助詞「で」の意味・用法 [コメントする]

助詞「で」の意味・用法


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/16 14:17:03)

※これは過去ログを整理したものです。(管理人)

No.784
投稿時間:03/07/12(Sat) 15:40
投稿者名:ゼロ
Eメール:dlb0606@yahoo.co.jp
URL :
タイトル:「で」の意味について

oyanagi先生、はじめまして、ゼロです。
以下のような、分からないことがあったので、教えていただけないでしょうか。
『日中交流標準日本語』では次のような会話があって、(P196)
奥さん:では、これを3本ください。
 店員:3本で360円いただきます。
奥さん:すみません。小銭がありませんから、10000円でおつりをく     ださい。
・・・・
なんですが、最初の「3本で」と次の「10000円で」の「で」はどうも違うような気がします。「3本で」の「で」がなんとか分かりますが、「10000円で」の「で」は、「これは10000円です。これに対し、おつりをください。」という話の縮み方と理解すればよろしいでしょうか?そうだとすれば、その「で」は「です」の変形ですと、思われます。結構迷っているので、文法的、特にその会話での日本人の心理からご説明をいただければ幸いと存じます。
よろしくお願いします。

No.785
投稿時間:03/07/13(Sun) 22:35
投稿者名:Oyanagi
Eメール:oyanagi@tky2.3web.ne.jp
URL :
タイトル:分類の仕方と考え方

ゼロさん、こんにちは。Oyanagiです。

> 『日中交流標準日本語』では次のような会話があって、(P196)
> 奥さん:では、これを3本ください。
>  店員:3本で360円いただきます。
> 奥さん:すみません。小銭がありませんから、10000円でおつりをください。
> ・・・・
> なんですが、最初の「3本で」と次の「10000円で」の「で」はどうも違うような気がします。「3本で」の「で」がなんとか分かりますが、「10000円で」の「で」は、「これは10000円です。これに対し、おつりをください。」という話の縮み方と理解すればよろしいでしょうか?そうだとすれば、その「で」は「です」の変形ですと、思われます。結構迷っているので、文法的、特にその会話での日本人の心理からご説明をいただければ幸いと存じます。

ええと、ゼロさんは、日本語を学習している外国の方でしょうか。「日本人の心理から」と書かれているので、もしかしたら、外国の方ではないかと思いました。
それから、上の説明では、
>「3本で」の「で」がなんとか分かりますが、
とありますが、どのような用法だと考えているのでしょうか。それが書かれていないと、ゼロさんが上の二つの「で」が違うようだと考えていることに対して、的確にコメントすることができません。

ということで、とりあえず、日本語教師の方からの質問だと考えて、「3本で〜円いただきます」の「で」の用法を、下に書いた(6)だと考えて、「10,000円でおつりをください」の「で」も同じだと考えていいのではないか、という考えを書きます。
「日本人の心理から」ということなので、その辺のことも付け加えておきます。

■初級での分類(基本)

初級では、「で」を、用法の視点から、次の5つに分類することが多いです。
(※提出順序は1が最初であるのが普通だが、それ以外は教科書によって異なる)
(1)場所「学校で勉強する」
(2)手段・道具「電車で行く」「はさみで切る」
(3)原因「病気で休む」
(4)材料「木で作る」
(5)様態「大声で話す」

そして、もう一つの用法として
(6)範囲、数量を限定する
が挙げられます。
「3時間で終わる」
「500円で買う」
「3人で行く」

■「で」の共通点

この分類を見ると、(1)〜(5)のようなはっきりとそれとわかる<用法>と(6)のような数が来て何かを限定するような<用法>の二つがあるような分類の仕方をしていますが、これは初級での指導上の配慮があってのことだと思います。

「で」の基本的な用法は「限定」だと考えたほうが、用法の全体をとらえる上では理解しやすいです。そして、今回問題となったものも、数といっしょに用いられてて、
★何かについて、その数でもって<限定する>するという用法になっているはずです。

この<限定する>そいうのは、『それ以外ではない』『それ以上ではない/(場合によっては)それ以下でもそれ以上でもない』ということですね。
「3本で〜円いただきます」の「で」は「1本、2本ではなく、4本以上でもない。3本の場合には」という意識があって、「3本デ」になるのだと思います。

■お店の人とお客の心理

お店の人の心理は、お客に<数量>と<代金>のつながりを<明示>するために、「〜で〜円です」と言っているはずです。
お客が「10,000円でおつりをください」という場合の「で」はどういうことなのかと考えると、お店の人の心理と基本は同じではないでしょうか。
おつりをもらうために差し出したお金がいくらなのかを<明示>するために、つまり「自分が出したお金は1万円以下でも以上でもない」ということを示すために「〜円でおつりをください」と言うのだろうと思います。

■ほかの考え方

基本の用法が「限定」だと考えれば、上の(1)〜(6)のどれでも「限定」ということになるのですが、今までの説明は(6)に分類される用法として説明しました。

しかし、見方を広げれば、「1万円で(お釣りをもらう)」は「1万円札を使って(お釣りをもらう)」ということで、「手段」という見方もできなくはないと思います。
とはいえ、典型的な「手段」というわけではなさそうなので、やはり、数量や期間を示す名詞と一緒に使われて、その程度や期間を「限定」する用法と考えたほうがいいと思います。

