「残念なことに」と「残念ながら」 [コメントする]

「残念なことに」と「残念ながら」


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/16 14:19:07)

※これは過去ログを整理したものです。(管理人)

No.770
投稿時間:03/06/27(Fri) 09:45
投稿者名:huadong
Eメール:yongjilou2003@yahoo.co.jp
URL :
タイトル:「−ことに」と「−ながら」

Oyanagi先生、こんにちは!
 
 いつもお世話になっているhuadongです。今日はちょっと教えていただきたいことがあったので、またお邪魔いたします。

次の文中に「残念なことに」と「残念ながら」が使われていますが、両方とも「前置き的用法」で、置き換えられてもいいように思われますが、そうなんでしょうか。置き換えられたら、ニュアンスの違いはどうなるのでしょうか。教えていただきたいと思います。

 「残念なことに、抜かなければならない歯. 残念ながら抜くことに成る歯は、このような歯です。」

 また、「同時進行」でない「−ながら」文と「−ながらも」文について、意味的には違いはないと、日本語の教科書にはそう書いてありますが、どうもどこかが違うように思われます。いったいどう違うのでしょうか。

 以上教えていただければありがたいです。よろしくお願いします。

No.782
投稿時間:03/07/10(Thu) 02:16
投稿者名:Oyanagi
Eメール:oyanagi@tky2.3web.ne.jp
URL :
タイトル:残念ながら今はこれくらいのことしか・・・

こんにちは。レスが大変遅くなって申し訳ありません。
自分としては、あまり満足のいく内容ではありませんが、参考にはなると思います。

【「残念なことに」と「残念ながら」について】

> 次の文中に「残念なことに」と「残念ながら」が使われていますが、両方とも「前置き的用法」で、置き換えられてもいいように思われますが、そうなんでしょうか。置き換えられたら、ニュアンスの違いはどうなるのでしょうか。教えていただきたいと思います。
>
>  「残念なことに、抜かなければならない歯. 残念ながら抜くことに成る歯は、このような歯です。」

ちょっと読みやすいように並べて書くと、次のようになりますね。

(1)残念なことに、抜かなければならない歯は、このような歯です。
(2)残念ながら  抜くことになる歯は    このような歯です。

たまたまこの文の場合は、文頭に来る「〜ことに」と逆接になる「〜ながら」の「〜」のところに「残念」という言葉が来ているので、似た用法となっていますね。
※普通はこうなりませんからね。
(3)不思議なことに、ゆうべかけたはずのカギが開いていた。
(4)不思議ながら??

■元の文の自然さについて

まず元の文についてですが、これはどこか教科書か本から引用したものでしょうか。私は(1)も(2)も間違いとは言えないけれども、どうも落ち着かない文だと思います。同じような内容で、それぞれの句に続く文を作ると次のようになるのではないかと思います。

(1)’残念なことに、このような歯は抜かなければいけなかった。
(1)”残念なことに、このような歯は抜かなければいけないと言われた。
(2)’残念ながら、このような歯はぬかなければいけません。

(1)’と(1)”は自分自身のことについてで、(2)’は医者が患者に向かって話すような状況ですね。
元の(1)(2)は、「〜ことに」「〜ながら」で始まっているのに、最後が「このような歯です」と終わっている点が、間違いとは言えないけど、何か不自然です。

■「前置き」という考え方について

この二つの文の用法を「前置き」と考えるかどうかということについてですが、二つの用法は微妙に異なると思います。

「残念ながら」は慣用的に、次のような使い方が非常によくされますが、同じことを「残念なことに」で言うことは普通ありません。

(3)○(応募者に対して)「残念ながら、受付は終了しました。またの機会をご利用ください」
   ×(応募者に対して)「残念なことに、受付は終了しました。またの機会をご利用ください」

「残念なことに」は(4)の状況ならいいです。

(4)○(自分自身、または他者のことについて)
    「残念なことに、受付は終了しました。(それで申し込みはできませんでした)」

そして、(4)のような状況は、「残念ながら」も使うことはできると思います。

(4)○(自分自身、または他者のことについて)
    「残念ながら、受付は終了しました。(それで申し込みはできませんでした)」
        (→「受付は終了していました」のほうがもっと自然です

