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ボイスについて


過去ログ(管理人) さんのコメント
 (2003/10/13 22:57:23)

※これは過去ログを整理したものです(管理人)

[120] ヴォイスについて 投稿者:fumi 投稿日:01/05/26(Sat) 23:07

はじめまして、ヴォイスについて教えていただきたいですが、現代日本語の文法において、ヴォイスとして「自発」というカテゴリーを立てるべきかどうかという質問をこの前質問されましたので、これについて教えていただけませんか。よろしくお願いします。
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[121] 前置き 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/27(Sun) 09:39 <URL>

Fumiさん、はじめまして。<勉強部屋>へようこそ。
> はじめまして、ヴォイスについて教えていただきたいですが、現代日本語の文法において、ヴォイスとして「自発」というカテゴリーを立てるべきかどうかという質問をこの前質問されましたので、これについて教えていただけませんか。よろしくお願いします。
文中の「質問された」とうのは日本語の授業で学生からということではありませんよね。おそらく、大学の授業か養成講座でのことだと思いますので、それを前提で書きます。
実はご質問の内容は二つに解釈できるのですが、どちらでしょうか。
(1)「自発」は通常ヴォイスに含まれるが、形態は「可能」「受け身」と共通するのでわざわざ「自発」というカテゴリーをたてる必要があるのか?
(2)そもそもヴォイスという文法範疇に「自発」が含まれるのか?
とりあえず、今回は(2)のほうについて書きますが、もし(1)であればレスをお願いします。
※内容は次のツリーにあります。
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[122] (1)ヴォイスの定義 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/27(Sun) 09:41 <URL>

通常英語などではヴォイスというときには「能動態」と「受動態」の対立を指しますが、日本語の場合には
1)受動態
2)使役態
3)可能態
4)自発態
5)自動詞・他動詞
の5つをカテゴリーとしてたてるという見方があります。この4)の自発態のカテゴリーをたてるかどうかについての考え方をまとめてみます。
注)このテーマに関しては、ずばり『日本語教育辞典』(大修館書店)のp.192に説明があります。
この項の執筆者は寺村秀夫氏で、同じテーマで掘り下げた考察は同氏の著書『日本語のシンタクスの意味I』(くろしお出版)p.205-211にあります。
以下のまとめはこれらの解説を私なりにまとめたものです。もし手元にあればそちらもぜひご参照ください。
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一般的なこととして、Xという範疇にA、B、Cが含まれるかどうかを考えるためには、どうしてもXを定義しなければいけません。その定義が異なれば含まれるかどうかも変わることになります。日本語におけるヴォイスの定義は次のような文法的な現象を考慮してなされました。
典型的な受動態の文では構文上、次のような特徴が観察できます。
 「◯◯ガ ××ヲ 〜スル」
 「××ガ(◯◯ニ)〜サレル」
 →【ヲ格の××をガ格にすると動詞「スル」が「サレル」となる】
このようなことからヴォイスを次のように定義することができます。
☆『格と相関関係にある動詞の形態』☆
このように定義されると、
上の2)〜4)も次のような構文上の変化(【 】内に記述)があるのでヴォイスに含まれることになります。
2)使役態
  「◯◯ガ××ヲ〜スル」
  「△△ガ◯◯ニ××ヲ〜サセル」
 【新たに△△を登場させると、××ヲ→××ニ、スル→サセル】
3)可能態
  「◯◯ガ××ヲ〜スル」
  「◯◯ガ××ガ〜デキル」
 【××ヲ→××ガ、スル→デキル】
4)自発態
  「◯◯ガ××ヲ釣る」
  「××ガ釣れる」
 【××ヲ→××ガ、釣る→釣れる】
5)自動詞・他動詞
  「◯◯ガ××ヲ壊す」
  「××ガ壊れる」
 【××ヲ→××ガ、壊す→壊れる】
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[123] (2)自発態の位置付け 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/27(Sun) 09:43 <URL>

