい人はいない。(彼女がいちばん頭がいい)
あの人ぐらい勉強すれば、何でもわかるでしょう。
指示語の「−れ」「−の」の両方に付けられます。副助詞はふつう「−れ」に付くので、この点は例外的です。
長さはこのくらいです。
どのくらい どれくらい (×どのだけ、×どのほど)
動詞文の補語に付く場合、「最低限」という意味合いがあります。特に、可能を表す述語の場合、その名詞に対する低い評価があります。
私だって新聞ぐらい読みますよ。(難しいものは読まないが)
休みの日でも、警備員ぐらいいるでしょう。(いるはずの人間とし て最低限警備員は。職業に対する評価ではありません。念のため。)
彼にぐらい知らせておいたら。(少なくとも彼には知らせるべき)
日曜日ぐらい家にいてよ。(外の日はともかく:妻が夫に)
お茶ぐらい出しなさいよ。(食べ物はいいから)
この問題ぐらい、私にもできますよ。(やさしい問題)
ひらがなくらい読めるでしょう。
ちょっとぐらい待てないの。(長く待てとは言わないけれど)
以上の例は「Nだけは」と言うこともできます。
私だって新聞だけは読みますよ。(外のものは読まない)
彼にだけは知らせておいたら。(他の人はいいけど)
けれども、やはり意味合いの違いははっきりあります。「だけ」は特にそれを取り立てていますが、「ぐらい」は、当然のこととして軽く言っています。
次の例はちょっと特別です。
できたのは彼女ぐらいだ。(彼女だけだ)
この例は、いわゆる「強調構文」ではありません。「×彼女ぐらいができた」という形にはなりませんから。「〜ぐらいのものだ」という形もあります。
複文の中の例を一つ。
これぐらいやっておけば大丈夫だろう。
これだけやっておけば大丈夫だろう。
それぞれ単文として独立させると意味が違います。
これぐらいやっておこう。
これだけやっておこう。
「ぐらい」のほうは、最低限、という軽い気持か、あるいは、目の前にある量があって、だいたいそれと同じぐらい、という場合です。「だけ」のほうは、他のものはやらずに、という限定の気持です。
複文になると、「だけ」のほうが二つの意味になります。限定の意味と、けっこう大した分量をやった、だから大丈夫だ、という意味にもなります。
[数量+ぐらい]
「ぐらい」が数量につく場合は、「だいたい」の意味になります。
今から1時間ぐらいかかります。
長さが10mぐらいあります。
街頭で何かの募金を頼まれたとき、
百円ぐらい出さないと、みっともないかな。
と言うと、「最低限」および「百円」にたいする低い評価を感じますが、
百円ぐらい出せばいいかな。
と言うと、「だいたい」の感じでしょうか。
◇Nほど:程度
程度を表し、形容詞文で多く使われます。単文では「N+ほど」は否定とともに使われるのがふつうです。比較の構文の否定の形です。
今日は昨日ほど暑くないです。(×今日は昨日ほど暑い)
中国語は英語ほど上手ではありません。
今年は去年ほど事件がありませんでした。
日本酒はビールほど飲みません。(ビールを)
「Nに」には付きにくいようで、あまり自然な言い方とは言えません。
母は私には弟にほどやさしくありませんでした。
指示語の「−れ」の形に付きます。(「このほど」は別の意味)
私のカバンはこれほど重くないです。
「それほど」は「それ」が具体的なものを指さず、「そんなに」の意味になる場合がよくあります。
日本語はそれほど難しくないです。
「Aほど〜Bはない」の形で「Aはいちばん〜」を表します。
あの人ほど親切な人はいない。(いちばん親切だ)
彼ほどの人はいない。(じょうずな人はたくさんいる。しかし、〜)
引用の形では否定が主節の述語に現れることもあります。
これほど難しいとは思わなかった。(これほど難しくないと思った)
複文の従属節の中では、否定がなくても使われます。
あの人ほど頭がよくても、間違えることはあるんですね。
あれほどがんばったのだから、きっと優勝するだろう。
彼ほどの人でもまちがえる。
「それほど」の「それ」が前の文を受ける場合は、否定の述語でなくても使えます。述語を受けて極端な程度を表す用法になっています。
この問題は誰もできません。それほど難しいのです。
このように前の文を受けるのは「連文」の文法です。
「数量+ほど」の場合は、「ぐらい」より硬い言い方で、丁寧で書き言葉です。否定とは特に関係ありません。
ロープを5mほどください。
参加者は百人ほどでした。
お金が千円ほど足りません。
◇複文の場合
述語をうける用法を見てみます。
◇ホド・クライが交換できる場合
「ほど」と「くらい」が交換可能な用法があります。形容詞や動詞によって表される状態の程度を「V−ほど/くらい」が示します。「非常に〜」であることを、印象的に、多少極端な言い方で表します。この「V」の内容は、実際のことである場合と、単なるたとえの場合があります。否定形も受けられます。