■まとめると

<残念なことに>
★「〜ことに」はあとに続く内容(=出来事、事実)に対して、話し手(書き手)がどのように感じたかを述べる文型で、その気持ちを“強調”するのだと思います。(「非常に〜(な)のですが」という意味)
★確かにその気持ちを“先に出す”ので、「前置き」のような用法と考えられますが、重要なのは、“そのコト”に対してどのように感じたかを『客観的』に評価して、それを「前置き」することによって、『強調』することだと思います。
★ですから、典型的な文は、過去に起こったことや、今分かっている事実を受けて、“そのコト”対する気持ちを述べる文になります。
★「こと」を使って事態を括ることで、事態を客観的にまとめるような働きがあるのだと思います。

それで、最初に書いたように、(1)のような構文よりは、(1)’や(1)”のような文が自然になるし、(3)のような状況では使えずに、(4)のような文が自然になるのではないでしょうか。

<残念ながら>
★それに対して、「残念ながら」というのは、“聞き手”にたいして、伝えなければならないことを、それは「残念なことなんですが」と「前置き」して伝える、ということで、<聞き手に対して配慮している態度>が表れるのだと思います。

★これは「残念ながら」という表現が特にもっている慣用的な用法だと思います。(→■蛇足 を参照)

★それと同時に、普通の「〜ながら」の逆接の用法として、”そのコト”に対して客観的に“そのコト”を評価する場合にも使えるのだろうと思います。

それで、(3)のような場面でよく使われるし、(4)のような状況でも使うことができるのではないでしょうか。

つまり、「残念なことに」は、“出来事”に対する評価を客観的に述べるもので、聞き手に対して配慮するという態度は入りません。
そのため、どちらかと言えば書き言葉的で(たとえ話す場合でも)硬い印象を与えますが、「残念ながら」は慣用的に話し言葉として、伝えにくいことを伝える場合の「前置き」として広く使われているということでしょう。

以上ですが、このことを参考にして、ご自身で「残念なことに」「残念ながら」で始まる文をたくさん観察してみて、どのように使われているか調べてみてください。

■蛇足

拙著『ニューアプローチ中上級日本語 完成編』では、他の文型とは別にして、「慣用表現」として、次のように扱っています
******引用(p.232)*********
慣用表現の例
・(店の入口にある張り紙)
 誠に勝手ながら、本日より三日間臨時休業とさせていただきます。
・伝えにくいことを話す時
 「残念ながら0対2で負けてしまいました」
***********************************************


【「〜ながら」と「〜ながらも」について】

>  また、「同時進行」でない「−ながら」文と「−ながらも」文について、意味的には違いはないと、日本語の教科書にはそう書いてありますが、どうもどこかが違うように思われます。いったいどう違うのでしょうか。

このことは、実は私も何年も前から気にはなっていたのですが、いまだ「これだ」という納得のいく説明ができずにいます。ということで、ここでは思い付いたことを挙げておくだけにしておきます。今後、要検討です。これについて何かお考えがある方は、ぜひご投稿ください。お願いします。

教科書や参考書などで、「意味的には違いはない」と説明されるのは、確かにそのとおりだと思います。
仮に違いがあったとしても、学習者に指導しなければならないほど重要な違いではないという判断があるのだろうと思います。

■「も」を入れることが多いのはどんな場合?

慣用的に「も」をつかた形で使うことが多い表現があることは事実ですね。それが、どのような構文なのかは多くの例文を見て考えなければいけないでしょう。品詞によって異なるのか、それとも前と後の文の意味内容によって異なるのか。

例)「狭いながらも、やっとマイホームを手に入れた」

■ニュアンスの違いは?

意味の違いはないとしても、ニュアンスの違いがまったくないというわけではないと思っています。
ニュアンスの違いは、「強調」と言っていいのかなと思います。ただ、単なる強調ではないと思います。そのへんをどう説明するのがいいのか、まだまだ思案中です。
「強調」というよりは、『はっきりと「逆接」」であることを表示する働き(=それでも、そうなんだけれども、というつながり方を示す』と言ったほうがいいでしょうか。

(1)事実を知りながら、私には一言も話さなかった。
(2)事実を知りながらも、私には一言も話さなかった。

(3)苦しみながら なんとか1点を入れて・・・・
(4)苦しみながらもなんとか1点を入れて・・・・

(5)試行錯誤しながら なんとか新商品を開発した
(6)試行錯誤しながらもなんとか新商品を開発した

(1)と(2)ではそれほど差は感じないかもしれませんが、(3)以下のペアを見ると、「ながら」のほうは、「同時進行」という解釈でも意味は通るのではないでしょうか。もともと「同時進行」と「逆接」とは共通の基盤の上に成り立っていて、二つの出来事のつながりの解釈の仕方が異なるだけですからね。
※「そんなことが同時に成立してはいけない」という見方→【逆接】の解釈