ここで、もう一度一般的な話しにもどります。
Xの定義の仕方によって<広義>と<狭義>という捉え方が可能です。<広義>ではA〜Cは含まれるが、<狭義>ではCは含まれないという見方です。
日本語のヴォイスも☆のような定義から1)〜5)のカテゴリーをたてることができますが、これは「格助詞の転換と動詞の形態の変化に相関関係がある」ということで<広義>にあたるでしょう。
ところが、その相関関係において、『統一された<規則性>がありかつ<生産性>もある』ことを考慮するとなると、<狭義>の見方ができます。
4)と5)だけ構文に具体的な動詞を書きましたが、これは語彙的に限られているということです。つまり、1〜3とくらべてその規則による生産性が低いと言えます。
自動詞・他動詞はすべての動詞についてペアが存在するわけではありません。しかも、その形も一つの規則で生産されるわけではありません。(例:「広まる→広める」のように-aruはいつも自動詞で-eruはいつも他動詞というわけではありません)
このようなことから、5)は1)〜4)が<文法的>なヴォイスであるのに対して<語彙的>なヴォイスであるとされます。(:語彙的に一つ一つ指定しなければならないということです)
つまり、5の自動詞・他動詞は『規則と生産性』という面でみると、ヴォイスと認めないという<狭義>の見方ができるわけです。
さて、問題の4)の自発態ですが、動詞の形態は自他動詞のそれと違って規則性があります(基本的には「可能態」から、一部は「受動態」から)。しかし、語彙に生産性がありません。このようなことから、自発態は<文法的>なヴォイスと<語彙的>なヴォイスの中間に位置するものだとみることができます。
おそらく、この微妙なところに位置してい自発態ということでその所属が問題とされたのだと思います。
ということで、結論ですが、
*上の☆の定義プラス『規則性』『生産性』があることも含めた<狭義>のヴォイスの場合には自発態は含まれない。
*『格と相関関係にある動詞の形態』ということだけでみた<広義>のヴォイスの場合には自発も自他動詞も含まれる。
となるでしょう。
以上、本文中に出てくる用語などは上記の参考図書で使われているものを拝借しましたが、<広義><狭義>という用語は使用されていません。でもそういうことだと思います。
もし、ご質問の意図が(2)ではなく(1)であったら、その旨お知らせください。
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[124] Re: (2)自発態の位置付け 投稿者:fumi 投稿日:01/05/27(Sun) 15:00

> もし、ご質問の意図が(2)ではなく(1)であったら、その旨お知らせください。
教えていただいてありがとうございました。昨日の問題はある大学の入試問題です。「現代日本語の文法にいて、ヴォイスとして「自発」というカテゴリーを立てるべきかどうかについてあなたの立場から論じなさい。立てる必要があるとする立場にたつなら、どのように規定すべきか、立てる必要がないとするなら、なぜ必要がないのか論じなさい」という問題であります。私の理解は
(2)の意図ですが、先生はどっちでしょうか?
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[125] 「自発」って奥が深そう〜 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/27(Sun) 17:00 <URL>

> 昨日の問題はある大学の入試問題です。
なんと大学の入試問題ですか?過去問というやつですね。
>「現代日本語の文法にいて、ヴォイスとして「自発」というカテゴリーを立てるべきかどうかについてあなたの立場から論じなさい。立てる必要があるとする立場にたつなら、どのように規定すべきか、立てる必要がないとするなら、なぜ必要がないのか論じなさい」という問題であります。私の理解は(2)の意図ですが、先生はどっちでしょうか?
う〜ん、大学の入試とうことであれば(、と言いながら別に確たる根拠もありませんが、)模範解答としては「たてる」立場でも「たてない」立場でもどちらでもそれなりに根拠が書かれていればOKということですよね。
でも、気になるのは「あなたの立場から論じなさい」という箇所ですね。
わたしの邪推(?)では大学の教官は日本語の特徴の一つである「自発」という概念の捉え方を受験者に問うているのだと思うんです。
ですから、「立てる」という立場で書くなら(2)を踏まえつつ(1)について下の(ア)と(イ)を論じるということになるだろうと思います。
(2)によって定義上自発というカテゴリーを立てることの意義を述べるだけにとどまらず、(1)について
(ア)自発態は形態上は「可能態」と同じなのに、それを区別してたてる必要はどこにあるのか?
注:自発態の一部「受動態」と重なり(「思われる」「偲ばれる」など)、あと特別の形をもつ「見える」「聞こえる」があり、自動詞から派生した「泣ける」などの例外があありますが、これらの扱いも問題です。
(イ)また、自他動詞のペアの「自動詞」と同じであるとも言えるが(:「割る」「割れる」/「焼く」「焼ける」など)、自動詞と区別して自発をヴォイスとしてたてる理由は何か?
などを書くことになると思います。
そうなると、だいたい内容は『形態』と『意味』の両面から自発態をたてる必要性を説くことになるでしょう。
先の投稿で紹介した『日本語のシンタクスと意味I』ではそのような視点で詳しく解説がありますので、ぜひご覧になることをお薦めします。
これを読むと、自発態を立てない立場より立てる立場のほうが書きやすいのではと思えてきます。
(最後の動詞は自発態でしたネ(^_^; どうしても自発態で判断を曖昧にしてしまう、これって悪い癖すかネ)
私も今回の投稿があって、久しぶりにこの本を読んでみましたが、けっこう奥が深いですね。最近はモダリティばかり考えることが多かったのですが、これを機にヴォイスも勉強し直そうかと思っています。
また、報告お待ちしています。
この手の問題を過去に経験したことがあるという方がいらっしゃいましたら、ぜひレスをお願いします。(^o^)/~
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[126] Re: 「自発」って奥が深そう〜 投稿者:fumi 投稿日:01/05/29(Tue) 01:00