■「〜です」→「〜で」と格助詞の「で」の違い

ここで、「10,000円でおつりをください」の「で」を「〜です」から来ていると考えることについてですが、これは文法的に考えると、間違いだと思いますが、文を使う人の心理を考えればそのように解釈してもいいと思います。
つまり、使う人の<心理>としては、「これは10,000円です。“それ以上のお金でもそれ以下のお金でもありません” これに対しておつりえをください」と考えればいいわけですからね。ただ、文法的にそのような文が想定できるかというと、答えはノーだと思います。

<心理的>に考えて、そのように考えてもいいというのは、「これは1万円である」ということを<明示>する意識を示すという点で、「これは1万円です。これに対しておつりをください」と考えてもいいということです。
このように考えることができるとこと、文法的に、この文が省略されて「1万円で、おつりをください」という文になると考えていいわけではありません。

★文法的に考えて間違いだと言うのでは、格助詞の「で」と「〜です」→「〜で」とは構文的に区別されるからです。

「で」が「です」から来ている場合というのは、次の(ア)(イ)(ウ)のように二つの文を接続する場合ですね。
「〜です。・・・。」→「〜で、・・・」の場合は、あくまでも二つの文だったものが一つにまとめられたものです。「〜」の部分が「・・・」の部分と“意味的に結びつく”というわけでありません。
※(イ)(ウ)のように、二番目の「・・・」の文の主語や目的語になることはありますが、格助詞の「で」と違って、何かの意味で結びつくということはありません。

★「〜です」→「〜で」の場合には、(ア)のように、もともと異なる主語の文をつなげる場合には、最初の文の主語の部分< >は省略されません。また(イ)(ウ)の場合には、最初の文の主語の部分< >は、文脈から想定できる場合は、省略してもいいですが、重要なことは、それを復元しようと思えば、できるということです。

★それに対して、(エ)のように格助詞の「で」の場合には、主語の部分< >が省略されているわけではなく、もともと存在しません。格助詞がついている部分は名詞句で、文の述部と結びついているからです。ですから、もともと存在しないものを無理に補っても、文が成立しません。


(ア)「<これは>自転車です。それはバイクです。」
    →○「<これは>自転車で、それはバイクです。」
    →×「自転車で、それはバイクです。」
(イ)「<これは>最新の自転車です。先月発売されました。」
    →○「<これは>最新の自転車で、先月発売されました。」
    →?「最新の自転車で、先月発売されました。」
(ウ)「<これは>私の自転車です。先月買いました。」
    →○「<これは>私の自転車で、先月買いました」
    →?「私の自転車で、先月買いました」

(エ)○「(わたしは)自転車で学校に行きます」(:述部と“手段”の意味で結びつく)
   ○「(わたしは)自転車でけがをしました」(:述部と“原因”の意味で結びつく)
    ←×「(わたしは)<これは>自転車で、学校に行く」
    ←×「(わたしは)<これは>自転車で、けがをした」

このように考えると、問題の文を「〜です」→「〜で」と考えるのは良くないことがわかります。

(オ)○「1万円で おつりをください」(:述部と“(数量を)限定”の意味で結びつく)
   →×「<これは>1万円で おつりをください」

また、話すときのイントネーションやポーズを考えても、次のように2つの文を一つにまとめているという意識はないと思います。
(カ)/(これは)一万円で/+/おつりをください/

ですから、「おつりをください」という文(:「ください」という述部)に対して、どういうお金に対してそれを求めるかを限定するために「一万円デ」という名詞句を付け加えていると考えるのがいいと思います。

■蛇足(“結び付け方”のいろいろ)

初級の教科書では、「正しい日本語」として
「1万円でおつりをお願いします」
「1万円でお願いします」
という文型が紹介されていると思いますが、コンビニやファミレスなどでは“店員用日本語”として、
「1万円からお預かりします」
という日本語がよく聞かれるようになりました。そして、それに影響されてか、お客の側も
「1万円からお願いします」
と言う人が増えていいるようです。
注)一部の地域(たしか、九州方面)では方言として「〜円からお願いします」を使っていたという指摘があります。
ですから、準場としては、「〜円からお願いします」→「〜円からお預かりします」と広がったと考えることも可能です。

どちらにしても「お金の授受」と「おつりの授受」との関係をどうみるかという「認知(=人がどう物事をとらえるか)」の仕方がかかわっていることは確かです。

★おつりをもらうために出した金額がいくらかを「限定する」(=以下でも以上でもないことを示す)という意識が働くことで、「〜円でお願いします」という日本語が成立するのですが、
★「おつりを受け取る」=「そのお金カラ代金を引いたお金を受け取る」という意識が働くことで、「〜円からお願いします」という“つながり方”も成立したと考えられます。

以上ですが、何か不明な点があったら、またご投稿ください。

No.787
投稿時間:03/07/15(Tue) 01:01
投稿者名:ゼロ
Eメール:dlb0606@yahoo.co.jp
URL :
タイトル:Re: 分類の仕方と考え方

Oyanagi先生、こんにちは。ゼロです。
ご丁寧なお返事をいただき、ありがとうございました。大変参考になりました。自己紹介の足りないこと、申し訳ございませんでした。
実は、日本語の授業を担当している中国人の教師ですが、学生にその質問を聞かれて、同じく「限定」だと説明したけれども、文脈から見れば、どうもなかなか自信がなかった所以です。これから、ゆっくり考えさせていただきますので、不明な点があったら、また投稿します。よろしくお願いします。


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