そういう視点でみると、「も」を入れることで、逆接のつながりであることを「明示」するということもあるのではないかと思います。

ちなみに、「も」だけでも、逆接を表すことが可能ですから、そういった面からもこの「明示」説は根拠のあることではないかと思いますが、確証はありません。書き言葉ですが、新聞の見出しではけっこうよく見る用法だと思います。

(7)(選挙戦を報じる新聞の見出し)
   『○○候補 健闘するも一歩及ばす』

■蛇足
話はそれますが、拙著『ニューアプローチ中上級日本語 完成編』でも「〜ながら」の逆接の項目の解説では、そのことについては、簡単に触れているだけです。悪く言えば、逃げているということですが・・・(汗)
(言いわけを書くと)そのことよりも、「ながら」がどういう場合に、同時進行になるのか、逆接になるのかについての解説をつけたほうが有益かなと思ったので、通常どんな動詞、形式のときにどうなるかという解説をつけました。

No.789
投稿時間:03/07/16(Wed) 12:17
投稿者名:Oyanagi
Eメール:
URL :
タイトル:「前置き」再考

「前置き」再考

先の投稿では「(残念な)ことに」と「(残念)ながら」の比較を考えていて、「〜ながら」の前置きの用法についてあまり深く考えませんでしたが、その後、気になって、改めて用例を観察しました。それで、「残念ながら」のような慣用句として前置きの用法で使われるもの以外に、「逆接」と「前置き」の中間的な存在とでもいうような用法があるのではないかと思いました。それについて書いておきます。最後に「ならが」と「ながらも」の「も」の存在について言及しておきます。

■典型的な逆接の用法

「ながら」に接続する品詞のうち、動詞(通常は結果、状態をあらわす場合)の場合には、典型的な逆接の用法が認められます。

(1)知っていならが、教えてくれなかった。
A【知っている】コト × B【教えてくれなかった】コト

(2)近くまで行きながら、会わずに帰った。
A【近くまで行った】コト × B【会わずに帰った】コト

このように、Aという事態から通常予想、期待されることとは反対の事態Bがある場合に典型的な逆接の用法が生まれます。

名詞が続く場合(「名詞ながら」)は、「名詞である」のように「ある」という状態をあらわす動詞が続く場合と同様に考えていいと思います。

(3)子ども(であり)ながら、自分の考えをしっかりまとめて話せる。
A【子どもである】コト × B【〜話せる】コト

(4)小型(であり)ながら、なかなか高性能だ。
A【小型である】コト × 【〜高性能である】コト

次に形容詞ですが、これには二つのタイプがあります。一つはこのに属するもので、もう一つは、次項の「中間的な存在」に属するものです。

(5)この家は、狭いながら、住み心地はなかなかいい。
A【狭い】コト × B【〜がいい】コト

以上、典型的な逆接の用法の特徴をまとめると、“二つのコト“が同時に成立するか否かを主観的に判断して、逆接のつながりになっていると認められるということです。

■中間的な存在(「半前置き」の用法)
 注:「半前置き」はoyanagiの勝手につけた名称ので気にしないでください。

動詞と名詞、そして形容詞(の一部の使い方)は文法上、“二つのコト”がどのように関係しているかを比べることができますが、形容詞は述部になる用法以外に、連体修飾の用法があります。そして、副詞は連用修飾の用法があります。このような品詞(とその使い方)の場合には、上に挙げた典型的な逆接の構文になりません。

例えば、(6)の文は「ながら」を使った文ですが、それは(7)と伝える“内容”自体に違いはありません。
また、同じ「狭い」という形容詞を使っていますが、(5)のようにAとBという二つのコトのつながりを主観的に判断する文にはなっていません。

(6)狭いながら(も)、やっと郊外に一軒家を手に入れた。
(7)やっと郊外に狭い一軒家を手に入れた。

このような文をどう位置づけるかですが、例えば、(8)のような文を想定すると、「前置き」の用法に近いと言えますが、「残念ながら」にみられるような典型的な「前置き」とは少し異なるように感じます。(詳しくは次項で)