まず、文末の述語を修飾している例から。
あの映像は悲しくなるほど/くらい 美しい。
歩けないほど/くらい、酔ってしまった。
このテーブルは10人でも持てないほど/ぐらい 重い。
ここのラーメンは新聞にも載ったほど/くらい 有名だ。
殺してやりたいほど/くらい 憎い。
日曜にも働かなければならないほど/くらい 忙しい。
死ぬほど疲れた。(×死ぬくらい)
初めの例で「あの映像が美しい」程度は、「あまり美しくて悲しくなる」ということになる・・・(ここでどうしても「ほどだった」と言いたくなるところです)レベルだった、ということです。「死ぬほど」は慣用的な表現として固定しているようで、「くらい」では言えません。「くらい」のほうが「ほど」より少し話しことば的です。
「しそうだ」「V−かもしれない」を受けることができます。
うちの子は将棋が好きで、もう私も負けそうなほど強くなった。
私たちにも買えるかもしれないくらい安くなってきました。
「〜だろう」「〜らしい」は使えません。
あとに「に」をつけて、「V−ほどに」「V−くらいに」とすることもできます。そうすると少し重々しい感じがします。
疑問語は、「どれ/どの くらい」「どれほど」です。
その恐竜はどのくらい大きかったんですか。
この用法の「ほど」と「くらい」はお互いに入れ換えることができます。以下の例でも同様です。
次に、文末以外の位置にある述語を修飾する場合の例。
びっくりするほどきれいに撮れた。(びっくりするくらい)
知らない人はないほど有名な話だ。
向こう岸が見えないくらい広い川だ。
やめたくなるくらいきつく、つらい仕事です。
いやになるくらい面白くない映画だった。
一つもできなかったほどむずかしい試験だった。
最初の例で「びっくりするほど」が修飾している「きれいに」は、それ自体が「撮れた」の修飾語になっていますが、「びっくりするほど」の修飾語という役割は変わりません。修飾語の修飾語になっています。
この「ほど」「くらい」は「だ」をつけて文末におくこともできます。
あの映像は(とても)美しくて、悲しくなるほどだ。
酔ってしまって、歩けないほどだった。
箱は重くて、一人では持てないくらいだった。(〜くらい重い)
その苦しさは、耐えきれないほどだった。(〜ほどの苦しさだった)
上の三つの例は「〜て」の形を受けています。「原因」の「〜て」です。「〜ので」でも言えますが、二つの節の関係が直接的なので、「〜て」のほうが自然な感じがします。
最後の例は名詞を受けていますが、「苦しさ」は「苦しい」と同じようにその程度を考えることができます。
また、「〜ほど/くらいのN」の形にもなります。
食べきれないほど/くらい の食べ物
この場合はもちろん「食べきれないほどたくさんの」という意味合いです。
息苦しくなるほどの映像美 (〜ほど美しい)
一人では持てないほどの重さ
向こう岸が見えないほどの(広い)川
この「広い」は省略できます。「〜ほどの川」だけで、広さが問題になっていることがすぐに了解できるからです。また、「〜ほど広い川」でもいいわけです。
「〜だ」が「〜になる」になる例。
コートが要らないぐらいになった。(〜ぐらい暖かくなった)
枝が伸びて、屋根に届くほどになった。(〜ほど長くなった))
それぞれ、「暖かく」「長く」の省略と考えられます。
[N/V ほど/くらい 〜Nはない]
他にないのですから、「いちばん・・・だ」という意味を表します。
この湖ほど美しいところはない。
この問題ほど難しい問題はない。
あいつをだます(こと)ぐらい/ほど 簡単なことはない。
「こと」が入れば名詞節を受けることになります。
◇ホド・クライが交換できない場合
さて、「ほど」と「くらい」の言い換えのできない場合があります。
プロと比べられるほど上手ではありません。
?プロと比べられるくらい上手ではありません。
プロと比べられるほど/くらい 上手です。
「くらい」はどうも安定しません。単に否定だからだめだということでもありません。
食べる物が買えないほど/くらい お金がなかった。
皆が途中で帰ってしまうほど/くらい つまらない講演だった。
言いかえられる例では「Aほど/くらいB」のAとBの関係は「BだからA」
という関係です。
お金がない→食べ物が買えない
つまらない→帰ってしまう
それに対して、上の言いかえられない例は、
上手ではない→プロと比べられる
となりません。否定をAとBの関係の外に出して、
[上手だ→プロと比べられる]ではない
と考えればいいわけです。もとの文に戻して、
[プロと比べられるほど上手]ではありません。
のような構造だと考えられます。
ヨットが買えるほどお金持ちではないよ。(×くらい)
