(つづきです)
■第二段階
ところが、はたして、この「が」はどういう「が」なのかと疑問に思う点があることも確かです。それは日本語の母語話者が直感的に感じるように、そこに〈逆接〉の意味と〈順接〉を読み取るからだろうと思います。そして疑問をいだかせる張本人は、「いい(です)」という述部です。(3)以外は、ちゃんと+か−の評価がわかる形容詞(形容動詞)が使われていますが、これだけが「いい」が使われています。おそらく、日本人は、「〜が、いいです」という文型から、二つのタイプの〈逆接〉を読み取ります。
ここでは、便宜的に、〈逆接〉のつながりを次のような3つのタイプに分けて考えておくことにしましょう。
「Xですが、いいです」
(A)Xがマイナス評価と、「いいです」というプラス評価の組み合わせ。
(B)Xから通常「よくない」という評価が予想されるが、実際は「いい」という評価である
(C)Xから通常予想されるマイナス評価の事態があることは認めるモノノ、当然とこととして「いい」という評価である。
Aは8課の練習の目的で、Bが通常の逆接で、Cはやや特殊は逆接です。
BとCの違いは次のような対立する文を考えるといいでしょう。
「いいです」は(9)(10)(11)のように反対の形容詞でも文は成立しますが、前件と後件のつながりは異なります。
(9)A社の車は、高いですが、いいです。
(10)B社の車は、高いですが、悪いです。
(11)C社の車は、安いですが、いいです。
どのような関係で前と後ろが繋がっているかを、表に出てこない部分をあぶりだしてみましょう。
【 】の部分が隠れている内容です。
(9)→A社の車は、高いです【から、なかなか普通の人は買えないのです】が、【車[の品質]は[当然]】いいです。
(10)→B社の車は、高いです【から、[品質が]良いと予想されます]が、【車[の品質]は】悪いです。
(11)→C社の車は、安いです【から、[品質が]悪いと予想されます】が、【車[の品質]は】いいです。
このような含意を考えると、どれも〈逆接〉の「内容」を含んでいますが、そのタイプが異なることがわかります。
(10)(11)がタイプ(B)で、(9)がタイプ(A)です。
(9)の文は、実は(12)のような〈順接〉内容と接近しています。このような事情も混乱する要因の一つでしょう。
(12)A社の車は、高いから、[当然品質は]いいです。
以上、まとめると次の2点になります。
★第8課の練習問題では、「そして」との対比として「が」が導入されているので、「が」については、〈逆接〉の意味のつながりまでは踏み込む必要がない。「高い」と「いい」もプラスとマイナス評価の組み合わせのレベルで処理できる。
★もし〈逆接〉のつながりを考えると、「〜が、いいです」という構文は、二つのタイプの〈逆接〉のつながりが想定され、一方は〈順接〉とも接近していて混乱を招きやすい。
最後に、比較のための例文を追加しておきます。
(13)あの俳優は、ギャラは高いですが、演技はいいです。=Cタイプ
(14)あの俳優は、ギャラは高いですが、演技はへたです。=Bタイプ
■蛇足
今回は「が」に絞って書きましたが、「〜。そして〜」も前の内容と後ろの内容とが因果関係をもつような単語になると、「そして」が使いにくくなる場合があります。つまり、〈順接〉〈逆接〉のつながりが意識されてしまう場合です。これについては、過去ログを既に読まれているようですが、また別の意味で指導上の注意が必要かと思います。(触れないで済むように練習する例文を吟味するのがいいでしょう)
例えば、上の(13)は、マイナスとプラスなのでAタイプのレベルで考えても、「ギャラは高いですが、演技はいいです」となって、問題ありませんが、(14)はタイプAのレベルで考えれば、マイナスとマイナスで、「ギャラが高いです。そして演技がへたです」となるはずですが、この文は日本語としてちょっと不自然な感じがします。このような内容の場合、逆接の文脈が読み込まれて、(14)のように言うのが自然だと考えられます。
こんなふうに考えてみましたが、いかがでしょうか。ご参考になれば幸いです。 |
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