たまきさん、勉強部屋の掲示板へようこそ。管理人のoyanagiです。
問題の出典がなかったのですが、日本語教育能力検定試験のための問題集でしょうか。ご返信の際には出典の情報をお願いします。
さて、ご質問の件ですが、「解説」にあるとおり、<「こと」に置き換えられる>かどうかという視点で問題を解くのであれば、解答どおり2になると思います。ただ、たまきさんが疑問に思ったように、4に「こと」が使えないと言いきるのもどうかなと思いました。まず文法の整理をしておきましょう。
■4の文について
このような(文章問題ではない)単純な選択問題文法問題は、日本語教育で一般に認められている文法から外れるものが出るとは思えないので、ある程度信頼されるもので知識をまとめておくのがいいでしょう。例えば、『初級を教える人のための日本語ハンドブック』(スリーエーネットワーク)の19章「埋め込み表現」では、「こと」しか使えない場合、「の」しか使えない場合について詳しく解説が書かれています。このような知識をあらかじめ持っていると、(持っているがゆえに失敗することもあるのですが、)役に立つでしょう。
----引用開始(p.178)ただし、丸数字は〈〉数字に変換------
<「の」しか使えない場合>
〈2〉後ろに来る述語が「待つ、手伝う、じゃまする、写す」などある事態に合わせて行う動作の場合
(15)子供が寝る{×こと /○の}を待って、電話をかけた。
(16)このパソコンを運ぶ{×こと /○の}を手伝ってください。
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つまり、
★「手伝う」という動詞の場合には、「こと」は使えない
というわけですが、参考書の例文とたまきさんが挙げた例文を比べると、ちょっと違うことに気がつきます。参考書のほうは、まさに<その場で手伝う>ことが連想される文脈ですが、「留学するのを手伝う」といった場合には、このような<現場における同時性>のようなものが薄れます。つまり、この同時性が感じられるなくなるほど、「こと」が入り込む余地が広がるという理屈になります。実際、googleで"ことを手伝う"と入れて検索すると、けっこうヒットします。ですから、問題集の問題4は、はっきりと<現場における同時性>を連想できる文にすべきだったと思います。
■2,3,4の文について
上述の参考書では、「の」の用法として、「名詞の代わりをする「の」(準体助詞)」(第3章の p.32-33)と「埋め込み表現」を区別して扱っています。この二つの区別を知っていると、問題の例文1と5がこれに近い用法で、2,3,4が埋め込み表現における<名詞化>する「の」の用法だと考えるだろうと思います。ですから、設問が、単に【「の」の用法】となっている場合に、このような問題文にするのが、はたして適当かという疑問はあります。
その一方で、準体助詞にしても、1,5のように連体修飾節になっている場合は、2,3,4のように「埋め込み表現」で節を名詞化する場合と、「の」を被修飾名詞とする連体修飾節になっている点では同じだと考えて、その違いを「こと」との置き換えが可能かどうかに求めるという出題の仕方もありうるのかなと思います。
ということで、2,3,4についてまとめれば、次のようになるでしょうか。
★同じ点:埋め込み表現で、「の」は節を名詞化する働きをしている。
★違う点:名詞化するにあたって、
2は「の」も「こと」も使える
3,4は「の」は使えるが、「こと」は(通常)使えない
※「撮影する」は「写す」「(絵を)描く」と同様、<現場のおける同時性>が強くイメージされます。
■まとめ
以上をまとめると、節を名詞化する「の」と「こと」について、どちらか一方しか使えない述語について知識をまとめおく。そして、準体助詞の用法と名詞化の「の」の違いをまとめておいてはいかがでしょうか。前者については、上で少し解説しましたが、後者については、(この二つが非常に近くなって同じ用法として考えることも可能だと書きましたが、)やはり次のような文の中で「の」の用法は違うことを見分けられるかは重要なことだと思います。
1)私がこれを盗んだのを、だれに聞いたんですか。
2)私が盗んだのを、だれにあげたんですか。
1)は節の名詞化で、「の」は「こと」にも言い換えができます。2)は準体助詞の用法で「盗んだの」は「盗んだもの」を意味していて、「こと」には言い換えができません。
いろいろと書きましたが、ご参考になれば幸いです。 |
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