(8)それは狭いんだけれども、やっと郊外に一軒家を手に入れた。

これは試案ですが、(9)のような話者の心理が働いて、「ながら」の逆接の用法が生かされていると考えてみてはどうかと思います。
そして、本来は連体修飾である形容詞の部分が、前に出て、「前置き」の用法に近くなると考えます。

(9)A【狭い】コト × B【(それでも)一軒家だと言える】コト
※逆接の心理:「【狭い】のだから、それは一軒家とは言えない」と考えることに対して、そうではないと主観的に判断すること。

→(10)「やっと郊外に【狭いながら(も)一軒家だと言える】ものを手に入れた」
→(11)「狭いながら(も)、郊外に一軒家を手に入れた」

副詞の場合も同様に考えることができると思います。元々は、単文の中で連用修飾する副詞が、話者の心理として「逆接」として認識されて、その部分が前に置かれて「副詞ながら、〜」という構文が生まれるのだろうとおもいます。副詞の場合は元々文の前に位置することが多いのですが、「前置き」的な用法になっている場合には、主題(「〜は」)の前に出すことも可能です。

(12)A【(スピードが)ゆっくりである】コト × B【(それでも)成長していると言える】コト
→(13)「その子どもは、【ゆっくりながら(も)確実に成長していると言える】状態だ。
→(14)「その子どもは、ゆっくりながら(も)確実に成長していた」
→(14)’「ゆっくりながら(も)、その子どもは確実に成長していた」

(15)【(程度が)わずかである】コト × 【(それでも)回復していると言える】コト
→(16)「景気は、【わずかながら(も)回復していると言える】状態だ」
→(17)「景気は、わずかながら(も)回復している」
→(17)’「わずかながら(も)、景気は回復している」

参考書などでは、「ながら」の逆接の用例として、上のような動詞以外の品詞接続のものを挙げています。確かに、「〜けれども」で言い換えができるので、逆接なのだと理解することもできますが、典型的な逆接の用法(AとBの二つのコトについて判断する)と構文は異なるので、注意が必要だと思います。

■典型的な前置き

「残念ながら」「勝手ながら」を「典型的な前置き」の用法だと考えます。なぜ典型的な前置きの用法だと考えるのかというと、品詞では形容詞(な形容詞)ですが、上に見た形容詞の構文と違って、文全体のコトについて評価しているからです。つまり、(18)の文は(19)のような関係としてとらえることができますが、(20)のようにはとらえることができません。
すなわち、AとBのコトが対立するのではなく、Bのコトにたいする評価がAだという関係になっています。

(18)残念ながら、本日をもって営業を終了させていただきます。
(19)B【〜終了させていただく】コト=A【残念である】コト
(20)A【残念である】コト × B【〜終了させていただく】コト

したがって、(19)の関係から、(21)が生まれ、その「残念」の部分を前置きしたものが(18)となると思います。
(21)本日をもって営業を終了させていただくことは、残念なことです。

それでは、この「ながら」は逆接とは全く関係なのかというと、そうではないと思います。「中間的な存在(半前置き)」の構文の特徴のように、心理的な逆接とでも言えるような主観的な判断が底にあると想定できます。(→9を参照)

(22)A【(そうするのは)残念である】コト × 【(それでも)そうすることが不可逆的な事実である】コト
※逆接の心理:「【そうするのが残念である】と思うのなら、それを取りやめればいい」という考えに対して、そうではないと主観的に判断する。

このような心理の表れが、「残念ながら・・・」と前置きする用法となり、慣用句として定着したのだろうと思います。

■「ながら」と「ながらも」

先の投稿では、逆接の用法としての「も」を挙げて、「ながらも」は逆接であることを明示して、強調するような働きがあるのではないかと書きましたが、今回はそれに加えて、「中間的な存在(半前置き)」の構文で「ながらも」がよく使われるのではなかという考えを出しておきます。

No.793
投稿時間:03/07/17(Thu) 18:37
投稿者名:huadong
Eメール:yongjilou2003@yahoo.co.jp
URL :
タイトル:有難うございました

Oyanagi 先生 こんにちは!

 ご丁寧な説明で、大変いい勉強になりました。どうも有難うございました。今後ともよろしくお願いします。


コメントする


なまえメール
WWW
タイトル
コメント
参考
リンク
ページ名
URL


[HOME] [TOP] [HELP] [FIND]

Mie-BBS v2.13 by Saiey