> また、報告お待ちしています。
ありがとうございました。まだ、十分理解できないですが、一度紹介していただいた本を読んでみます。
ところで、「健作は和子と愛し合っている。」、「僕は彼と1つ釜の飯を食い合った仲だ」というような相互性動詞を持つ文はヴォイスにおいての位置付けはどうなりますか?前述したヴォイスの5つのカテゴリーの中でどっちも含まれていないようですが…
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[128] ヴォイス性の広がり<上> 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/29(Tue) 08:59 <URL>

fumiさん、こんにちは。
新たなご質問を読んで、ヴォイス性の広がりというテーマで以前なにか読んだことを思い出して、探してみたところ、ありました!
『日本語学』2000年4月臨時増刊号「新・文法用語入門」に早津恵美子先生(東京外国語大学外国語学部教授)が文法の基礎概念のコーナーで『現代日本語のヴォイスをめぐって』というタイトルの小論(p.16-27)を寄せています。
先の投稿では寺村氏の著書の内容をまとめてみましたが、早津氏の小論では日本語のヴォイスも英語と同じようにまず、受動態と使役態をヴォイスの中核であると位置づけてそれ以外の形式がどのように広がっているのかが書かれていています。
内容としてはこちらのほうが例の試験のテーマとしては適当かなと思いました。幸い、新たなご質問の相互動詞「結婚する」は「〜しあう」にも触れられています。(ラッキー!)
寺村氏は(事態の捉え方が基本であるとしながらも)構文と形態によってヴォイスを定義しているため、受動態、使役態、可能態が文法的なヴォイスとして、自他動詞が語彙的なヴォイス、その中間に自発態があるとしていましたが、早津氏はまず、事態の捉え方(→注:<下>の最後に引用あり)であるとし、それが文法的なカテゴリー(構文、形態上の変化をともなう)であるとしています。
そのために、ヴォイスらしさの中心に位置するのが受動態と使役態で、その周りに可能態と自発態、さらには(語彙的なヴォイスとしての)自他動詞があり、さらに形態的な制約をゆるめていくことで、「してやる」「してもらう」などの授受動詞を補助動詞とする文があり、さらに構文上の制約もゆるめていくと、「てある」などの表現形式や視点がことなるが同じ事態を表す「教える−教わる」「貸す−借りる」などの動詞があり、さらに周辺にいくと、ご質問の相互動詞が登場します。
ということで、<相互動詞>は早津氏によると、ヴォイス的なものをもつが周辺的なものであると結論づけています。
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[129] ヴォイス性の広がり<下> 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/05/29(Tue) 09:00 <URL>

☆「自発態」と「相互動詞」がどのような理由で中心から離れるのか
小論であるため、どのような理由で「自発態」が中心から離れるのかは記述が十分ではありません。構文、形態上は受動態と似ているが、可能文も自発文も『ガ格で表される動作対象は主語とはいいにくく、主語はニ格名詞(動作主)だと考えられることなどから、可能・自発に受動と同じヴォイス性をみとめることはできないだろう』(p.22)としています。(これは「主語」が何かということもからんでやっかいな気が・・・)
ちなみに相互動詞がヴォイス的な性格があるものの周辺に位置するとする理由は、主語に関して「AがBと」「BがAと」「AとBが」のように選択がされることから言えば、ヴォイス性が認められるが、動詞の形態がいずれも同じ(「愛する」ならどの主語でもやはり「愛する」ということ)であるから、形態的に大きく異なるからだとしています。(こちらの説明はすっきりしていて分かりやすいです)
注:この箇所はポイントとなる定義の部分なので引用しておきます。
<引用開始>:p18の「ヴォイスの規定」より
日本語においてヴォイスとは、事態の叙述に際して、動詞の表す動作(や感情)の主体・相手・何らかの関係者といった「事態要素」を、どのような「文要素」(主語・補語・修飾語など)としてとらえるかにかかわる文法的なカテゴリーだということができる。
<引用終了>
この小論を読むと、先の投稿で(1)の問題としたこと部分についていろいろ情報を提供してくれそうです。
早津氏の小論も入手できるようでしたらぜひご覧になってください。
(どちらも必要であればお送りしますので、メールでお知らせください)
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[130] Re: ヴォイス性の広がり<下> 投稿者:fumi 投稿日:01/05/31(Thu) 02:49

相互性についての問題は過去問ではなく、ただ『日本語学を学ぶ人のために』玉村文郎編のなかヴォイスのタイプについて相互性も含まれて書いてありますので、それで疑問があったわけです。ご丁寧に答えていただいてありがとうございます。早津恵美子氏の論文も一度探してみます。昨日、寺村氏の本を借りてきましたが、わたしにとってはちょっと難しいです。これからゆっくり読んでいきます。また、いろいろ教えてください。よろしくお願いします。
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[134] 出版社は? 投稿者:fumi 投稿日:01/06/01(Fri) 00:48

先日紹介していただいた『日本語学』という雑誌ですが、出版社はどっこでしょうか?
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[136] Re: 出版社は? 投稿者:Oyanagi 投稿日:01/06/02(Sat) 07:35 <URL>

> 先日紹介していただいた『日本語学』という雑誌ですが、出版社はどっこでしょうか?
出版社は「明治書院」です。月刊ですが、例のものは臨時増刊号です。
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