ヨットが買えるほどのお金はないよ。(?くらいの)
僕のお小遣いで買えないほど高くはなかった。(×くらい)
どうしても結婚したいというほど愛してはいなかった。(×くらい)
「ほど」を文末に移した例。
速いといっても、入賞するほどではなかった。(×くらい)
次の例も「くらい」では言えません。
君が言うほど難しくなかったよ。
×君が言うくらい難しくなかったよ。
修飾される述語を肯定にすると、「ほど」でも変です。
×君が言うほど難しかった。
「難しい」程度は「君が言う(言った)」では示せません。
これは否定と共に使われる「ほど」で、「比較」に近い文型です。
上でも簡単に述べましたが、これまで多く見てきた「ほど・くらい」の言い換えのできる例の場合は、
びっくりするほど難しかった。
のように、「AほどB」のAとBの関係は、
とてもBなので、Aするほどだ
となり、AはBの程度を強く印象づける内容になっています。
しかし、この用法は、A程度をかなり高いものとして予想した上での表現
で、実際にはBはその程度まで届かない、という否定的な内容です。
政府が繰り返し強調したほど重大な問題ではなかった。
行く前に想像したほどは大きくはなかった。
現地へ行ってみると、言われているほど汚染は進んでいなかった。
これらはそれぞれ、
政府が繰り返し「重大だ」と強調したほど〜
行く前に「大きいだろう」と想像したほどは〜
「汚染がひどい」と言われているほど〜
というようなことが前提になっています。「ほど」の前の動詞は言語・心理関
係の動詞で、「引用」のできる動詞です。(→「58. 引用」)実際に知る前に「程度が高い」という予測があったが、実際はそうではなかった、というのがこの用法です。
単文の比較の文型で、
AはBほど大きくない
というとき、Bはある程度「大きい」ものであるのと並行しています。
「君が言うほど〜」の例も、
君が「難しいぞ」と言う(言った)ほど難しくなかった。
と考えられますが、「言った」を「言う」で言えるのは、この動詞の特性です。
「見る」は引用の動詞ではありませんが、「〜を〜と見る」という文型になる動詞です。
この仕事は、はたで見るほど楽じゃないよ。(×くらい)
(周りの人が、この仕事を「楽だ」と見るほど、楽じゃない)
次に、「くらい」のほうが自然な例。「最低」を示す「くらい」は「ほど」では言えません。
ここに入っちゃいけない(こと)ぐらい知ってるでしょう?
入賞したぐらいで喜んではいけない。
休みの日でも警備員をおくぐらいできるだろう。(ぐらいのことは)
彼女じゃあ、即席ラーメンを作るくらいが関の山だ。
ちょっとビールを飲むくらい、いいじゃないか。
「〜ことくらい」または「〜くらいのこと(+助詞)」でも言えます。前者は「名詞節+くらい」で、つまりは「Nくらい」と同じことになります。
市の大会で入賞するぐらい、大したことじゃない。
「入賞することは大したことではない」という意味ですが、
市の大会で入賞するほど、大したことじゃない。
とすると、「このこと(何かはわかりませんが)は、市の大会で入賞することほど素晴らしいことではない」という、まったく違った意味になります。
また、「ちょうどその分くらい」という意味の場合も、「ほど」では言いにくいか、「ほど」で言うと意味が多少変わってきます。
この小さな店がちょうどいっぱいになるぐらい、客が来た。
車ならちょうど10分かかるくらいの距離だ。
「会費はどのくらいになりそうですか」「そうですねえ。1万円で
お釣りがくるくらいです」
「ほど」の「君が言うほど難しくなかった」に対応する「くらい」の例。
ちょうど君が言っていたくらい難しかったよ。
ちょうど君が言っていたくらいの難しさだったよ。
「君が『このぐらい難しい』と言っていた」のと同じくらい難しかった、という意味です。なぜか名詞文にしたほうが安定した感じがしますが。
[〜ば〜ほど]
「ほど」は「AばBほど」の形で、Aの程度が上がるに従って、Bの程度も上がることを表す文型に使われます。「Aば」が省略された形でもよく使われます。
飲めば飲むほど、体が軽くなる。
安くなればなるほどたくさん売れる。
南へ行くほど暖かくなる。
大きいほどいいんですが。 (大きければ〜)
菊 さんのコメント
(2003/12/01 21:56:17)
saburoさん、ありがとうございました。いただいたコメントや、文法書などでもう一度確認してみましたが、この場合の
一番の違いのポイントは、「くらい」は否定文とはなじまないことがわかりました。また、「くらい」で否定文がなじむときは、「〜ほど〜はない」の構文などの、状態の程度を表すときであることもわかりました。あとは生徒にわかりやすく
説明しなければならないので、なんとかまとめてみます。
ありがとうございました。